5章 第9話
ミネルは、現在の最悪とも言っても良いほどの状況から、現実逃避ということも兼ねて……考えをまとめることにする。
静かに瞳を閉じて、穏やかに状況を整理してみる。
はじめに【シュティレド】が、『孤独者』と自称していること。
そして、『異種族』と罵倒されていた理由を考えてみる。
空想を膨らませて整理するだけで、別に答えは導き出す気はない。
というか、他人が限りを尽くして答えを導きだそうとしても……可能性のある想像を膨らますこと以外に、なにもできないと思う。
答えを導き出す気がないのではなく、答えを導き出すことができないのだ。
部外者が、どんなに懸命に考えたところで……ハッキリと明確で的確な正解は導きだせない。
そんなことを理解していても、ミネルは思考を働かせて考える。
現実逃避として。
まぁ……なぜ『孤独者』を自称しているのかは、なんとなく想像がつく。
この街の者たちに、嫌われているのだろう……『異種族』だと。
『孤独者』と自称しているということは、居場所が無いということなのだろう。
では、なぜ『異種族』と罵られていたのかを考えてみる。
シュティレドの容姿は、どこからどうみても『吸血種』の特徴を兼ね備えているのだが――――…………。
――こんな感じでミネルが静かに黙り込んでいたこと、先ほどシュティレドが突然に生意気を言った……という条件が重なったからであろう。
布で顔を覆う三人組の注目は、シュティレド一点に集中しており……ミネルには、一切の視線も向けていない。
静かなミネルとは反対に……変なことを言い出したシュティレドを危険視している。
この状況を目前にミネルは、逃げ出すチャンスが発生していると感じた。
すぐさまミネルは、緩んだロープを自力で解く。
そして……自由になった身体を静かに動かし、脱走を試みる。
まず、右脚をソッと一歩だけ前進させた。
足音を立てずに、一歩だけ前へと進むことに成功。
三人組は、逃げようとしているミネルを見もしない。
ミネルは、三人組の背中を見つめながら……再び脚を一歩、踏み出してみる。
そんな時だった。
「ここは僕がなんとかするから……早く逃げてっ!」
突然にシュティレドが、ミネルに向かって叫んだ。
刹那、三人組の視線はミネルへと集中する。
……おい、シュティレド。俺はお前に対して、なにか悪いことをしてしまったのか??
ミネルは、少しだけシュティレドを恨んだ。