5章 第33話
ミネルと老人が、生理的に嫌悪感を抱いていると……。
「君たちは、旅のモノといった感じのようだね?」
視線を送ってきている男が、首を傾げながらユックリと近づいてきた。
「そ、それがどうしたんだよ?」
近づいてくる男にミネルは、若干に怯えながら問い掛けた。
瞬間、男はドヤ顏で胸を張り立ち構えて答える。
「この町は危険だ。早く立ち去るが良い!」
威勢の良い警告を鼓膜に響かせた老人は、スグに唇を動かして言う。
「そうだな! 早くここを立ち去ろう!!」
同意見なミネルも、便乗して口を開く。
「しょうがない! 早く、違うところに行こうか」
こんな二人を隣にして……イリビィートは頬を膨らませて、男へと文句を吐く。
「あたし達を追い出したいのかしら?」
「そんなことはないぞ! 君たちを守りたいから、警告をしているんだ!」
男は再び自信満々な表情で、偽善者のような口調で言葉を吐いた。
……なんだよ、コイツ。
ミネルが、多少にイラつきはじめてきた時だった。
「この町に居てはいけない理由が、何かあるのかい?」
シュティレドが、目前の男に向かって優しく質問をした。
否や……男は、右手を固く握りしめて拳骨をつくり、ハッキリとした口調で語りはじめる。
「この町の裏通りには、斬り裂き魔と呼ばれる者が潜んでいるんだ! 我は、そんな悪者を成敗する為に……この町に存在する! 君たちが、斬り裂き魔に傷付けられる場面を見たくない。だから……君たちは、この町から立ち去ってほしいんだ!!」
男が熱弁を終えるなり、シュティレドはニヤリと小さく笑みを浮かべて呟く。
「そうか……斬り裂き魔かぁ」
「そうだ。この町には、斬り裂き魔が存在する!」
男はシュティレドの呟きに、首を縦に大きく振って反応をした。
と。
「その斬り裂き魔とやらを僕たちが成敗したら、住まい提供とかしてくれたりするかい?」
突然にシュティレドが、とんでもない提案を男へ持ち出した。
不意な言葉に男は、若干に困りながらも口を動かす。
「別に良いが……。この町には、四人が広々と住める家は存在しないぞ?」
「大丈夫だよ。この町に移住しようとしているのは、この二人だけだからね」
シュティレドはそう言いながら、老人とイリビィートへと指先を向けた。
「えっ?」
目を点にする老人を前に、男は納得した様子で頷く。
「そうか、そうか! ならば、心配いらないな!! そんなことよりも……君たち、本当に、斬り裂き魔を成敗するのを協力しれくれるというのか!?」
「あぁ、協力するよ」
シュティレドが穏やかに笑みを浮かべて返答すると、男は更に気分を良くして声を弾ませる。
「それでは……力試しに、我の膝を地に付かせてみろ! このくらいのことが出来ないというのならば、足手纏いになるからな! 戦闘の準備は、良いか!?」
「あぁ、良いよ」
シュティレドが軽く返答するなり、男は背負う二本の剣を両手で素早く抜き取って言う。
「それでは行くぞ!」
「えっ?」
突然の状況に立ち尽くすミネルに、男は剣を振り回して襲い掛かってくる。
刹那。
ギラリと輝く剣先が、ミネルの右頬を掠った。
「痛ッタァァァァーッ!! 急に襲いかかってきて、なんだよ!? もしかして、コイツが斬り裂き魔なんじゃないの!?!?」
不意に攻撃されたミネルは、血が少々滲む頬の傷口を右手で抑えながら文句を叫んだ。
この文句に対して、男は剣先に付着した血を軽く振り払いながら言い返す。
「準備が出来たって、言ったよね?」
「いや、俺はなんにも言ってないよ!?」
「そうか……。まぁ、良い。四人で我に掛かってこい!!」
「ねぇ、話をシッカリと聞いてっ!?」
ミネルは……話を聞き入れようとしないで再び剣を振り回す男へ、困惑と怒りの混ざった叫び声を上げた。




