5章 第13話
「とりあえず……街を散策してみようか」
街に降り立って数分が経過した時、シュティレドが提案した。
ミネルはスグに頷いて、意見に賛成する。
「あぁ、そうだな」
こうして、人通りのない街を散策してみることになった。
……のだが、
とくに何かを発見するということもなく、気付けば太陽が天へ昇りはじめていた。
散策して感じたことは、この街に人はシッカリと存在しているであろう確信。
なぜこう感じたかというと……人々のイビキが聞こえてきたから。
建ち並ぶ家々を通り過ぎるたびに、家内から就寝する人々のイビキが漏れ聞こえてきたからだ。
どこもかしこも……三角屋根に一つの煙突が特徴的といった木製建造物が、建ち並んでいる。
そんなことを思い、ミネルたちが街をキョロキョロと歩き回っていると……一つの家から、腰の曲がった老人な男が外出してきたのが見えた。
朝の散歩というモノを、しようとしているのだろう。
と、
老人とミネルの目が、ピタリと合った。
「…………」
「…………」
早朝特有の沈黙の中、二人はお互いに無言で見つめ合う。
「…………」
「…………」
そんな静寂を先に打ち破ったのは、老人であった。
「あんたら、旅人かな……?」
ミネルとシュティレドは、コクリと首を縦に頷く。
すると……老人は、再び口を開いて言う。
「あんたら、強いのかな……?」
この発言に……シュティレドとミネルは、『まぁ、そこそこ』といった感じで、若干の遠慮気味に頷いた。
刹那、老人が目を見開いて言ってくる。
「おぉ……! では、頼みごとを聞いてくれまいかっ!?」
「えっ、頼みごと!?」
突然の言葉に、ミネルが思わず戸惑ってしまっている中でも……御構い無しに、老人の声は朝の街に響く。
「頼みごとというのは、この街の近くにある……『万雪山』という、山の様子を見に行って欲しいというモノなのじゃが……」
頼みごとを口にする老人の目は、とても光り輝いていた。
そんな煌びやかな瞳に見つめられる、ミネルとシュティレドは……断ろうにも断れなかった。
正義の心というモノが、動いてしまったのだろうか?
老人を前に、二人の首は縦にツイツイ頷いてしまう。
別に何も考えなしに、頷いたわけじゃない。
頷く中でも、心中とても葛藤していた。
どう断ろうとか、どうすれば傷付けずに済むだろうとか……断る口実を色々と考えていた。
しかし、二人はとくに話し合いをするでもなく……気付いた頃には、お願いを了承していたのだ。
こんな風に、アッサリと依頼を受け入れてくれた二人を目前に……老人は、満面の笑みを浮かべて唇を動かす。
「おぉ……そうか、そうかっ! それは、ありがたい。誠にありがたやっ!!」
老人の喜ぶ様子を前する、ミネルとシュティレドの顔にも、不思議と笑みが浮かんでしまう。
と、
老人が、笑みを浮かびながら言う。
「旅人さんたち。とりあえず、依頼内容を説明したいから……私の家にでも入っておくれ」
「お、おう……」
こうして、ミネルとシュティレドは……老人の背を追って、一軒の建物内へとお邪魔することにした。