5章 第52話
テップルのうるさく注意してくる様を前に、イリビィートは眉をひとつ動かさず呟く。
「心配しなくても大丈夫よ。貴方よりも、私たちの方が強いと思うから」
この見下す発言を鼓膜に響かせたテップルは、非力そうな両手の拳をシュシュっと胸元で構えながら、真っ赤な顔で言い返す。
「な、なんだと!? 僕は、王宮騎士団なんだぞ! あまりナメた口をきいてると、痛い目に合わすぜ!?」
威嚇する行動に、イリビィートは軽蔑しながら視線を変えて唇を静かに開く。
「……ミネル。とりあえず、この街の観光でもしようかしら?」
「おいっ、僕のことを無視するな!!」
「なにかしら? 執念深い人は、嫌われるわよ?? もしかしたら、既に周りの人から嫌われているのじゃないのかしら?」
会話を拒むように勢い良く発されたテップルの言葉へ対して、イリビィートは多少に眉を曲げて機嫌悪く言った。
「……」
テップルは返事を忘れ、ただジッと、自分自身の足元へと視線をゆっくり下ろす。
落胆した反応を目前に、笑えない芸に興ざめしたかのような表情で、イリビィートの喉から声が小さく漏れる。
「……あら、図星だったようね。申し訳ないわ。……本当に」
「うん……。大丈夫だよ。気にしないで」
元気無さげに俯き言葉を返すテップルに、アマーロがトドメを刺すかのように横から口を挟んで言う。
「その様子、絶対に気にしてるわねぇ」
「ゔぐぅ……ッ!?」
実際に強がりをしていたテップルの喉から、小さく声が漏れた。
そんな時。
「ゔぅ……。誰か、助けてぇ、ください。誰か、誰か……」
建物が建ち並ぶ路地の方から、女性であろう者が救いを求めている声が、ぼんやりと皆の鼓膜に響いた。
刹那。
「今の声……。近い。誰かが、助けを求めている!」
途端にテップルは、キリッと目付きを変化させて、声が響いてきた方向へと走り向かっていく。
この行動を目前にシュティレドは、ミネル達に滑舌良い口調で伝える。
「僕たちも行こう! もしかしたら、今回この街に来た目的を達するものかもしれない!!」
「えっ……目的を達するもの??」
ミネルが疑問を抱く中、皆はテップルの背後を駆け脚で追い掛けはじめる。
「ちょ、皆んな……! 待ってくれよ!?」
少々の遅れをとって、ミネルも皆を追い掛けて脚を動かす。