5章 第31話
「えぇっ、それは本当か!?」
老人は目を見開き、喜びと驚きが滲みでている口調で返答した。
この発言にシュティレドは、優しく微笑んで言葉を返す。
「本当だよ。依頼報酬を払ってくれるまで、何処までも付いて行くさ!」
「お、おぅ。そうか……」
若干に引き美味な様子で、老人は一言呟いた。
そんな中……。
ミネルに右手を掴まれているイリビィートが、地に着かぬ脚を宙でバタつかせて叫びはじめる。
「なにをしているのかしら!? 早く降ろしてほしいわ!! さもないと、ひどい目に合わせるわよっ!?」
こんな行動を視界端に、シュティレドが冷静に呟く。
「僕は……目的の場所に到着するまで、着陸はしないよ? けれども、君が地へと降りたいのなら止めはしない。君の自由意思を尊重したいからね」
「……どういう意味かしら?」
不意な言葉にイリビィートが首を傾げると、シュティレドは再びに口を開いて言う。
「そのままの意味だよ? 僕は目的地に到着するまで、地へと降りる気はない。だから……今すぐに降りたいのなら、君は飛び降りるしかないんだね」
イリビィートは……この発言を聴き終えるなり、下方へと視線を向ける。
刹那。
魔物や木々などが、米粒のように小さく見えた。
自分よりも背丈が大きいだろう魔物達が、米粒のような大きさで確認できる。
万雪山で例えるのなら……。現在、頂上付近の標高に位置しているのだろう。
雪風が騒がしい気流場所ではないから、こんなにも穏やかな空気を感じているが……。
それと、真上を見渡す限り……雲の方が地よりも、手が届きそうな気がする。
イリビィートは、現状を理解するなり……眉間にシワを寄せ、唇を小さく動かす。
「……しょうがないから、少しばかり付き添ってあげるわ」
この発言に、シュティレドはニコリと微笑んで言う。
「それが、君の意思なんだね?」
「…………」
イリビィートは無言で上の方を見つめて、深い溜め息を一つ吐いた。
と。
ミネルが、老人に向かって口を動かしはじめる。
「そういえば、爺さん。なんか、あやふやになってるけど……。どこに行きたいんだ?」
この質問に、老人はにこやかな表情で返答する。
「そうだった。まだ、答えを伝えていなかったな」
「あぁ……」
ミネルが頷くなり、老人は再びに口を開いて返答の続きをする。
「私が移り住もうとしている場所は……。此処から、少し西側に位置する港町だ。其処ならば……人の出入りが激しいので、スグに馴染めるだろうと思ってな」
「そうなのか」
「あぁ、そうだよ……」
老人が、ミネルの相槌に優しく言葉を返すなり……シュティレドが大きな声で言う。
「此処から西側の港町と言ったら、彼処しかないね! 全速力で、スグに向かうとしよう!」
「「おう!!」」
ミネルと老人は、元気よく返事をする。
――約二時間後。
まだ夜空に星々が散らばる中……。
「突然に質問を申し訳ないんだが……。此処は、治安が悪いで有名な港町なんじゃないのかね?」
西側に位置する港町の前に降り立つなり、老人が顔を引きつらせながらシュティレドに問い掛けた。




