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冒険という名のパラダイス!!  作者: めーる
第5章 いざ、魔王討伐!!
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5章 第37話

「お前ら、どうしたんだ!?」


「ゆ、油断した……。突然、背後から襲われたんだ」


 ミネルが前のめりで質問をすると、ベイリーンが呟くように答えた。


「そうなのか……」


 ……薄暗く狭い空間。俺たちには戦いづらい不利な場所だが、目前の女は動き慣れている場なのだろう。


 ミネルがそう考えていたら、指先から糸を垂らす女が大きく笑い声を発する。


「キャハハハハハハッ!! ボクの名前は、パシーエ!! この町で噂されている斬り裂き魔の正体さ!」


「いきなり自己紹介なんて……。一体なんなんだ、コイツ」


 ミネルが唖然と驚いていると、パシーエが笑いを堪えるように再び唇を動かす。


「ふふっ、フフフフ!! ボクの正体を知ってしまったからには、この場から逃がしはしないよ……。よし、殺す理由ができた!! だから、斬り裂いて良いよね!! 早く、君たちの、真っ赤なお肉を見させ――」


「そういうことだったのか……! 突然に、自己紹介をしてきた理由は……殺す言い訳を作るためだったのか!!」


 ミネルは大きく口を開いて、糸でブンブンと風を切るパシーエの言葉を遮ると……地面に倒れ込む二人を咄嗟に抱えて、出口を目指して走りだす。


「とりあえず……安全な場所に移って、二人を縛っている糸を解こうか」


 シュティレド達も、続いて走りはじめる。


「あの……。もう少し、丁寧に運んで欲しいです」


「そんなこと、今はどうでも良いだろう!?」


 マニュタがミネルへと文句を呟く中、背後からパシーエの声が響いてくる。


「キャハハハハハハッ、ボクから逃げ切れると思っているの? 本気? マジで、思っているの??」


「うるさいなぁ!!」


 二人も抱えて走るなんて無謀だ。そんなことぐらい把握している。でも、路地裏から出ればこちらの勝ちだ。いくらなんでも、人が大勢存在している通りでは暴れはしないだろう。


 ……表通りまで、距離はあと十歩ぐらいか。


 あまり深く路地裏内へと、踏み込んでいなかったのが幸いだった。


 二人を抱えて走るとなると、少しの距離を駆けるだけでも、体力が吸い取られるように消費していく。あまり長くは走れない。


 そんなこんな思いながら、ミネルが懸命に両脚を動かしていた時だった。


「逃がさないっ!」


 不意に後方から長い糸が伸びてきて、目前双方に確認できる建物の壁が崩された。


 壁が崩れたことで生まれた瓦礫が、ミネル達の足元を邪魔する。


 別に飛び越せない高さで、瓦礫が正面に立ちはだかっている訳ではない。


 しかし……ミネルの走る勢いは掻き消された。


「……イテッ!?」


 不意に足元に現れた瓦礫に躓いて、地面に勢い良く転んでしまった。


 刹那。


 抱えられていた二人は、仲良く地面に投げ飛ばされる。


「ううっ……痛いですぅ! もっとシッカリと、周りを見て走って下さいよ!!」


 マニュタが頬を膨らませて、ミネルへ文句を投げ飛ばした。


「文句言うな――」


「キャハハハハハハッ!! ボクがもっと、痛みという快感を与えてあげるよ!!」


 ミネルが言い返そうと口を動かすなり、パシーエが笑い声で遮った。


 と。


「それじゃあ、逆に……。僕が、君に快感を与えてあげるよ」


「えっ?」


 唐突に視界端から響いてきた言葉に首を傾げているパシーエに、狭い空間の中で黒鱗翼を羽ばたかせるシュティレドが思いっきり突っ込んだ。


「キャアアアアーッ!?!? 痛い、痛い、痛い、痛い!! なに突然! 急に突っ込んでくるなんて、非常識!! 肋骨、絶対折れた!!」


 先程まで『痛みが快感』などと語っていたパシーエが……口から血反吐を吐いて、眉間にシワを寄せながら蹲る。


「ぐっ……。男が女のボクに手を出すなんて、最低ッ!!」


「褒め言葉かな? ありがとうね」


 シュティレドは、地面に蹲るパシーエへと穏やかな笑みを浮かべると……倒れているミネルの右腕を引っ張って起き上がらせた。


「大丈夫かい?」


「擦り傷を少々。まぁ……命には別場はないから大丈夫だ」


「そうか」


 シュティレドはミネルとの会話にひと段落が付くと、ベイリーン達に向けて言う。


「今のうちに、解くよ」


「す、すまない……」


 礼を呟くベイリーンに優しく微笑みながら、シュティレドは身体を縛る糸に手を付けはじめる。


 と。


「キャ……キャハ。バイバイ。絶対に、復讐しに戻ってくる」


 皆の注目から外れていたパシーエが、力を振り絞って両腕を振り回し……手先の糸を周囲の建物に激しく刺しつけ、蜘蛛のように壁を這いのぼって姿を眩ませた。


「な、なんなんだよ……アイツ」


 ミネルが唖然しながら、壁に開いた小さな沢山の穴を見つめていると……イリビィートが声を発する。


「一応コレで、斬り裂き魔を成敗したってことになるのかしら?」


「えっ、うーん。いや、まだ――」


 丁度、身体の自由を取り戻したベイリーンは、返答に困り言葉を濁らす。


 そんな時。


「こ、コイツ!? もしかして……噂の斬り裂き魔かっ!?」


 裏路地のズッと奥の方から、驚き声が不意に響き渡ってきた。


「なんだ!? さっき逃げたヤツ、また人を襲っているのか!?」


 こう言いながらミネルは、声が発せられた方へ走って向かう。


「おい、待つんだ!?」


 ベイリーンも、追って走りだす。


 続いて、イリビィートや老人なども駆けはじめた。


 そして……声が発せられたであろう場所へ辿り着いた。


 なにやら、二人の男が言い合いをしている。


「おい、お前が斬り裂き魔なんだろう!?」


「だから、違う! というか、なぜ俺が斬り裂き魔なんだ!?」


「見たんだ! 先程、血だらけの女が……お前から逃げる姿を!! あの女を殺そうとしていたんだろう!?」


「誤解だ! あの女は、急に壁を這って現れて……俺の前を通り過ぎて行ったんだ!」


 桃色の短髪でツリ目な男は、責め口調な男へ……鋭い犬歯を剥き出しにして、必死に唇を動かしている。

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