5章 第18話
――ビュオオォオオオオォォーッ!!
冷え切った強風に打たれながら……ミネル達は、頂上を目指して脚を進めていた。
脚を一歩進めるたびに……積もった足元の雪が、靴の中へと入り込んでくる。
入り込んだ雪を取り出すのが馬鹿らしくなるくらいに、次々と入ってくる。
そんな状況下、ミネルの背後を付いて歩くシュティレドが、不安そうに口を開く。
「本当に、このまま進んで行けば……頂上に着くのかい?」
「た、多分……」
ミネルは、自信なさげに返答した。
現状……二人の視界に映る景色は白一色と言っても良い感じで、方向感覚が狂ってきていた。
更に……足下に積もっている雪の所為で、歩いている感覚すらも、失われてきている。
空を見上げてみても、鉛色な雲が薄っすらと広がっているだけで……太陽などは見当たらない。
体力的にも、気持ち的にも……色々と疲れてきた。
唯一頼りになるのは……僅かに感じる、地面の傾斜。
傾斜を登って歩けば、いずれ山の頂に到着するのだろうと信じて進行する。
「く、くそ……。こんな依頼、素直に断れば良かった」
ミネルは脚を進めながらも、後悔の念を細々と口にした。
襲い掛かるように吹いてくる雪の所為で……頭から靴の先までグチョグチョに濡れていて、耳先はジンジンと激しい痛みに襲われている。
こんな体験をしながら、愚痴を吐かない奴なんて珍しいだろう。
そんなこんな思いながら、ミネルがブツブツと呟いていた時だ。
「そういえば……なんで僕たちは、山の頂上を目指しているんだい?」
シュティレドが、首を傾げながら質問をした。
……そういえば、記憶を無くしていたんだったな。
ミネルはそんなことを軽く思い出しながら、白い息と共に口から声を発して答える。
「狐っ子とかいうヤツを捜し見つけるためだ」
「狐っ子……?」
シュティレドは返答された直後、再び首を傾げて問い掛けた。
この行動を目前に、ミネルは更に答える。
「山の麓近くにある街の爺さんから、頼まれたんだよ。狐っ子を捜してくれって……」
「そうなのか」
色々と省略した説明であったが、目的内容はシッカリと伝わったのだろう。
シュティレドは、目的を理解したように頷いている。
「とりあえず……狐っ子とかいうのを見つければ良いんだね」
大雑把ではあるが、大事な目的内容はシッカリと把握してくれているらしい。
このことに、ミネルが多少に安心感を覚えた瞬間……だった。
シュティレドが……なにかを思い出したかのように、突然に疑問を言葉にする。
「んね。その狐っ子とかいうのは、どんな容姿をしているの? 姿や形が分からなきゃ、いくら捜しても無駄なことになるよね……」
「え……?」
この質問を前に、ミネルの言葉は行き詰まった。
思い返してみれば……狐っ子とかいうヤツの容姿についての説明を、爺さんから全く聞かされていなかったのだ。
「…………」
「…………」
真っ白な雪原の中で、謎の沈黙が訪れる。
そんな空気を切り裂くように、シュティレドが呟く。
「どうしたの……?」
「え……いや、」
素直に分からないと返答すれば良いモノの……ミネルは、なんとなく言葉を濁してしまった。
その後直ぐに、ミネルは続けて言う。
「と、とりあえず……頂上に行けば分かるよ」
「そうなんだね!」
詐欺のような発言を、シュティレドは心から信じ切って頷いた。
こうして、二人は……頂上に向かっているかも不明確な道を進行していくのであった。