5章 第8話
「……騙してしまって、ごめん」
二人組の姿が街奥の闇へと溶け込んだや否や……シュティレドは、申し訳なさそうに俯きながら呟いた。
この小さな呟きが、ハッキリと鼓膜に響く範囲内にいる者は……ミネル以外には存在しない。
よって、ミネルは……自分に向かって謝罪をしてきているのだと、すぐに理解した。
咄嗟と言っても良いほど、突然にされた謝罪に……ミネルは少し困惑してしまうも、冷静に言葉を受け止めて言う。
「本当に、悪いと思っているのか?」
騙されたんだ。そう簡単に信じれるワケがない。
「悪いと思っているけど――――」
シュティレドは、曖昧に言葉を濁して……静かに口を閉じた。
そして再度、口をユックリと開いて言う。
「――――コレは、しょうがなかったんだ」
「しょうがなかった?」
ミネルが疑問めいて返答すると、スグに低い声量な言葉が返ってくる。
「こうしなければ……僕の居場所が、なくなるんだ」
返ってきた答えに、ミネルは納得しかねたが、しかし特に追求することなく『そうか』と言った。
この落ち着いた反応に、シュティレドは少しばかり困惑している。
と、
「おいっ! シュティレド、嘘をついたな!!」
怒りに満ちる年老いた声が、大きく空間に響いた。
ミネルとシュティレドは、声が発せられた方へと、一斉に顔を向ける。
刹那……二人の視界には、布で顔を隠している三人組が映った。
三人組は、身体をプルプルと小刻みに震わせて、とてもお怒りのようだ。
そんなお怒りの様子を目前にして……シュティレドは、焦り出てきた汗で、身体全身を濡らしながら小声で呟く。
「ヤバい、バレた……!」
「おまえ、嘘をついていたのか!?」
ミネルが、聴こえてきた独り言へ勝手に返答すると……シュティレドは、コクリと縦に首を頷かせた。
「なんで、嘘をついたんだよ?」
「わからない……」
シュティレドは言い切ると……ミネルを木にキツく固定しているロープを、急いで解きはじめた。
「……何をしている?」
三人組の一人が鋭い声が問いかけてくるが……シュティレドは、無言で手を動かし作業を進める。
そんな行動を目前に、ミネルは質問してみる。
「俺を助けて……おまえに、なんの得があるんだ?」
「わからない……」
『わからない』の一点張りだった。
と、
「反逆者の子は……やはり信用できんな」
突然に鋭い声が聞こえてきたと思ったら……シュティレドが勢いよく空中へと吹っ飛んで、地面に強く全身を叩きつけて落下した。
いや……投げ飛ばされたの方が、正しいだろう。
ミネルの視界には……眼中から消えたシュティレドに変わり、布で顔を隠している細身な者が、大きく映っている。
「………………」
お互いに顔を合わせる中、沈黙が訪れる。
「お、俺は……逃げ出そうとはしてないよ?」
ミネルは、解け掛かったロープを手先に触れさせながら……微妙な言葉綴りで、潔白を証明しようと唇を動かしてみた。
しかし、逆効果だったらしい。
「誰がそんなことを信じると思うんだ……」
鋭い声で、一言……そう返された。
なにも疑いの言葉を向けられていない中で、潔白を証明しようと口を開いたことが、逆効果だったのだろうか?
疑いの言葉を向けられた後に、潔白を証明しようとしていたら、状況は変わっていたのだろうか?
要は……タイミングが悪く、状況判断を誤ってしまったのだろうか?
そんなこんな、ミネルが反省をしていた時だった。
「僕は……これでも、責任を感じているんだ」
地面からユックリと身体を起き上がらせて、訳の分からぬことを唐突に呟きはじめるシュティレドが、ミネルの瞳に映った。
投げ飛ばされた時に、頭をどこかに強打でもしたのだろうか?
とりあえず、ミネルは現状を理解しようと、必死に頭を働かせることにした。