5章 第51話
「えっ!? ウチのこと知らないの!?」
目を大きく見開いて驚きながらドルチェは、首をかしげるユンバラへと大きな声で言った。
この反応を前にユンバラは、無言でコクリと頷いた後に呟く。
「え……。俺たち、どこかで会ったことある?」
「えっ、ないよぉ」
疑問が鼓膜に響くなりドルチェは、ポカンと小さな口を開いて言い切った。
そんな瞬間。
「おいっ、お前ら!? 早くこの街から出て行くんだ!!」
顔以外の全身を白い鎧で包んでいる一人の男兵士が、家々が立ち並ぶ街路を勢い良く走り、ミネル達が船を停める港まで突然やって来た。
この行動を船上から見ていたミネルは、唐突な発言に戸惑いながら口を開く。
「えっ……! 街に入るのに、許可証とか必要だったのか!?」
この問い掛けに兵士は、多少早口で返答する。
「いや、普段この街に入るのに許可証などは要らない。だが……今、この街では異常なことが起きている。見て分かる通り、街人達が原因不明に石化しているんだ。君たちも石化したくなかったら、早々に此処を立ち去るんだ」
兵士が多少強気な口調で言い切るなり、ユンバラが納得いかない表情で呟く。
「いや、急に立ち去れって言われても……。そもそも、お前は誰なんだよ?」
ユンバラから質問を受けた兵士は、堂々と誇らしげにドヤ顔になって答える。
「僕は、王宮騎士団に所属しているテップルだ! まぁ……王宮騎士と言っても、まだ見習いだがな」
この発言を目前に、ユンバラは納得した様子で頷く。
「そうか、王宮騎士見習いなのか。そんな王宮騎士が、どうしてこの街にいるんだ?」
質問を受けたテップルは、急いで口を動かす。
「いやっ……この会話の流れで、それ聞く!? 石化した人々とこの街を救う為に、王都から派遣されたんだよ! 三日前……この街の住人の一人が、慌てた様子で王都まで駆けて来て言ったんだ。『街が大変なことになっている! 私たちを助けてくれ』とな!! だから、僕は此処に来たんだ!!」
質問の返答を聞き取ったユンバラは、更に問い掛けをする。
「そうなのか? お前、一人だけで来たのか??」
「いいや、三十人ほどの仲間たちと一緒に来た。そんな仲間の中には、英雄的な存在の聖騎士様も一人居るんだぞ!! まぁ……今この街に居るのは見習い騎士である僕だけで、他の皆んなは街の外へと、石化の元凶を探しに調査探索へと出かけているがな……」
見習い騎士なテップルの言葉へ対して、ユンバラの隣に立っているドルチェが、ニッコリと輝かしい笑みを浮かべて言う。
「置いて行かれちゃったんだね! うふふっ!!」
「うるさいっ!?」
嬉々と笑い声を漏らすドルチェに赤面して言い返すテップルを余所に、ミネルとシュティレド、そしてイリビィートとアマーロが、船上に船長だけを残して街へと降りる。
この行動を視界端に気付いたテップルが、声を荒げて注意をする。
「ちょっ、お前ら!? なんで降りてきた!? 早く船の上に戻れよ!!」
注意してくる叫び声なんか御構い無しに、船長が船上からミネル達に伝える。
「俺はお前らの用事が済むまで、仮眠室とかで休憩しているからな! 用事が済んだら教えてくれよ! その瞬間に、再び大海原へ出航をするからな!!」
言い終えるなり船長は、仮眠室へと向かってユックリ歩き始めた。
この様子を前にテップルが、顔を真っ赤にして焦り唇を動かす。
「本当に、この街から出て行ってくれよ! これ以上、被害者を出したくないんだ!!」