5章 第22話
「あの祠が、狐っ子と……どんな関係があるのかしら?」
イリビィートは……表情や態度を平常心に保ちつつも、内心は恐る恐るとミネルに質問してみた。
瞬間……ミネルは早口で答える。
シュティレドが、会話に割り込んでくる暇を作らないように……とてつもない速度で、唇を動かす。
「えっ、いやっ! あんな関係とか、こんな関係があるんだと思うよっ?! まぁ、とりあえず……祠の目前まで行ったら分かるよ!!」
本日何度目かも不明な嘘を吐きながらミネルは、一人先走って祠の前へと向かう。
……ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい。この後、どうすれば良いんだっ!?
ミネルは今後の打開策を、懸命に考えながら……祠の前へと駆け足で進んでいく。
そんなミネルの不安感を知ることなく、シュティレドとイリビィートの二人も……祠へと向かって小走りで進む。
一足先に祠の前へと辿り着いたミネルは、とりあえず考えることにした。
……ど、どうすれば良いんだ。なにか円満に解決する方法が、必ず存在するはずだ!!
思考を働かせながら周囲を見渡すこと数秒……。
ミネルは真後ろに、鈴音のように美しい声を感じる。
「祠の前まで来たわよ。本当に、狐っ子と祠に関係性があるのかしら?」
背後を振り向かずとも……口調などから、イリビィートが声を発しているのだと判別がつく。
この時ばかりは……美しい声が、美しいとは感じれなかった。
ミネルは、瞬間的に後ろを振り返って口を動かす。
「おいおい、そんなに急ぐなよぉ。なぁ、あははははぁぁ……!」
こう唇を動かしている中でも……ミネルは鋭い眼光で周囲を見渡し、言い訳に使えそうなモノを懸命にさがす。
しかし、使えそうなモノは全く無い。
視界に映るのは、黒く焦げ崩れている建物と雪ばかり。
どうやら……目前のオンボロな祠を使って、どうにかするしかないらしい。
……くそっ! どうすれば、考えろ俺っ!!
内心で物凄く焦るミネルを前に……イリビィートも実は物凄く焦っていた。
……あたしの質問に対する返答からして、やはり知っているのかしら!?
と、
心中に不安を抱えるイリビィートを前に、ミネルが動きはじめる。
「じ、実はな……。この祠の中に、アレが入っているらしいんだよ」
ミネルはそう言いながら、祠の正面に確認できる小さな扉を優しく開く。
なにか行動をしなければマズいと思った結果……祠の扉を開くということに行き着いたのだ。
「よーし。開いた! 扉が、完全に開いたぞ!!」
ミネルは祠の扉を全開に開けるなり……自身の不安感を打ち消そうとしているのか、大袈裟に声を荒げた。
……祠の中に、なんか凄いモノが入っていますように!
ミネルはグッと祈りながら、全開に扉を開いた祠の中を見渡す。
刹那。
「うおっ、なんだコレッ!?」
物凄いモノが、目に留まった。
いや、凄いモノというよりも……ヤバいモノが視界に映ってしまった。
「た、大量のお札……?」
ミネルは、唖然としながら祠の中にあるお札を見つめる。
なんか……見ているだけで、呪われそうだ。
「スゥー……ッ!」
ミネルは勢い良く空気を吸い込むなり、祠の扉を『バタンッ!』と何事も無かったように閉じてみる。
その後……イリビィートとシュティレドに顔を向けながら、穏やかに言葉を発する。
「よしっ、今日のところは……村の探索を終えるとするか。なぁ、イリビィート……今晩お前の家に泊めてもらって良いか?」
この発言に、イリビィートはコクリと頷きをみせた。
――数時間の時が経過して、外が暗闇に黒く染まった頃。
ミネルたち三人は……万雪山の中腹部に建つ建物内で、睡眠をしていた。
其々に一つずつ与えられた布団の中で、ヌクヌクと身体を温めながら……皆は熟睡をしている。
そんな中、ミネルの目がフッと覚めた。
「ゔぅ……うぅーん?」
ミネルは、寝ぼけつつ布団から上半身だけを起こし……辺りを確認する。
「なんだ……。まだ夜か」
そんなことを呟きながら、再び睡眠に着こうと思った瞬間だった。
――ザクッ、ザクッ、ザクッ……!
雪の上を駆け足で歩く何者かの足音が、外から聴こえてきた。
この正体不明な音に、ミネルは飛び起きる。
「なっ、なんだ……この音!?」
ミネルは、急いで布団に包まって身を隠す。
……もしかして、お札の呪いか!? いや、嘘を付いた罰か!?
怯えるミネルを御構い無しに、足音は段々と近付いてくる。
――ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ……!!




