5章 第4話
「ぐわぁぁああああーっ!?!?」
勢いよく首元を噛まれたミネルは……血相を変え、叫び声をあげながら、ジタバタと身体を動かし抵抗する。
……のだが、
色白な女性は、そんな行動を全く気にせずに……尖る歯先をグイグイと肉奥へ突き刺し、傷口から出てきた血を吸うように飲んでいる。
「――――くっ、やめろ!」
唇や舌を巧みに使って、血を吸い上げる動作が……余計ミネルに、痛みを与えていく。
そんな中……再び、何処からともなく年老いた声が聴こえてくる。
「この我を差し置いて、獲物へと歯を差し込むとはな……」
どこか怒りに満ちた言葉は……女性に向けられているモノなのだと、すぐにミネルは察した。
しかし、
こんな状況下でも……もう少しといった感じで、女性はミネルの首元から唇を離そうとしない。
……くそっ。俺の人生は、魔物の餌になって終わるのかっ?!
ミネルが苦痛を感じながら、そう考えていた時だった。
「分からぬか? 主は、邪魔だと仰っているんだ……」
老人とは別の怒りに満ちた声が、響き渡るや否や……女性が、何者かに投げ飛ばされるかのように、空中へ吹っ飛んだ。
刹那……女性から解放されたことで、首元に感じる痛みが多少に和らぐ。
「な、一体……なにが起きたんだ?」
血が垂れる歯型な傷口を抑えながら、ミネルは困惑する。
と、
地に顔が付くミネルの眼前に……布切れで顔を覆い、背中から大きく黒い翼が生える細身な者が、近づいてきた。
「大人しく、しとけよ……」
細身な男は、ミネルを見下しながら、鋭い声で呟いた。
続いて……布で顔を隠し、黒い翼を生やした大柄な者も現れる。
……この二人は、他の者とは雰囲気が違う。
ミネルは、目前に現れた者たちへ不安な感情を抱いた。
そんな最中……先程から聴こえていた、年老いた声を発する者も、ミネルの方へと向かってくる。
「……今回の獲物は、男か」
老いた声に似合い、腰が曲がった身体を一本の杖で支えて歩くといった感じで、脚を進めている。そして、先の二人同様に顔を布で隠している。
と、
「主の我よりも先に、獲物へ噛み付くとは……無礼な奴め!」
老いた声を発する者が……片手に持った杖で、先程までミネルの血を吸っていた女を思いっきり叩いた。
女は『す、すみません……!』と、ただ謝罪するだけで、無抵抗に杖で全身を叩かれている。
そんな行動を見兼ねて、細身の男が鋭い声質で言う。
「主……。そのくらいで、やめておきましょう」
「なにっ、我に命令するのか!?」
「別に……そういったつもりでは、ありませんよ」
「そうか。なら、良しとしよう」
そんな会話を終えるなり……顔を布で隠した三人は、ミネルの目前に揃い立ち止まる。
その後……老いた声の者が、ミネルの身体を地へ押し付けるシュティレドに言う。
「異種族のお前を見ていると……吐き気がするわいっ!」