1章 第15話
「お前たち、なにをボケっと突っ立っているんだっ?! すぐに後を追うぞ!!」
フェンにそう言われ俺たちはギルドから外へと飛び出すが……獣人の男とペリシアの姿はもう何処にも見えなかった。
一瞬で獣人が姿を消した事に唖然とし、多々の脚が停止する。
「獣人族って、こんな早く移動することが出来るのか?」
俺が呟くと、アネータさんが落ち着きのある様子で口を開く。
「獣人族は高い身体能力を兼ね備える戦闘部族なんですよ……」
どうりでもう視界に映らないわけだ。
俺が納得していると、アネータさんは辺りを見回しながら続けて唇を動かす。
「あの、気づいたことがあるんですが……町を見回してみてください」
俺たちは指示に従い多方向を見回した。
何かに気付いたのだろうか、フェンが少し驚いて、
「そう言われてみれば、町が破壊されるなどの被害が全くでていない……」
その言葉を耳にし俺とセリカも、やっと事態に気付く。
それにしても、獣人族はなぜ町に攻めてきたんだ?
ペリシアに向かって姫とか叫んでいたし……。
俺が云々顔をしかめて考察していると、セリカが焦った口調で、
「ねぇ、早くペリシアを助けに行かないと!」
そうだ、早く助けに行かないと!
確か、国に戻るとか行っていたな……。
とりあえず、町の冒険者などに聞き込みなどをすれば獣人国の場所へ辿り着くのは容易だろう。
セリカを伴って無計画に歩き出した俺だったが、アネータさんは背後を付き添うように数歩進んで立ち止まり、
「あの、提案を一つ宜しいでしょうか?」
「あ、はい」
俺その場で立ち止まりアネータさんの提案とやらに耳を傾ける。
セリカも同様に耳を傾けている。
「ありがとうございます」
アネータさんは小さなお辞儀をすると続けて、
「それでは……提案というのは、今日は一旦宿屋などに戻るというものです」
「え?」
俺は仲間を助けに行かないという提案に耳を疑った。
すぐさま聞き間違いではないかと、聞き返す。
「ペリシアの救出を明日へ引き延ばすと言うことですか?」
「そうです」
返答された言葉は先程と意味は変わらなかった。
つまり、聞き間違いではないと言うこと。
だが、アネータさんのことだ。 自身の命が惜しくて助けに行かないなどという訳ではなく、何か作戦があるのだろうか?
俺はアネータさんを見つめて、アネータさんは俺を見つめていた。
俺は静寂に包まれた空気を打ち消す一声を発する。
「あの、なぜ今直ぐに救出へ行かないんですか? 一秒でもはや……」
「今行ったところでどうなるんですか?」
アネータさんの落ち着きのある一言で、俺の煽るような声が途中で掻き消される。
その後もアネータさんは冷静に唇を動かす。
「今、私たちが何の作戦も無しに行ったところで獣人の大群に敗北するのがオチだと思います。 それに、獣人族の男性がペリシアさんを連れ去る時に微かに放った言葉を覚えていますか?」
俺はこくりと頷き、
「覚えています。 確か、誰かに国が支配されているとか……?」
自信なさげに言うと、アネータさんが淡々とした声で、
「そうです、獣人国が何者かに支配されている可能性があるのです。 そしてつい最近、『イリビィート』という六魔柱が一つの国を侵略しているという噂があります」
それなら、尚更早く助けに行かないと……。
俺が苦悩している中、アネータさんは淡々と続ける。
「そこで、一旦宿屋などに行き作戦を立てつつクエストで疲労した身体を休めるというものが私の提案です。 ペリシアさんの救出成功確率は少なくとも今行くよりは上がると思いますが、どうでしょう?」
最後にアネータさんは語尾と共に首を傾げ、同意を求めてきた。
提案は正論。
それに口調や表情から、俺やセリカの命を心配していると感じ取ることができる。いちゃもんを付けることはできない。
「……わかりました」
俺が素直に提案へと賛成すると、セリカとフェンの口からも同意を表す言葉が発せられた。




