5章 第27話
「どこに行ったんだ……?」
そんな事を呟きながら、ミネルが懸命に辺りを見渡し続けていると……シュティレドが老人に向かってポツリと呟きはじめる。
「ねぇ、僕がこの山に居る目的って……狐っ子を探すことなんだよね? だったら、もうこの場から立ち去っても良いのかな? 既に依頼を達成しているのだから……」
この空気を読まない発言に、ミネルが老人よりも先に返答をする。
「おいっ、今の状況を理解していないのか!? 爺さんが、目前の魔術師に命を狙われているんだぞっ!?」
別に怒ってはいないが荒々しくなってしまった口調を反省しつつ、ミネルは付け足すように続けて口を開く。
「というか……この状況で、どう立ち去る気なんだよ?」
刹那……シュティレドは、穏やかに笑みを浮かべて唇を動かす。
「辺りを見渡してごらんよ。もう……ここら一帯は、吹雪いていない。どうだい? この説明で理解できたかな?」
「あぁ……簡単に理解できた! 吹雪いていないから、空を飛べるって言うことだろう!?」
シュティレドは、ミネルの堂々とした口調を耳に響かせるや否……ニヤリと微笑みながら頷く。
「そうだよ。正解だね……」
そして、背中から大きな黒鱗翼を勢いよく生やし続けて言う。
「さぁ、早く行こう! 僕の腕に掴まって!!」
不意に自身の胸前まで伸びてきたシュティレド右腕を見つめながら、ミネルは口を閉ざして辺りを見渡す。
と、
狐っ子と老人の二人と、目が合った。
ミネルは老人たちの姿を見つめながら、無言を貫いて考える。
……このまま本当に、此処から離れても良いのだろうか?
ミネルが心中で葛藤していると、老人の叫ぶ声が鼓膜に響いてくる。
「お前たちだけでも、この場から逃げるんだ! 別に罪悪感など抱かなくても良い!! 目前にいるのは、煉獄の炎を操る魔術師……。このままでは、全員揃って全滅だ!! 私が少しの時間稼ぎをする。その間に、早く逃げてくれ!!」
刹那。
老人の声を荒げる発言に、シュティレドが物申す。
「申し訳ないんだけれども……。僕は、記憶が欠けているんだ。そこで、一つばかりの質問をさせて貰うよ。依頼に付きモノな報酬……。今回は、『前払い』か『後払い』のどっちなんだい?」
不意なシュティレドの質問に、少々戸惑いながらも……老人は一言ポツリと答える。
「後払いだ……」
「そうなんだね。じゃあ、報酬が未払いな依頼者から目を離すワケにはいかない。以後、気を付けておくと良い。魔族はね……報酬などについては、うるさい性格なんだよ」
シュティレドは老人に、こう言葉を返すなり……大きな翼を激しく羽ばたかせ、魔術師を目掛けて地面スレスレに低空飛行をはじめた。
ものすごい速度で一直線に向かってくるシュティレドを前に、魔術師は右手を天に伸ばして叫ぶ。
「ワタシは、王宮魔術師! 逆らう者は、人類種や魔族を関係なしに皆殺しです!!」
刹那。
王宮魔道士の右掌から、再び炎玉が生みだされる。
今回は……八つの炎玉が、つくりだされたようだ。
「コレで、人生を終わりにしてあげましょう!!」
八つの炎玉は……魔術師の一言を合図に、シュティレド目掛けて一斉に飛んでいく。
ミネルはこの光景を前に、思わず叫んでしまう。
「シュティレド、危ないっ!!」
そんな時だった。
「そのまま、突っ込んで良いわよ」
迷わず一直線に低空飛行を続けていたシュティレドを庇って……狐っ子が九つの尾で、炎玉を全て受け止めた。
この行動にシュティレドが、呟く。
「たしか……君は、再生能力が凄いんだよね?」
「えぇ……そうよ」
そんな会話の中、シュティレドは魔道士の腹の真ん中に物凄い速度で突っ込んだ。
計り知れない威力の体当たりを受けた魔術師は、口から吐血をしながら呟く。
「二対一なんて、卑怯じゃないんですか……?」
この言葉を耳に響かせたシュティレドは、微かな声で言う。
「僕は魔族だ。卑怯なんてモノは、褒め言葉さ」
「ゔぅ……クソですね」
魔術師は……捻くれた言葉を最後に鼓膜へ響かせるなり、白目を向いて地面に倒れこんだ。
気絶した魔術師を見つめながら、ミネルが言う。
「なんか、呆気なかったな……」
この発言に、シュティレドが笑みを浮かべ言葉を返す。
「こんな体当たりを避けれない、中途半端な人類種ごときに……負ける僕ではないよ」
「そうか……」
ミネルが納得して頷いていると、老人が狐っ子を見つめながら叫び声をあげる。
「おい、狐っ子! 尾に付いた炎は、どうするんだ!?」