5章 第10話
「お前、逃げようとしていたな……?」
年老いた声が、ミネルへと問い詰める。
脱走をしようとしていたことが、バレてしまった。
解かれた、地面に落ちたロープ。
街出口を目指し向く、ミネルの両脚。
布を被る三人組は、それを目にして確信する。
ミネルが脱走を試みていることを……察するや否や、確信した。
どんなに言い訳をしたとしても、信じてもらえないだろう。
言い訳という嘘に、騙されてくれないだろう。
だが……ミネルは、少しばかりの希望を抱いて、口を開くことにする。
「あ……えっと、コレは。なんか、ロープが勝手に解けて――」
曖昧に濁され発せられる嘘を、三人組は耳を傾けて静かに受け止める。
刹那……鋭い声が、空間へと放たれる。
「そうか……」
……えっ、信じてくれたの?
予想外な軽い反応に、ミネルが唖然と立ち尽くしてしまっていたら……。
「なにをしているっ!? 皆が穏やかなうちに、早くこの街から出て行くんだ!!」
と、シュティレドの声が響き渡った。
善意で放たれた言葉なのだろうが……ミネルはコレを、悪意に満ちる発言だと受け止める以外、難しかった。
有り難みなんて……米粒ほどしか、感じることができない。
米粒ほども感じれたら、良い方だろう。
なんだって、希望を潰されたんだ。
しかも……本日、二回目。
そんなことをミネルが考えていると、鋭い声が再び空間に響き渡る。
「そうか……、嘘をつくのか」
……えっ?
放たれた発言に、ミネルは黙りと目を見開いた。
同時にミネルは気付く。
鋭い声が先ほどに、『そうか……』と一言で、すんなり納得したと思っていたのは、自分の勘違いだったと。
言い訳という嘘に騙されてくれたと、思い込んでいたとに。
三人組は、言い訳に騙されていなかったのだ。
『そうか……』と返答しただけで、言い訳を信じていたワケではなかったのだ。
早とちりだった。
と、
「はやく、走れ!!」
シュティレドの懸命で必死な声が、響いた。
瞬間、そんな叫びはミネルの鼓膜に響き渡る。
シュティレドの表情は、必死だ。
死を覚悟しているのだろう。
獲物を逃すということは、この街の者たちに喧嘩を売るということなのだろうから。
ミネルという人類種を逃がそうと、必死なのだろう。
自分で連れてきたくせに……。
「そうだな」
ミネルは一言小さく呟くなり……なんとか逃げ出そうと、両脚を勢いよく再び前進させる。
目前の三人組をなんとか押し退けて、懸命に足を動かしながら。
そして駆ける中、ミネルはシュティレドの右手に勢いよく掴みかかって言う。
「この街から逃げ出したいと、助けを求めているのは……お前も例外ではないんじゃないのか?」
突然に腕を掴まれ、唐突に質問をされたシュティレドは……困惑してしまって、声を出すことができなかった。