1章 第14話
武装した獣人族が町の正門前に居ると聞いた冒険者達は興奮した様子で、
「なんだと!? この俺が始末してやる!」
「俺たちがこの町を護ってやる!!」
等々の叫びを上げ、次々と足音を立てギルドから飛び出して行く。
現状況を前に俺が戸惑っていると、隣から勇者の小さな独り言が聞こえてきた。
「六魔柱の一人が獣人国を支配しているという噂は本当だったのか……?」
獣人国を支配!? なんだよその噂……?
それと六魔柱って……?
六魔柱という言葉が気になった俺は、腕を組みながら考え事をしている勇者へと訊く。
「六魔柱って何なんだ?」
「六魔柱を知らないのか!?」
唐突な質問に目を丸くして驚く勇者だが、俺を馬鹿にすることなく六魔柱の存在を教えてくれた。
「まず、あそこを見てみろ」
勇者が指をさす先には、掲示板が見える。
「掲示板が六魔柱とどう関係あるんだ?」
「違う! 掲示板の直ぐ右隣の壁を見てみろ!!」
そう言われ、急いで掲示板右隣の木製壁へと視線を移す。
瞬間……似顔絵が描かれた、ボロボロな六枚の張り紙が視界に入る。
古過ぎる所為か劣化で文字が消え掛け、何が書かれているのか分からない。
俺が、とても年季の入って擦り切れている紙と睨めっこをしていたら、勇者が得意げに口を動かす。
「アレは、世界手配されている六魔柱の国際手配書だ」
「そうなのか……」
六魔柱……年季の入っている六枚の国際手配書を見る限り、長い間捕まっていないというのを感じ取れる。
それと微かにだが、懸賞金額を表す数字のゼロが沢山確認できる……。
深々とそんなことを考えていると、俺の横に立っているセリカが会話に割り込んできた。
「ねぇ勇者、結局六魔柱ってなんなの?」
勇者は遠くの手配書へと顔を向け、落ち着きのある口調でこう告げる。
「六魔柱とは『魔王』に深き忠誠を誓った、六人の魔人だ」
不安げな顔をしながら勇者は続ける。
「数年前にオレは、六魔柱の一柱『アフェーラ』に闘いを挑んだが……少しの抵抗をすることも出来ずに敗北してしまった」
そんな言葉を耳にしたセリカが眉を八の字にして、
「え? 勇者ってそんなに弱いの??」
疑問を投げかけられた勇者は顔を真っ赤にして声を荒げる。
「今の流れから察して!? ねぇ、分からなかった?? 六魔柱の力が強大過ぎるんだよ??」
セリカは何も言わずに勇者の必死に訴える顔を凝視続けて、数秒が経過したあたりで、
「うん? ……へぇー」
「いや、信じて!?」
勇者は怪訝な表情へと変化した。
「それよりも勇者、はやく町の正門に行かなくて良いの??」
話を切り替えるセリカへと何か色々ツッコミたそうにしている勇者は、
「そうだな……それとオレの名前は勇者ではなく『フェン』だ」
冷静を装い、落ち着いた口調で自分の名前を名乗る。
そういえば、さっきからペリシアの存在感が無いのだが……。
隣のペリシアへと顔を向け、
「え? ペリシア……」
ペリシアは曇った瞳で俯き、両手を力強く握り締めていた。
この町に獣人族が攻めて来ているんだ。 同種族のペルシアはそりゃ不安と悲しみで襲われるか……。
そんな時だった。
「姫! 姫様!! 一体何処に居られるのですか!?」
鉄鎧で体を包み赤髪に狼のような耳を生やした筋肉質の男が一人、入り口からギルドへと入ってきた。
容姿からして、獣人族。
それに血だらけの冒険者を一人、片手に引きずり歩いている。
「姫様! 何処にいるんですか!?」
さっきから『姫様、姫様』と、迷子の子供を探すように叫んでいるがどうしたんだ?
てか、怖いな。 隠れるか。
俺は獣人に見つかる前に姿を隠せそうな場所を探すが、
「ウギャアァァアアー!!」
セリカが大声を発したおかげで気付かれてしまい、
「ん? そこに居るお前ら、姫様の居場所を知っているって、姫様!?」
獣人が勢い良く此方へと顔を向けてきた。
やばいやばい、超やばい。 なんかコッチに視線向いているんですけど……。
俺は自分一人でも助かるようにと祈りながら、獣人に背を向け必死に脚を動かしはじめる。
やばいやばい、逃げなきゃ死ぬ。 逃げ切れるかな? 今どのくらいの距離感が有るんだろう?
俺は獣人の男へと視線を移動させ距離感を確かめようとしたが……。
「アレ? なんで誰も襲われていないんだ?」
そもそも獣人の男はギルド内の誰一人も襲う気は無かったのだろうか?
入り口の前で泣いて笑みを浮かべていた。
「ひ、姫様……」
ん? 姫様??
獣人の男の視線の先にはペリシアが立っている。
と、
ペリシアが驚愕の表情で、獣人の男へ問う。
「な、なぜ此処まで来たんだ……? お前たちは自分の命が惜しく無いのかっ!!?」
え? なんかペリシア怒ってる??
眉間に沢山の縦線を立てて怒鳴るペリシアへ獣人の男が言った。
「もう良いのですよ……姫。 一緒に帰りましょう……そして抗いましょう。 突如姿を現し、我々の国を乗っ取ったあの女を……」
獣人の男は手に持つ血だらけの冒険者を投げ捨てると、一瞬でペリシアの前へと移動し、
「行きましょう、姫」
太い右腕にペリシアを抱きかかえる。
「ちょっと、イキナリなによ!! 誰か助けてっ!!」
獣人の男はペリシアの叫びと共に、ギルドから飛び出し姿を消した。