5章 第12話
――飛行をはじめてから、約二十分後。
夜空には……全くもって見当たらない雲の代わりといった感じに、星が満遍なく散りばめられている。
そんな煌びやかに輝く空を、ミネルたちは飛行している。
正確に言うと……翼を動かし飛行しているシュティレドの腕に、ミネルは掴まって空中浮遊している。
左右前後、どこに視線を移しても……追っ手のような姿は、どこにも見当たらない。
下に顔を向けてみると……星明りに薄暗く照らされる一つの街集落が、確認できた。
刹那、ミネルは言う。
「なぁ……なんか下に街らしきものが、見えてきたんだけれど」
「あぁ……、アレが目的の街だよ」
シュティレドは、軽く微笑みながら返答すると……続けて口を開く。
「それじゃあ、地上へと降りようか」
「あ……、おう」
ミネルが一言に返すと……シュティレドは下方に軌道を変えて、翼を動かしはじめる。
要するに……地上を目指して飛行を開始した。着陸をしようとしているのだ。
飛行高度が低くなるに連れて、街の様子が鮮明にハッキリと見えるようになってくる。
目的地の街、人類種が築いたという街は……先程まで居た吸血族の街とは違って、荒廃していないのが分かる。
比べモノにならないぐらいに、建物や道路は美しく整備されている。
しかし……不思議なことに、街明かりが一切に見えない。
それどころか、人の姿も一切見えない。
夜中で外が暗いから、人々は家に篭って就寝などしているとか考えられるが……それでも、奇怪だ。
街の大きさからして、人口は多い方だと思う。
街に建つ家々の数を確認しても、人口が多い方だと把握できる。
綺麗に整備されている街を見る限り、無人街ではないことも分かる。
街が美しく保たれているということは……街人全員が、何者かに拉致されたということは、考えにくいだろう。
拉致されたならば、抵抗の痕跡として街が荒れているはずだから。
そもそも……街人全員を拉致してしまうという者が、存在しているという方が考えにくい。
では、なぜ……誰も外を出歩いていないのだろうか?
街の様子に違和感を感じたミネルは……とりあえず、シュティレドに問い掛けてみることにした。
「街の様子、おかしいと思わないか? 誰一人の姿も、確認できないって……」
すると、シュティレドがスグに答える。
「この街の人々、夜は出歩かないんだよ。なんだって、近くに吸血族の棲まう街が有るからね」
この言葉を聞くや否……ミネルは、瞬間的に『そうか』と納得した。
吸血族は、日が暮れるに連れて……活発的になるという。
この街は、吸血族の棲まう街に近い。
ということは……この街の人は、獲物として狙われやすい。
太陽が沈む夜……吸血族が活発的になる夜は、獲物として狙われないように、家に引きこもっているのだろう。
こんな感じで納得している内に、ミネルの足は地上スレスレに近付いていた。
足をピンッと伸ばせば、地面に足先が触れるぐらい。
まぁ、そんな事をしなくても……数秒後、ミネルの足底は、大地にピタリとくっ付いた。
着陸したから。
街へと降り立つなり、ミネルは周囲を見渡して呟く。
「そういえば、この街。吸血族の街と近いけれど、大丈夫なのか?」
「えっ、なにが?」
ミネルの疑問を耳にしたシュティレドは、首を傾げて逆に聞き返した。
刹那、ミネルは再び口を開いて言う。
「いや……こんな街で呑気に過ごしていたら、近くにある吸血族の街から、追っ手とかが襲い来るんじゃないかと思って」
「そういうことね! それなら安心して、大丈夫だから」
シュティレドは、自信満々に言い切った。
その後も、続けて唇を開き……ミネルに向かって口を動かす。
「人類種は好んで、魔族の村へ入らないよね。それどころか、遠ざける……。それじゃあ質問するね。魔族は好んで、人類種の村に立ち入ると思うかい?」
この質問自体が答えだった。
ミネルは、問い内容が頭に入って来たなり……察して返答する。
「多分、立ち入らない……」
「そうだよ……正解は、立ち入らない。魔族も、人類種と同じなんだ」
シュティレドは……柔らかな笑みを浮かべながら、そう言った。