5章 第36話
「そうです! 聖水の効果なんです!! どうですかっ、スゴいですよねぇ!?」
マニュタは自信満々に両腕を組んで、ミネルに返答した。
返された言葉を耳にしたミネルは思う。
……信じ難いが、聖女の態度から察するに、真実なのだろう。治癒能力は高いのは確認できたが、戦闘時はどうやって戦うんだ? ここは一度、町を出るのをやめて……聖女のチカラやらと、拝見させてもらうとするか。
考えを心中で軽く纏めるなり、ミネルはマニュタの元へ向かって歩くことにする。
そして……マニュタの元に到着するなり、ミネルは口を開いて言う。
「斬り裂き魔とかいうヤツを成敗する事が出来たのならば、聖女のチカラとやらをシッカリと認めてやるよ」
「上から目線が、少し気になりますが……良いでしょう! 斬り裂き魔を成敗してやりますよ!!」
マニュタは、少々攻撃的な口調で言い切った。
瞬間。
「「ぐわぁぁああああーっ!?!?」」
再び、町に悲鳴が鳴り響く。
今回は……男性二人の叫び声が、同時に重なって鳴り響いた。
そんな悲鳴を鼓膜に響かせたベイリーンは、唐突に目を見開いて悔しそうに言う。
「くそっ! 今晩で、六人が犠牲になった!! どうすれば良いんだ……」
「とりあえず……悲鳴が発せられた場所に、向かえば良いんじゃないのかな?」
悔しそうに歯をくいしばるベイリーンを目前に、シュティレドが当たり前のことを呟いた。
刹那……マニュタが、口を唖然と開いて呟く。
「そ、そんな危険なこと……出来るはず……」
「おい、さっきまでの威勢はどこに行ったんだよ?」
ミネルが冷静にツッコミを入れた。
すると、マニュタは口を大きく開いて早口で唇を動かしはじめる。
「申し訳ないです! 強がってました!! 怖くて、そんなこと出来ません!!」
「いや、なんだよそれっ!?」
真逆にひっくり返るような態度変化を目前に、ミネルの口から思わず驚きが溢れ出てしまった。
そんな中……シュティレドが、冷静な口調で皆へと呟く。
「そういえば……。僕たちが斬り裂き魔を成敗する事が出来たのならば、この町に有る家を貰えるんだったよね?」
「そうだが……」
ベイリーンが、多少に躊躇いつつ首を縦に振った。
続いてマニュタが、目を見開いて叫ぶように言う。
「えっ、なに!? そんな約束をしちゃっているの!!」
「えっ……あぁ」
どこか申し訳なさそうに、ベイリーンは頷いた。
そんな動作を瞳に焼き付けたマニュタは、顔を真っ赤にして叫び散らす。
「どうする気!? 家を購入する程のお金は、所持しているの!? この町で借金なんかしたら、とんでもないことになるのよ!! ぐぬぬぅぅ……。こうなったら、私たちが先に、斬り裂き魔を成敗するしかないのね」
「そ、そうだなぁ……」
元気を失った口調でベイリーンが返答するなり……マニュタは、急いで裏路地へと視線を移す。
「斬り裂き魔が、何処かへ行っちゃわないうちに……早く行かないと!」
「だ、だなぁ……」
ベイリーンとマニュタは会話を終えるとスグに、裏路地を目指して駆け走りはじめた。
こんな行動を前にして、イリビィートが悪戯めいた笑みを浮かべる。
「なんか……面白そうね。あたし達も、早く行きましょう」
「お、おう……」
ミネルの返答を合図にするように、ベイリーンを追って裏路地内へと駆け進む。
と。
「きゃああああーっ!?!?」
裏路地へと足を踏み入れるなり、マニュタの叫び声が鼓膜に響いてきた。
「どうしたんだ!?」
ミネル達は、目を凝らして路地裏のズッと奥を見つめてみる。
しかし……薄暗くて中々に状況が把握できない。
「なにが、起きたんだ?」
ミネルは首を傾げながら、更に目を凝らしてみる。
と。
暗い空間を駆け抜けるように……キラリと五本の線状に、光が輝いた。
「なんだ?」
ミネルたちは更に首を傾げながら、路地裏の奥へと進んでみることにする。
刹那。
「キャハハハハハハァァハハハハァッ!!!!」
甲高い笑い声を響き散らすように上げている、女が瞳に映った。
そんな女の指先には、風になびく針金のような長い糸が確認できる。
先程に……暗闇の中で線状に光っていた正体は、この糸だったのだろう。
そんなことを思いつつ、ミネル達は狭い路地内を見渡してみる。
と。
「た、助けて……」
糸で身体をグルグル巻きにされて地面に倒れ込んでいる、ベイリーンとマニュタの姿が視界に入り込んだ。