5章 第24話
「チョッと待ってくれ、爺さん!? それは一体、どういうことなんだよっ!?」
ミネルは、先程まで沢山に抱いていた不安や恐怖などをスッカリと忘れて……爺さんに、問い掛けた。
刹那……老人は少し軽く息を吸って、ユックリと唇を動かし説明をはじめる。
「すまない、説明不足だったな……」
「あっ、おう……」
ミネルが軽く相槌を入れる中、老人は続けて唇を動かして喋る。
「家の前で、街人に盗み聞かれてしまっていたんじゃ……。早朝、お前さん達に依頼を申していた会話内容を」
「えっ? それと焼け死ぬが、どう関係しているんだ?」
ミネルが首を傾げて言うと、老人は補足するように口を開く。
「狐っ子という単語を聞かれてしまったのが……原因だ。まだ狐っ子が生存しているという可能性を知った街人たちが、再び山を燃やそうとしているんじゃ! 今晩……そう今だっ!! 現在、麓では……燃え盛るたいまつを片手に、多くの人達が、頂上の村へと向かって来ておるっ!!」
老人の口調は、一言吐くごとに……強く早く荒々しくなってきている。
そんな老人の様子を目前に、ミネルは宥めるように声を発する。
「ちょ、少し落ち着いてくれ……爺さん!! 現状はよく分かった。とりあえず、この家の奥にいる二人を呼んでくる!」
ミネルは口を閉じるなり、老人を玄関に入れて……急いで二人を呼びに向かった。
と、
会話をヒッソリと聴いていたイリビィートが、ミネルに悪戯めいた笑みを浮かべて言う。
「この山を立ち去らなければ、行けないのかしら?」
「あぁ……。そうらしい」
ミネルは頷きながら言葉を返すと、熟睡しているシュティレドの前に立って言う。
「おい、シュティレド目を覚ませっ!!」
ミネルはシュティレドの布団を剥がし取って、大きく叫んだ。
刹那……。
布団を剥がし取られたシュティレドは、機嫌悪く目を覚ます。
「ゔぅ、うーん? まだ暗いじゃないか」
シュティレドが、両目を擦りながら眠たそうに呟いた。
こんな様子でも御構い無しに、ミネルは急いでシュティレドに伝える。
「山が燃やされてしまうらしいんだ! 早く此処から、脱出するぞ!!」
「え……はぁ?」
戸惑うシュティレドを前に、ミネルは急いで玄関に立つ老人に伝える。
「スグに、山の麓に向かおう!」
この言葉を耳にした老人は言う。
「街人達に見つからないように、街とは裏側の道から下山することにしよう」
街人達に見つかったら、色々と面倒なことになるのだろう。
こうしてミネル達は、老人を先頭に下山を開始する。
そんな中、ミネルは気付く。
先頭を進む老人の身体が……雪などに濡れて、ボロボロになっていることに。
万雪山を懸命に登って来たという証拠であろう。
――下山をはじめて、数分が経過した頃。
「んっ、なんか煙臭くないかい?」
最後尾を眠たそうに駆けるシュティレドが、眉間にシワを寄せて呟いた。
瞬間。
老人が曇った表情で言う。
「多分、街人達が近くに来ているのだろう……。もう少しだけ、進む速度を速めよう」
この言葉を鼓膜に響かせたミネル達は、進行する速度を上げる。
そんな中、ミネルが疑問に思ったことを老人に問う。
「そういえば……爺さん。こんなに広い山の中で、よく俺たちの事を見つけることができたな」
この質問に爺さんは、シッカリと脚を進めながら答える。
「依頼を引き受けてくれた者を見殺しにしたくなかったのでな。見つけるまで、探すつもりだったよ」
「そうか……。ちなみに、どのくらいの時間を掛けて、俺たちのことを捜していたんだ?」
ミネルが多少に軽いノリで問い掛けると、老人は穏やかな笑みを浮かべて返答する。
「八時間くらいだな。もちろん、山を登ってくる時間を含めてだぞ。中腹部に居てくれて、助かった」
「は、八時間!?」
予想外な数字に思わずミネルは、口から驚きを吹き出してしまう。
そんなこんな皆が会話を広げている中……イリビィートだけは一切に言葉を発していなかった。
……自分の家などが建っているこの山を離れるのが、寂しいのだろうか?
不思議に思ったミネルは、イリビィートに向かって口を動かす。
「おい、さっきからズッと無口だけど……どうしたんだ?」
刹那、イリビィートは悪戯めいた笑みを小さく浮かべて言う。
「なんでも無いわよ。そんなことよりも……口を動かす暇があるのなら、脚を動かしなさい!」
「あっ、おう……!」
ミネルは若干に笑みを浮かべて一言に返答した。
と、
老人が首を傾げながら、イリビィートの顔を見つめて呟く。
「そういえば、お前さんの顔……。何処かで見覚えがあるんだが……?」
この疑問にイリビィートは、少しばかり躊躇った様子で答える。
「……きっと、気のせいよ」
「そっ、そうだよな……!」
老人は自身の疑問を掻き消すように、苦笑いを浮かべた。
そんな時だった。
シュティレドが……進行先へグッと人差し指を差し向けて、皆へ伝えるように言う。
「なんか少し遠くに、二つの赤い光が見えないかい?」
刹那。
この言葉のお陰で……燃え輝く赤い光に気付いた老人は、多少に焦りながら言う。
「もしや、アレは……。松明を持った、街人達じゃないか!?」