5章 第47話
黄金の島に到着するなり、ミネルの背後を追うように歩いていたドルチェが言う。
「じゃあ……ウチは、審判をするねぇ!! 良いでしょ、お姉ちゃんっ?」
「良いわよぉ。それじゃあ、審判の役目を任せるわねぇ……」
女性は問い掛けに返答するなり、ミネルの方へと視線を向けて唇を動かしはじめる。
「そういえば、自己紹介をまだしていなかったわよねぇ? 私の名前は、アマーロ。ドルチェの実姉よ」
アマーロがこう言い終えて口を閉じるなり、ミネルも自己紹介をしようと口を開いてみる。
「俺はミネルって名前で――……」
「あー、別に自己紹介とかしなくても大丈夫よぉ。私、貴方に興味は無いから」
アマーロが、ミネルの自己紹介に声を被せて、穏やかな口調で呟いた。
この発言を前に、ミネルは怒りを覚えながら思う。
……俺だって、お前の事に興味はねぇよ!?
こんなことを内心に感じていると、ドルチェの元気良い声が響き渡る。
「ねぇねぇ! 闘わないのぉ? 早く、闘おうよぉ!!」
「そうねぇ。ドルチェの言う通り、そろそろ闘うとしましょう。お兄さん……」
ドルチェの声を耳にしたアマーロはミネルに呟くと、金に輝く森の中へ向かって足を進めはじめた。
「ちょっ、何処に行くんだよ!?」
突然の不明確な行動にミネルが急いで声を張って引き止めようとすると、アマーロが森へ進み続けながら少々強気に答える。
「早く貴方も付いて来なさいよぉ。じゃないと、戦闘ができないじゃない」
「えっ、森の中で戦闘? なんで態々そんな狭いところで戦わなきゃいけないんだ……」
「なんでって……虫取りで勝負するからに、決まっているじゃない。夢の中だと、痛みを感じなくて決着がつかないのよねぇ」
「そ、そういえば……夢の中だと、痛みを感じないんだったな」
ミネルはそれだけ返答すると、黙ってアマーロの背後を付いて歩くことにした。
「ねぇ、待ってよぉ」
ドルチェも急いで、森の中へと足を踏み入れる。
そんなこんな皆が正面を向いてズンズンと森の中を進んでいる中……ドルチェが悪戯めいた笑みを浮かべて、隣を歩いているミネルの腕袖をグイッと摘み小声で言う。
アマーロに声が届かないように、小声で話しているのだろう。
「うふふ! ねぇ、ミネル? ウチ、虫がいっぱい居そうなところ、知ってるんだ……!」
「……へぇ。そうなのか?」
別に勝つ気がコレッポッチも無いミネルは、興味無さ気に大人しく言葉を返した。
こんな返答に対してドルチェは、輝かしい笑みを浮かべ小さな声で答える。
「うん! 例えばねぇ……此処とかっ!!」
ドルチェはそう言いながら、道端にあった少々大きめな金に輝く石の裏をひっくり返した。
刹那。
ひっくり返った石の裏に潜んでいた多量の虫の姿が、ウジャウジャと露わになる。
「うわっ、グロ!?」
鳥肌を立てながら思わず叫んでしまったミネルを前に、ドルチェは「ふぇ……?」っと目を点にしながら首を傾げる。
「どうしたの……?」
「いや、どうしたって……。お前、虫とか平気なのか?」
「うんっ、平気だよぉ! それにコレは夢だから、もっと平気だよぉ!!」
平気と連呼するドルチェを前に、ミネルは溜息を深く吐きながら心中に思う。
……はぁ。早く、夢から覚めないかなぁ。