1章 第10話
走っている最中に、セリカが首を傾げ困惑な表情で俺たちを見ながら唇を動かす。
「ねぇ? ちょっと、なんで私たち土の上なんか走っているのよ??」
「え?」
聞き返した俺の所為か、セリカは苛立った様子でもう一度繰り返す。
「だから、なんで私たち走ってるのよっ!?」
「いや、なんでって。お前、さっき矢が――」
現在、なぜ走行しているのかを説明しようとした時、俺はふと思う。
そういえば……セリカはキングプラント一点に、かなり集中をしていたよな。セリカの性格から考えるに、一つのことに集中したら他のことが見えなくなってしまう奴なんだろう。そうか……矢の存在を知る術がなかったのか。
そこで俺は穏やかに心を改め、状況に取り残されているセリカへ細かく説明を始めようとしたが……。その必要はなかったらしい。
「ん……二人ともっ?? なんか彼処に弓矢を背負う女の人が立っているわよ!!」
不意にセリカは戦い終えた赤髪の美女を発見し、何処と無く嬉しそうに口を開く。
顔に浮かべる笑顔から現状をまぁまぁ理解してくれたと考えよう。
別に説明するのが面倒くさかったから、合理化をしたわけではない。……多分!!
視点を目的地に戻すと、弓矢を背負った美女が此方へ大袈裟に両手を振っていた。
え? どうして??
それを目にしたセリカは笑顔で右手を振り返し、女性に向けて大声で言う。
「どうしたのよぉおおー!!! そんなに張り切りながら腕を振ったりして!!?」
すると赤髪美女は振っていた手を下げ、代わりに人差し指を此方へと向け慌てる感じで口を動かし始めた。
何かを伝えようとしているのだろうか??
この距離だと何を喋っているのか、全く理解する事が出来ない。
俺たちは一秒でも早く内容を聞き取る為、脚の前進する速度を少し上げることにする。
瞬間、
女性は背中の弓を手に取って片手に持つ矢を備え付けるなり狙いを此方へ定め構えた。
「え……?」
俺たちは脚を竦め立ち止まる。
中でも、セリカは……
「えぇぇえええええーッ!?!? なんで、私たちに矢先を向けているの!!?」
アホみたく驚き怖がっていた。
関係なしに、赤髪美女は弓の縦糸をグイッと後ろへ引く。
「えっ? 撃っちゃうの!!? もう、撃っちゃうの!!?」
セリカは頭を抱え、その場で逃げ道を懸命に探しはじめる。
こいつ、自分だけ助かれば良いとしか絶対に思っていないな……。
そして、背後へ引いた手が遂に矢を放すと、
「うぎゃぁああー!! 待って待って!!」
いきなり俺の腕を引っ張って盾代わりに矢が当たらぬよう身体を隠す。
「おい、ちょ、やめろよ!! 俺が死んでも良いのかっ!!?」
ピタリ背中に身を付けるセリカへ必死に訴え掛けていると、冷静なペリシアの声が隣から届いた。
「ねぇ、矢の飛ぶ方向や距離感からして……アタシたちへ放たれたモノでは無い気がするんだけど……」
途端、さっきまで身を縮ませ怯えていたセリカが俺の背側で満面の笑みを浮かべる。
この野郎……後で土の中へでも生き埋めにしてやる。
そんなこんな考えている中、ペリシアの予想は見事に的中。
空中を飛ぶ矢は、俺たちを通り越し背後へ飛んで行った。
……でも、一体どこに向かって飛んでいるのだろうか?
疑問を持ちながら俺たちは後方を振り向き、
「……おい、嘘だろ??」
後部景色を眼中に入れた俺の口から、思わずそんな一言がこぼれた。
なんと、約三十匹ほどのキングプラントが群がって小さな津波を作り、俺たちへ押し寄せて来ていたのだ。
そんな景色を瞳に映した美女が、先程に手を振って危険を知らせてきていたのだと理解する。
「おいセリカ、ペリシアっ!! あの弓矢を持ってる美女の所まで全力で走るぞ!!」
「ねぇ、美女ってどこにいるのよ……?」
「は?」
セリカがほざく。
なんだこいつ……自分が世界で一番綺麗だとでも思っているのか??
俺は黙って赤髪の美女へ指を指すと、
「見る目がないわね」
嘲笑われながら言われた。
まぁ、こんな奴が言う事なんてどうでも良いか……今は脚を動かすことに専念しよう。