5章 第49話
「さぁ、ドルチェ。次こそは、シッカリと見ていて頂戴……」
「うん! 分かったぁ!!」
アマーロの言葉に、ドルチェが嬉々とした声で返答するなり、切り株の上の戦いが開始する。
まず攻撃を仕掛けたのは、アマーロの虫だ。頭に目立つ尖った二本のツノで、ミミズの身体を勢いよく挟んだ。
負けじとミミズも長い身体全てを使って、二本のツノに絡み付き抵抗する。
そんな決闘をジッと見つめながら、アマーロがポツリと呟く。
「……コレは、勝ったわぁ。ドルチェ、きっと私の勝利よぉ。この勝負が終わったら、また一緒に暮らしましょうねぇ……」
「おい、それ……負けフラグじゃん」
ミネルは、心中に感じた言葉を思わず口に出してしまった。
刹那。
切り株の上で絡み合っていたミミズが身体を大きく捻らせて、アマーロの虫を場外へと大きく吹っ飛ばした。
「いやぁぁああああーっ!?!? 嘘でしょっ!? 私の可愛い横綱ちゃんがぁぁああああーっ!!!!」
アマーロが、顔を真っ青にしながら声を荒げて叫ぶ。
そんな様子を前に、ミネルはとても申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになった。
『横綱』というのは、虫に付けたアダ名なのだろう。
そういうことを思うと、更に申し訳ないという気持ちが増幅した。
……アマーロに、なんて声を掛ければ良いのだろう。『勝つ気は無かった』とか言うのは、冗談でも避けておこう。逆ギレされて、精気を一気に吸い取られるかもしれない。
内心で色々と考えながらミネルは、アマーロを宥める為に口を開こうとした瞬間。
「ミネルの勝ちー!!」
ドルチェが満面の笑みを浮かべて、審判を下した。
……追い討ちだ。ドルチェ、追い討ちをかけやがった。
ミネルはそんなことを感じながら、アマーロの姿を横目でチラリと確認してみる。
「わっ、私の……虫相撲、無敗記録がぁ。こんな男に……!! うわぁぁああああーっ!!!!」
……無敗記録って、なに!? てか……この人、虫相撲にどんだけ情熱注いでるの!?
当初の印象からは想像もつかないアマーロの取り乱す姿に、ミネルが驚きながら若干に引いていると、ドルチェが更に追い討ちをかける。
「それじゃあ、お姉ちゃん! バイバイ!!」
アマーロに手を振りながら、ミネルの身体にピタリと抱きつきはじめた。
この行動を瞳にシッカリと捉えたアマーロが、ミネルへと悲しみに暮れた声で呟く。
「貴方、私の無敗記録だけじゃ飽き足りず……。妹まで、奪い取るつもりなのねぇ」
「いや、どっちも要りません! 無敗記録も妹さんも、両方ともお返しします!! お願いとして、僕を夢から覚ましてくれるなら!! というか、もう現実世界に戻して!! マジで、早くっ!!」
ミネルが本音までサラリと言い切ると、アマーロがジッとした顔で再び呟く。
「私の無敗記録と妹には価値がないから、要らないですってぇ……?」
「いや、そんなこと言ってないだろう!?」
本音がサラリと出てしまったかと一瞬焦ったが、考える限り『価値がない』とかいう言葉を口にはしていない。
堂々と言い返すミネルに抱きつくドルチェも、追うように唇を動かす。
「そうだよぉ! ウチには、価値がシッカリとあるよぉ!! お姉ちゃん、言ってたじゃん! 可愛いは、正義なんだよってっ!!」
「そ、そうよね……! 可愛いは、正義」
……この姉妹。思考がヤバい。って、ん? 無敗記録の価値は、どうなの??
ミネルは目前の会話に引き気味になりながらも、空気が一旦落ち着きを取り戻したことに一安心した。
と。
アマーロが、ポツリと呟く。
「あっ……。ドルチェを貴方に任せる代わりに、私も付添人として貴方と共に行動するわぁ」
「おい、ちょっとまて。今サラッとなんて言った?」
ミネルが聞き返すと、アマーロはメンドくさそうに再び口を開く。
「ドルチェの付添人として、貴方について行くって言ったのよぉ。とりあえず、夢から覚まさせてあげるわぁ」
……えっ。結局、俺がドルチェを引き取る事になったの!? えっ、じゃあ、無敗記録も!?
ミネルが色々と感じる中、アマーロは右手をスッと胸元まで伸ばしパチンと指を鳴らした。
否や。
白い光が足元から噴き出てきて、皆の身体を包み込んだ。