5章 第7話
「そんなことは、どうでも良いとして……そろそろ本格的に、晩餐会を始めるとするか」
……どうでも良くないから!?
年老いた声が発せられるや否や……ミネルの脳全体には、否定の一言が駆け巡った。
大袈裟に言うと……足の指先から髪の毛先まで、言葉が駆け巡った。
肉体的に言うならば……身体全身に、鳥肌が駆け巡った。
精神的に言ってみると、恐怖が駆け巡った。
色々なことを感じてミネルは、突っ込みを入れてやろうと唇を小さくユックリと開く。
「どうでも良くない! 全くどうでも良くないっ! 俺は、全然良いとは思えない!!」
このように、ミネルは三段突きのように突っ込みを入れてやった。
しかし……布で顔を覆った三人組は、唖然とした感じで立ち尽くして、なんの反応もしてくれない。
多分……布下に隠れる顔の瞳部分は、点になっているのであろう。
突然の三段突きは、思考や周囲の空気を乱させてしまうほどの、破壊力だったらしい。
場が凍りついたように白けてしまった。
だが、ミネルは思う。
……コレで、良い。
ミネルは……暴力的な口論をしたいからと、口を開いたわけではないのだから。
ミネルは……晩餐会の開始を引き延ばす為に、時間稼ぎをしたいだけなのだから。
と、
細身な者が、鋭い声で静かに呟く。
「突然に荒ぶる言葉遣い……特殊なヤツだな」
「血を吸って空腹を満たそうとしている、お前たちには言われたくない!」
ミネルの口は、思わず反論をしてしまった。
刹那……細身な者も、真似るように反論を開始する。
「俺たちが特殊だと? 『雑食』な人類種などには、言われたくないことだ」
「――――っく、」
ミネルが、言い返そうとした瞬間……布を被る三人組の中で一番図体が大きい者が、野太い声で唐突に言いはじめる。
「……コイツ、生け贄にする?」
突然の切り替わった話題に、ミネルは内心感じる。
……図体のデカイ奴が、珍しく喋ったと思ったら、トンデモない単語が飛び出してきたんだが??
生け贄って。
生け贄って、生け贄のことか?
頼むから、生け花とかの言い間違いであってくれ。
生け花なら……まだ俺は、地面から顔をだして埋まり、花として皆を笑顔にさせたりなど対応できる気がする。
生け贄とか、命を粗末にさせることは避けたい。
「……とりあえず、吸血花の様子を確認してくる」
図体のデカイ奴は、ボソリと告げ終えるなり……ドシドシと両脚を動かし、薄闇な街奥へと消えていく。
街奥へと溶け込んでいく、ガタイの良い背中を見つめながら……ミネルは思う。
……そうか、様子を見にいくのか。
そこじゃない。
吸血花……、なんだそれ。俺は、植物かも分からない花に血を吸われるのか!?
「冗談じゃない! 早く、俺を解放しろ!!」
ミネルは、発狂するように大声を荒げながら、大きく身体を左右上下に揺らして暴れた。
こんな様子を前に、老いた声が発せられる。
「落ち着きのない奴だな……」
「落ち着いていられるワケが無いだ――」
ミネルが反論しようとしたら……又も言葉を遮るように、何処からともなく声が発せられてくる。
「アラバランティスが……吸血花の件で、呼んでおりますよ」
告げてくる言葉が響く中……声主のシュティレドが、ミネルの目前へと急いで姿を現した。
『アラバランティス』というのは、図体が大きな奴の名前である。
「花の確認が、もう終わったのか。とりあえず、報告ご苦労……」
落ち着きのある鋭い声が響く。
追うように、老いた声が言葉をシュティレドに告げる。
「それでは……お前に、この場の番を任せよう。我らは、アラバランティスの所へと行ってくる」
「了解です」
シュティレドが一言を返すなり……布を被る二人組は、アラバランティスが残した足跡を追って、街奥へと徐々に姿を眩ませていった。




