5章 第17話
「い、今なんて……?」
ミネルは、名を名乗ろうとした唇を唖然と開きながら、力無く問い掛けた。
すると……イリビィートという女性は、鋭く真剣な眼差しで言う。
「あら、伝わらなかったの? この山から、立ち去ってと言ったのよ」
この冷たい言葉を鼓膜に響かせて……自身の聞き間違い否、相手の言い間違いでは無かったのだと、ミネルは確かに信じた。
「え……いや、なんで、ぇ?」
信じたのだが……心の奥底で、言葉の意味を疑っている自身が存在している。
言葉の意味を理解しようとしても、理解ができない。
いや、理解ができないのではなく……そもそも、理解をしようとしてすらいないのか?
とにかく……突然に『山から立ち去れ』と、除け者あつかいされる意図が分からなかった。
と、
イリビィートが、肌の良い眉間にシワを寄せて呟く。
「理由なんて、どうでも良いのよ……」
「え……?」
シュティレドが、首を傾げた。
そんな動作を目前に、イリビィートの声量は段々と大きくなっていく。
「別に良いのよ……。うるさいわね……。邪魔なのよ……。とにかく、もう……出て行って欲しいのよッ!!!!」
突然の叫び声に……ミネル達は、思わず竦み上がってしまった。
……ヒステリックなヤツ、怖い。
ミネルが、内心そんなことを感じていたら……シュティレドが、口を開いて言う。
「まぁ、もう少ししたら帰るよ。それよりも、温かい飲み物とか無いのかな? なんか、寒くて……」
「いや、呑気か!?」
思わずミネルは、ツッコミを入れてしまった。
そんな二人の会話を前して、イリビィートが再びに口を開いて呟く。
「あっ、もしかして……? 道が分からなく、下山をしたくても出来ないのかしら? だとするのなら、あたしが麓まで案内してあげるから、問題ないわよ?」
刹那、シュティレドが堂々とした表情で言い返す。
「いや……。そもそも自分が、なぜ此処に居るのすらも分からない。それより、温かい飲み物とか無いのかな?」
……記憶と一緒に、空気を読む能力も失ったのか?
ミネルは、少しばかり……シュティレドのことを心配に感じた。
同様に……。
「な、なんなの……貴方? 全然、話が噛み合わないのだけれど」
心配しているのかは怪しいが……イリビィートは、シュティレドに哀れみの視線を向けはじめる。
「えっ、どうしたのかな? それよりも、温かい飲み物はまだかい?」
「ぇ……」
再びのシュティレドの発言に……イリビィートの瞳は、不審者に怯える者の眼差しに、変化しはじめてきた。
……というか。どんだけ、温かい飲み物が欲しいんだよ。
と、
噛み合わない会話が原因だったのだろう。
イリビィートが……追い討ちをかけるように、話を急速度で進めて言ってくる。
「もう、早く山から出て行ってほしいのよ……!」
「えっ、いや……」
ミネルの狼狽えている姿を目前にしながらでも……考えを変えること無く、イリビィートは更に大きく口を開いて言う。
「貴方たちを助けようとしてたのが、バカらしいくなってきたわ……!」
そんな言葉を投げつけられると共に……ミネル達は、開いた扉の隙間から、雪風が吹雪く外へと放り出された。
刹那、扉がバタンと勢いよく閉まり……建物内側から、鍵が締められる音が響いてくる。
外はとても寒く、とても白かった。
ミネルは、除け者扱いされたという事実に……胸がキュッと苦しくなった。
……ゔぅ、悲しい。
そんなミネルを隣に、シュティレドが独り言を小さく呟く。
「温かい飲み物は……無かったのかな?」
「お前、メンタル強いな……」
ミネルがなんとなく、口を開いて言った刹那……シュティレドは、笑みを浮かべて返答する。
「そうかな? まぁ……僕は、そういう街で生まれ育ったからね。酷い扱いを受けるのは、慣れっこなんだよね。きっと君も、慣れる日が来るさ!」
「そんなのに慣れる日が来る前に……俺の精神が持たねえよ」
ミネルは、おかしな発言に言葉を返すなり……自身の拳を固く握り締め、続けてシュティレドに口先を向けて言う。
「とりあえず……下山をせずに、頂上を目指すぞ」
こうして二人は……再び、山の頂を目指して進行することにした。




