5章 第25話
「なぁ、爺さん。なんか結構焦っているけれど……街人に見つかったら、なんか大変なことにでもなるのか?」
ミネルが一言、そう質問すると……老人は険しい表情で返答を開始する。
「狐っ子の存在を隠していたと疑われ、火炙り刑などにされるかもしれない……。かつて、村の仲間が燃やされたように」
この説明を聞いたミネルは、急速に焦りを感じながら老人に向かって言う。
「おいっ、それって……殺されるってことだよな!? 早く……あの街人らしき者達から、身を潜められる場所を探して隠れないと――」
ミネルが早口で唇を動かしている中、シュティレドが周辺を見渡しながら口を開く。
「ねぇ。あの大きな岩だったら、四人全員の身を隠せるんじゃないかな?」
シュティレドは言い終えるなり、雪に白く染まっている大岩を指差した。
この提案に、老人は若干に笑みを浮かべて答える。
「おぉっ! あの岩の大きさならば、全員の身を完全に隠せるな!」
こうしてミネル達は、急いで大きな岩陰に身を隠す。
そんな中……片腕に松明を持った二人組が、頂上を目指すように進行してくる。
吹雪く雪の所為で、ハッキリとした確認は出来ないが……白銀長髪で黄金の剣を腰から下げている美しい少女と、一人の青年が仲良く並んで歩いているのが分かった。
服装などの格好から判断するに、街人ではなく冒険者なのだろう。
と、
松明を持った二人組の会話が、ミネル達に聴こえてくる。
「ねぇっ! 本当にこんな所に来て、なにか意味があるの!? ものすごい寒いんですけれどっ!?」
白銀髪の少女が、責めるような口調で青年に言葉を投げた。
刹那……青年は覚束ない口調で声を発して答える。
「い、いや……。少し前にアイツから聞いた話だと、この山の何処かに多分居るんだよ……」
「アイツって、誰よっ!?」
返答するや否……再び少女に責められ、青年はため息を吐く。
こんな感じでズッと会話を続けながら……松明を持った二人組は、ミネル達の目前から姿を消して行った。
「おい、なんだったんだ……? 今の二人組??」
二人組の背中を遠目に、ミネルが唖然とした口調で呟く。
と、
シュティレドがこの呟きに被せてくるように、首を傾げながら言葉を吐く。
「今の二人組が持っていた松明……。こんなに強く吹雪いている中でも、消えずに激しく燃えていたよね……?」
シュティレドが疑問に頭を悩ませていたら、イリビィートが細々とした声量で言う。
「煉獄の炎……。万雪山からの激しい雪風に消されないようにと、麓の街に住む魔術師が作り出した炎よ」
「煉獄の炎……?」
説明を聞いて、ミネルは思わず反応をしてしまった。
すると、イリビィートが補足するように説明を開始する。
「燃え移ったモノを焼き尽くすまで、消えない炎よ。まぁ……作り出した魔術師は、消火が可能らしいけれどね」
「そうなのか……」
ミネルが納得して頷いていると、老人が岩陰から身を乗り出して声を発する。
「それでは、下山を再開するとしよう」
「あぁ……そうだな」
ミネルが一言返答するなり、皆は再び麓を目指して駆け足で脚を動かす。
と、
脚を動かすことを再開してスグの時……シュティレドが老人に向かって問い掛ける。
「そういえば……。麓に降りたら、また街に戻るのかい?」
この言葉に、老人は堂々とした口調で言う。
「いいや、戻らない。元々、長居をする気はなかったしな。証拠として、家に家具などを沢山に置いていなかっただろう?」
「ごめん、そこら辺の記憶は無いんだよね。でも本当に……全てのモノを置いて、家を立ち去っちゃっても良いのかい?」
シュティレドの心配が混じった質問に……老人は自身のズボンに付いているポケットに右手を突っ込んで、何かを取り出して答える。
「全部は置いていかないさ」
こう答える老人の右手には……一枚の下手くそな絵が描かれている紙が、筒状に丸められ握られていた。
狐っ子に描いてもらった、老人の似顔絵だ。
こんな会話をしながら走る老人を見つめながら……イリビィートは苦しそうに、悪戯めいた笑みを誰にもバレないように浮かべて呟く。
「本当に……バカよね」