5章 第29話
「狐っ子……。お前が、イリビィートなのか?」
不意な狐っ子からの告白に対し……ミネルの口から漏れ出るように、唖然とした言葉が発せられた。
この発言に狐っ子は、悪戯めいた笑みを軽く浮かべながら答える。
「そうよ……。あたしはイリビィート。コレが、本来の姿よ」
イリビィートは自らの口で、現在の容姿が本来の姿だと言い切った。
この言葉に……ミネルは驚きながら、唇を小さく動かして問い掛ける。
「じゃあ……なんらかの能力で、人類種の姿に変身をしていたってことなのか?」
「いいえ……。人類種の姿も、あたしの本当の姿よ」
イリビィートはこう伝えると、続けて口を動かして語る。
「三年前……。街人達に村が燃やされた日。あたしは、一人の少女と契約をしたの」
「契約?」
シュティレドが言葉に反応して、首を傾げた。
そんな行為へ対して補足するように、イリビィートは口を動かして続ける。
「身体を共有する契約。つまり……二人で一つに、一心同体になる契約ね」
語り終えるなり、イリビィートは静かに口を閉じた。
刹那……ミネルが冷静な口調で質問をする。
「なんで、そんな契約を結んだんだ?」
「もう一人のあたし。彼女が、生きたいと嘆き這い寄ってきたからよ。まぁ……結果としては、『記憶』と『身体』だけが残って、彼女の『意思』は消滅してしまったけれどね」
説明を終えると、イリビィートは静かに再び口を閉じた。
と……老人がなにかを思い出したかのような口調で、唐突に呟きはじめる。
「やはり、顔に見覚えがあったのは……気の所為でなかったのか!」
「そうね……誤魔化してしまって、申し訳なかったわ」
イリビィートは、老人の少し前の疑問へ対して誤魔化しをしていたことを……謝罪した。
そんな謝罪を目前に、ミネルが首を傾げて問い掛ける。
「なぁ……なんで、誤魔化していたんだ?」
「あら? 貴方、頂上で祠の中を見たわよね?」
ミネルの問いを鼓膜に響かせたイリビィートは、首を傾げて逆に質問を返した。
「えっ?!」
イリビィートの逆質問に、ミネルの肩がビクつく。
……えっと。祠の中には、確かお札が入っていたよな? なんか……呪いのお札的な感じのモノが、大量に。
ミネルは心中で記憶を振り返るなり、イリビィートの質問へ返答する。
「アレだろ? あの、長方形な紙のことだろう?」
「やっぱり……ちゃんと契約書を見ているんじゃないの。まぁ、見ていないとアヤフヤにするのも無理ないわよね。契約書を見られるということは……身体の大事なところをジックリと見つめられるということよりも、ハズかしいことなのだから。見てしまった本人も、羞恥心を感じること無理ないわよね」
……なんか、ごめんなさいぃぃッ!!
ミネルは言葉を聞き終えるなり、内心で土下座をするぐらいの勢いで謝罪をした。
そんな時だ。
「狐っ子……。お前、何枚の契約書を書いたんだ?」
老人が、落ち込んだ様子で呟いた。
この質問に、イリビィートは落ち着いた口調で一言ポツリと答える。
「三十二枚ぐらいかしら?」
「そうか……。まぁ、そのぐらいの枚数が必要になるような契約だもんな」
老人とイリビィートの会話内容に全く付いていけないミネルは、身を乗り出すような思いで問い掛ける。
「おい! その……契約書が何枚とかって、一体なんなんだ? 契約書の枚数が多いほど、どうなるんだよ!?」