1章 第12話
昼頃、クエストを終わらせギルド建物内へ入ると、俺は安心感を抱きながら疲労を言葉として形にする。
「ふぅ……やっと着いた」
そんな感じで溜め息を吐く俺に、セリカが、
「それじゃあ、私たちは報告に行ってくるわ」
それだけ伝えられると、クエスト完了の報告をしにアネータさんと共にカウンターへ小走りで消えていった。
残された俺は、同じく残り組のペリシアヘ問う。
「……どうする?」
「うーん。 次に受注するクエストでも選びに行こう」
「そうするか」
ペリシアから出た意見に同意し、俺たち二人はクエストを選ぶ為、掲示板へとユックリ向かう。
脚を動かし移動をしていると、
「帰還したぞっ!!」
『激しく扉が開かれた衝撃音』と『偉そうなことを抜かす騒がしい声』が重なって、後方のギルド出入り口側から突然聞こえて来た。
刹那、俺を除く周りの冒険者達が響く音の発生地へと瞬時に視線を移す。
やべ、入口の方を見るの出遅れた。
………………。
え? なにこの気まずい沈黙は……??
時間が凍結したかと感じる程、空間は静寂で包まれた。
数秒後、
「ウワァアアアーッ!! 勇者様が帰還したぞォオオオーッ!!!!」
「お帰りなさいませ! 勇者様ッ!!」
「お疲れ様ですッ! 今回の冒険譚も期待してますゼッ!!」
等々の歓声が其処ら中の冒険者から上がった。
え? 勇者?? なんか強そう!!
俺は勇者と盛んに褒められる者を一目でも見ておきたいと歓喜が送られる先へ、期待に胸を膨らませ視線を輝かせる。
が、
瞳に映ったのは、紫色の鞘に収められた大剣を背負う、桃色髪で小柄な女の子。
鎧などは装備していなく、布の服と軽装だ。
そして、まな板みたく平らな胸元には……金色のバッチ!?
しかし……えっ、あれが勇者? なんかデカい剣を背負ってるだけで弱そう。
そんなことを思っていたら、歓声を浴びる勇者が歓喜していない俺とペリシアに気付き此方へ指をビシと向けてきた。
「お前ら! 目が死んでいるぞ!?」
「「ふぇ!?」」
唐突な出来事に俺が戸惑っていると、勇者の人差し指に誘われて冒険者達の視線が俺とペリシア二人に集中しはじめる。
なんだか、すごく嫌な気持ち……。
心中不安な気持ちを抱いていると、勇者が偉そうにムカつく笑顔をみせ、
「歓声はどうした?」
俺に聞かれても知らん。
……なんだろう? コイツのこと、少しなら殴っても良い気がする。
俺は握りこぶしを作り、どのタイミングで殴り掛かりに行こうかと考えていたが、
「あの、もしかしてあの日の勇者様ですか?」
背後からの美しい声により冷静を取り戻す。
……あの日の勇者?
そう聞こえたので……急いで後ろを振り向くと、アネータさんが勇者を満面の笑みで、嬉しそうに見つめていた。
……地味にセリカの姿が見えないのは何故?
アネータさんは、少しばかり落ち着きの無い様子で続けて口を開く。
「やはり、私を助けてくれた勇者様ですよね!?」
「え……?」
勇者はしばらく質問に頭を悩ませるが、途端に両手を胸元でパチンと合わせ興奮した口調で、
「もしかして、一緒に大蜘蛛迷宮を攻略した弓矢使いっ?!」
何かを思い出したらしい。
アネータさんは何回も嬉しそうに頷き、背負っていた弓矢を手元に持ちだし正解だと伝える。
すると勇者はアネータさんに優しく微笑み、
「そうか……あの時はオレも助けてもらったようなもんだよ。 君の存在というものに……」
何を言ってやがるこいつ。
俺の時とは違いすぎるデレデレとした対応で……。
ん? なんでこいつ女なのにデレデレしてるんだ? そいや、一人称が『オレ』だったな……。
もしかして、
「お前、男なのかっ!!?」
思わず口から出てしまった俺の疑問に勇者は直ぐに反応し、
「オレを女だと思っていたのか? 男だ、覚えておけ」
落ち着きのある返答から予想するに、女だと勘違いされるのは慣れているのだろう。
それよりも、俺のほかにアネータさんと関係を持つ男がいるとは解せぬ。
嫉妬していると、
「そうだ、お前はもう下がって良いぞ? オレは此れから用事が出来たから」
勇者に虫ケラの様に追い払われる仕草をされる。
この、チビが……。
その後、ムカつく勇者はアネータさんへ近づき、小さな右手で色白の美しい腕を掴んだ。
一発蹴るぐらい良いよな?
俺を邪魔者とし、アネータさんの手を引っ張りギルドの外へ行こうとする……勇者の少年を蹴り飛ばすところだったが、隣に居るペリシアが「騒ぎになるよ?」と制止をかけてくれた。
再び冷静を取り戻し、勇者とアネータさんの姿を見てみると、何やら出入り口前で立ち止まって口論している。
しばらくして会話に決着が付いたのだろう。
アネータさんは笑顔で、不満を顔に描く勇者の手を引っ張り此方へと戻ってきた。




