5章 第39話
「よかったら……僕たちも協力するよ」
「えっ……?」
シュティレドの善意ある一言に、マニュタは表情を引きつらせた。
対して、ユンバラはニコニコと笑みを深めて口を開く。
「ありがてぇなぁ! それじゃあ早速、斬り裂き魔とやらを探しに行こうぜ!!」
「そうだね」
シュティレドは穏やかに微笑み、ユンバラの言葉に同意した。
そんな中、ミネルが唇を小さく動かして言う。
「斬り裂き魔って、さっきの女だろう? なら、見つけるのは簡単そうだな」
この発言に、ユンバラが目を見開いて驚く。
「えっ!? お前、斬り裂き魔の正体を知っているのか!」
「ま、まぁ……。さっきまで、目の前に居たからな」
「なんだ? じゃあ、斬り裂き魔と戦ったりしていたのか?」
「そんなもんかな?」
ユンバラの問い掛けに、ミネルは若干カッコをつけながら丁寧に答えていく。
と。
「なぁ……君たち。とりあえず、壁に空いている小さな穴の行き先を辿って進むことにしないかい? 斬り裂き魔は逃げる時、壁に糸を刺していただろう?」
イリビィートの隣に立っている老人が、壁に触れながら呟いた。
呟きを鼓膜に響かせたミネルは、少しばかりニヤついて答える。
「奇遇だな。俺も丁度そう思っていたよ」
ミネルのこの言葉に続いて、ユンバラが少々驚きながら口を開く。
「えっ、斬り裂き魔の正体は……もしかして、さっき俺の前を通り過ぎて行った、血だらけの女だったりするのか!?」
「ハッキリと断定はできないけれど、多分そうだと思うよ」
シュティレドが穏やかに答えると……ユンバラは眉間にシワを寄せて、身体をプルプルと震わせはじめる。
怒りと悔しみを感じているのだろう。
「くっ、くそぉ……。あの女の所為で、俺は斬り裂き魔だと思われた。そして、あの女が……斬り裂き魔だったのかよ」
「お、おい……。まだ、お前が目にした女が斬り裂き魔だったと断定した訳ではないぞ? そんなに不機嫌にならなくても……」
ミネルが若干に緊張を感じながら、宥めるように言うと……ユンバラは深く一息吐いて呟く。
「分かってる……。でも、許せないんだ。斬り裂き魔のことが。俺の人生に対して、少しでも邪魔をした斬り裂き魔が!」
ユンバラは言い切ると、悔しそうに右手を拳骨にして、近くにある壁を一発殴り叩いた。
刹那。
壁は打撃を食らった場所中心に、パラパラと崩れながら小さくヒビ割れていく。
「なな、なんちゅう怪力野郎なんだよ……」
ミネルは壁に刻まれた拳の跡を目に焼き尽くしながら、唖然と目を丸くした。
そんな様子を前にしながら、ユンバラは威勢良く両拳を握りしめる。
「斬り裂き魔……待ってろよ! 絶対にこの手で、仕留めてやる!!」
「その調子です!」
マニュタが調子に乗せるように、煌めく笑みを浮かべた。
そんな時だった。
先程ユンバラが殴り叩いた壁が、勢い良く崩れはじめた。斬り裂き魔が逃げる時に刻んでいた穴の所為で、壁は脆くなっていたのだろう。
と。
壁の向こう側に居た、斬り裂き魔であるパシーエの姿が露わになる。
「え……?」
パシーエは血だらけな姿で、唖然と立ち尽くしながら、ミネルたちを見つめた。
同様にミネルたちも、唖然と立ち尽くしながら目を丸くする。
「あ……。誰かと思えば、斬り裂き魔の女じゃないの」
イリビィートが、ポツリと呟いた。
こんな状況下、パシーエが唇を小さく震わせて言う。
「き、君たち……中々の大雑把なんだね。態々、壁を壊して……別通路に居るボクを見つけてくるとは」
「やはり、お前が……斬り裂き魔だったのかぁ!? お前が目の前を通り過ぎた所為で、俺は斬り裂き魔だと疑われているんだ!」
どうやら……ユンバラの目前を通り過ぎた、血だらけな女の正体は、斬り裂き魔で間違いなかったらしい。




