1章 第13話
勇者はアネータさんに背中を軽く押され、俺の目の前に来ると、
「なぁ、お前も六魔柱が現れたと噂が立っている所へ行こうとしているのか?」
「はぁ?」
なんだよ、戻って来たと思ったらイキナリ訳のわからないこと言いやがって。
俺はシラを切り勇者の顔から目を逸らすと、瞳にアネータさんの不気味にもニヤリと笑う姿が映った。
もしかして、アネータさんがなにか仕組んだのか?
「おい、聞いているのか!?」
「あぁあああーっ! うるせえなぁ!! さっきからなんだよ!!」
いろいろ考えている時に空気を読まず何か言ってくる勇者へ叫ぶ。
すると勇者は後ろを振り返り、アネータさんの顔を見つめて、
「もしかして、嘘をついたのか?」
問われたアネータさんは、勇者から目をそらし脂汗をかきながらコクンと頷いた。
そんな行動を見届けた勇者は、
「……くうううう……!」
涙目で悔しそうに呻きつつ、視線を俺の方へ戻すと乱暴な口調で口を動かす。
「別に騙された訳じゃねぇからな! そもそもお前、六魔柱を知らなそうな顔をしてるもんな!!」
「……騙されたって認めろよ」
俺が皮肉交じりで言うと、勇者は涙目で俺を睨んだ。
「お前、オレをバカにしているのか?」
背負う大剣に手をかけ始めている。
どうやら本気で怒らせてしまったらしい。
「べ、別に騙そうとして騙した訳じゃないんですよ!」
重々しい空気を嫌ったのか、アネータさんが慌てた様子で勇者へ言った。
嘘だ、俺は六魔柱なんて知らないもん。
勇者が上目遣いでアネータさんへ答える。
「ほ、本当に信じて良いのか……?」
「はい、信じてください! 私は二人だけでは六魔柱を倒すのは無謀だと感じたのですよ!!」
「そうなのか!」
アネータさんは、微笑む勇者へ満面の笑みを浮かべた。
いや、勝手に俺たちを巻き込まないんでほしいのだが……てか、六魔柱ってなに?
そんなことを感じていると、泣き喚くセリカの声が後方から聞こえてきた。
「うぇぇえええええん! 聞いてよぉおおおおおおん!!」
……とりあえず、話は聞いてやるから黙ってくれ。 周りの目が痛い。
「えぇぇええええぇー!?」
――しばらくして、セリカの泣く理由を知った俺は叫び声を上げてしまった。
「本当かっ!?」
再度、嬉し泣きのセリカに説明を求める。
「本当よ! キングプラントを八十六匹倒したから、高額報酬を貰えたのよ!! ゔぅ……私頑張った甲斐があったわぁ」
「いや、お前ほとんど何もしてないだろ!」
説明の後の一言に全力で俺はツッコむ。
しかし、何故『何匹討伐した』という細かな数字が分かるのだろう? 自分ですら何匹倒したかなど把握していないのに……。
と、
「あのぉー、コレ報酬です!」
カウンターのおばさんが大きな胸を弾ませ、重たそうに札束の詰まったカバンを両手で持ってきた。
うわ、デカイ胸が揺れてる……って、ん? あの手元の紙はなんだ??
おばさんのカバンを握り締める手元を見てみると、少し大きめの用紙が確認できる。
なんだろう??
その正体は、おばさんが目の前に来てから判明した。
「はい、証拠です!」
大金の入ったカバンを俺に手渡すと共におばさんに『八十六』と記された用紙を見せつけられた。
「あの、なんですかこれ?」
おばさんの手元の紙を指差して質問すると、隣に立っているペリシアが唇を動かす。
「もしかして、知らないの?」
「え、なにを?」
俺が首を傾げているとペリシアが続けて言う。
「知らなかったのか。 まぁ良いやぁ、アタシが説明してあげる。 この紙に書かれている数字はキングプラントを討伐した数でね、ギルド職員の人達が特別な魔法を使って正確に討伐数を紙に表したのよ」
え、なにそれ、魔法ってハイテク過ぎ!
説明を終えドヤ顔なペリシアの前で、心中魔法を褒め称えていたら『ガチャンッ!!』と、出入り口の扉が思いっきり開かれる音がギルド内に響いた。
おいおい、こんな乱暴に扉が開かれる音を今日で二回は耳にしているんだが……いつか絶対に扉が壊れる日が来るな。
俺は何処のどいつが無駄にデカイ音で扉を開いたのか、自身の目で確認してやろうと出入り口の方へと顔を向けるが、見えたのはモヤシみたいな体格の明らかに冒険者ではない男だった。
いや、もしかしたら容姿に反して物凄く強い冒険者かも……。
胸元を確認するが、バッチは一切見当たらない。
てか、息切れと汗の掻いている量が半端な。
瞬間、
男は荒れる息を整え思いっきり息を吸い込むと、吸った空気を身体から全て吐き出すように、
「町の正門前に、武装した獣人族が三十人程いるぞぉぉおおおおお!! いつ攻撃して来るか分からない、冒険者様……この町を守って下さいぃいい!!!!」
名一杯叫び、助けを求める怯えた声音がギルド中に轟く。




