5章 第43話
「到着しました! 此処が、我ら町が誇る、港ですよ!!」
目的地へ到着して道案内を終えるなり、マニュタは輝かしい笑顔を浮かべながら手を広げて、クルリと可愛らしく一回転した。
「おぉー! 此処が港かぁ。スゴイ沢山の船が停泊しているな!!」
辺りを見渡しながら、ミネルは興奮する。
そんな興奮を打ち消すように老人が、イリビィートを隣に申し訳なさそうに唇を動かす。
「あ、あの……。こんな状況の中、すまないんだが。私も船に乗るのかな? 生まれ育ったこの大陸を離れたくないんだが……」
この発言を耳にするなり、シュティレドが穏やかな笑みを浮かべて言う。
「大丈夫だよ。爺さんは、隣の港町にでも家を買ってもらいなよ。ねぇ、聖女ちゃん……隣町へ行く爺さんの護衛を頼んだよ! 斬り裂き魔を捕まえた報酬として、シッカリと家を買ってあげるんだよ」
「えぇ……。うゔぅん……分かりました」
マニュタは不本意ながらも、渋々に頷いた。
瞬間。
シュティレドは何か思い出したような口調で、老人へと穏やかに口を開く。
「あっ、そういえば……。報酬として、狐っ子。いや、イリビィートを貰うことにしたからね! もう報酬を返そうとかは、何にも考えなくても良いよ」
「チョッと、待ってほしいわ! どういうことかしら!?」
イリビィートが困惑しながら、唇を大きく動かした。
続けて、老人も困惑しながら喋る。
「そんなことが、一体いつ決定したんだ? 狐っ子は、納得しているのか?」
「拒否権は無いのさ。それにさっき、初代聖女の前で……僕たちの仲間だ的なことも言っていたし。爺さん、安心して。イリビィートは、シッカリと僕たちが守るから」
「そ、そうか……。なら、安心だな」
老人がシュティレドの言葉に納得しつつある中、イリビィートが大きく口を開いて文句を言う。
「勝手に納得しないでほしいわ! 私が居なくなったら、アル爺は誰が守るのよ!?」
「ねぇ。人類種と魔族や魔物の寿命の違いは、理解しているのかな? あまり厳しいことは言いたく無いけれど、守るという目的が終わった時……どうするつもりなんだい? それと。君が守らなくても、爺さんを守ってくれる人は他にも沢山いるさ。聖女ちゃん、とかね?」
「えぇっ、私ぃぃ……。まぁ、守ってあげますよ。聖女ですからね」
突然に名指しをされたマニュタは、嫌々ながらも言葉を受け入れた。
と。
「狐っ子……。広い世界を見て来い。それが、お前にとっても幸せだろう」
老人が喰いしばるような思いを胸内に押さえつけながら、穏やかな笑みを浮かべてイリビィートに伝えた。
「……本当に良いのかしら? せっかく再会したというのに、寂しくないのかしら?」
突然の発言にイリビィートは少々驚嘆しながらも、小さく唇を開いて問い掛けた。
この質問に老人は微笑を浮かべる。
「寂しくないといえば、嘘になるな。まぁ、そんなことよりも……。お前から、そんな言葉が聞けて良かったよ。この町に到着する前、お前は万雪山の麓で言っていたよな。村に残ると……。今の言葉から察するに、やはり私の為を思っての発言だったんだな」
「ちょ、チョッと……。勝手な解釈は、やめてくれないかしら!?」
イリビィートは頰を赤らめながら、老人へと言葉を返した。
「狐っ子。ありがとうな」
「あたしの方こそ……」
老人とイリビィートが、お互いに照れながら言葉を交わし終えるなり……ユンバラが威勢良く声を発する。
「なぁなぁ! どの船に乗るんだ!?」
「この町から立ち去るということ対して、なんの躊躇いも感じてなさそうだな!?」
ミネルは思わずツッコミを入れてしまった。
刹那。
ユンバラは、ミネルへ言葉を返す。
「俺がこの町に来たの、五日前だからなぁ……。そんなに思い出はないかな?」
「えっ、なに……そうだったの!?」
「そうだが、なんか問題あるか?」
「い、いや……」
そんなこんなミネルとユンバラが会話を広げているとマニュタが、停泊している一隻の大きなキャラック船へと走り向かって行く。
「皆さん、早く来てください! コレ、私の船です!!」
……流石、権力者の娘。立派な船を所有しているな。
ミネルはマニュタの元へと辿り着くなり……目前に停泊している、大きく美しい木製な船を、見上げるように眺めた。
と。
「おい、マニュタちゃんじゃねぇか! って……今は、聖女様か。どうしたんだ?」
船の上から一人のゴツいオッさんが、顔をひょっこりと出して現れた。
「あのあの、船長さん! この人たちを船に乗せて、此処とは別の大陸に、連れて行ってあげてほしいの!!」
「おぉう! そんなことぐらい、お安い御用だ!! 皆んな、早く乗れ乗れぇ!!」
マニュタに船長と呼ばれるオッさんは、ミネルたちに船へと乗るよう指示をした。
「あ、はい!!」
ミネルたちは元気よく返事を返すと、船上から降ろされたロープをすぐさま握ってよじ登る。
イリビィートを最後に皆が船床へと足底を付けるなり、港に残っているマニュタと老人が手を振りはじめた。
「皆さん! お元気でー!!」
「狐っ子。そして皆んな、身体に気をつけてなぁー!」
こんな感じで見送られながら、船は港から大海原へと旅立つ。
……とりあえず寝たい。万雪山で少ししか寝れてないから、すごく眠い。
船に乗るや早々、ミネルは睡魔に襲われはじめた。
「あの、この船の何処かに仮眠室とかって有りませんかね?」
「あー、仮眠室なら船内の一番手前の部屋だぞ」
「ありがとうございます」
ミネルは船長であるオッさんに尋ねるなり、寝るために仮眠室へと向かうことにした。
そして、部屋に着くや否。ミネルは倒れるように、目前に確認できたベッドへとうつ伏せに転がる。
「うぅーん! 移動しながら寝れるって、最高だな」
こんな事を呟きながら、ミネルは瞳を閉じた。
――――――――。
――――。
――。
「――ムシャムシャ。美味しいなぁ」
「ふぇ!?」
突然に鼓膜の奥深くに響いた言葉で、ミネルは飛び起きるように目を覚ました。
……どのくらいの時間、寝ていたのだろうか?
そんな事を思いながら、ミネルは辺りを見渡してみる。
刹那。
自身の身体の上に馬乗りな感じで座っている、小さな黒翼と尻尾が生えている可愛らしい幼女が瞳に映った。
「えっ……どちらさま?」
「大丈夫だよぉ! 安心して!! コレは、夢の中だから! 証拠として……ウチが馬乗りになっているのに、なんの重さも感じないでしょう?」
覚えたてのような口調で話す幼女の言葉に、ミネルは何故かついつい納得をしてしまう。
「たしかに、なんの重さも感じない。コレは、夢なんだな」
「うん! そうだよ!!」
幼女は馬乗りになりながら、ミネルに輝かしい笑みを浮かべて言い切った。




