5章 第3話
――ミネルたちが、友と魔物へ簡易な墓を其々ひとつずつ……計二つの墓を造り終え、街へと向かい始めてから、約十五分の時間が経過した。
周囲一帯、視界に映るものは……干上がった大地に、大地が干上がってしまった原因の一つであろう燃え輝く太陽。
草木は枯れているのが、少々に確認できる。
よく晴れて日射が強く、かつ風があまり強くないという気候が合わさったことで発生する……大地からモヤモヤと揺らめく陽炎も、追って視界に映ってきた。
「なぁ……まだ着かないのか?」
ミネルが……土で汚れている右腕で、額の汗を拭き取りながら、細々に呟いた。
ミネルの腕が土で汚れてしまっている原因は、墓を造ったから。
墓を造るときの、素手で地を掘り起こすという作業の所為で……皮膚へ土が付着して手が汚れた。コレが、理由だ。
と、
シュティレドが、少し遅れてミネルの発言に返答する。
「……もう少しで、到着するよ」
シュティレドの息はハァハァと、途切れ度切れな感じだ。
この荒い呼吸に気付いたミネルが、心配しながら口を開く。
「どうした……? 息が少し荒い気がするが??」
「少し、喉が渇いちゃったんだよね」
そう返答するシュティレドの瞳は、ミネルの首元をジッと見つめている。
この視線に色々と察したミネルは……スグに首元を両腕で囲むように隠しながら、やや声を荒げて口を動かす。
「えっ、いや……! なんか申し訳ないけど……俺、血を吸われるのは御免だからなっ!?」
この突然な言葉に、シュティレドは少々に残念がった表情で返答する。
「まだ僕、なんにも要求していないんだけれど……」
「な、なんか……すまない」
ミネルが、軽く謝罪をしていたら……なにやら街のようなモノが、薄っすらと見えてきた。
瞬間、シュティレドが元気を振り絞って声を発する。
「アレが、目的の街だよ!」
「えっ、そうなのか!?」
「そうだよ!」
二人は短く会話を終わらせると、街へと向かって無我夢中に駆け向かった。
そんな中、目的地の距離が段々と縮まり、街景色が鮮明にハッキリしてきたことで……ミネルが気付く。
「な、なんか……。あの街、建物や土地などが荒れ果てていないか??」
この言葉にシュティレドは、トボけたように首を傾げながら返答する。
「そうかい? 別に、廃れていないと思うよ??」
「そうか?」
ミネルは、シュティレドの言葉を信頼しながら……もう一度、街に視線をジックリ向けてみた。
やはり街の様子は、荒廃していた。
シュティレドの言葉をどんなに信頼しても……建物や土地などは、荒れ果てているようにしか見えない。
……ちゃんと、街として機能しているのだろうか??
ミネルは、そんな不安を抱きながらも……懸命に脚を動かした。
そして、街の入口へと辿り着く。
街を目前にするなり、ミネルはハッキリ確信したことをシュティレドへ伝える。
「なぁ……やっぱり、この街――」
「荒廃なんてしてないよ! もっと、僕を信頼して欲しいなぁー!!」
シュティレドは、疑いの声に言葉を被せて言い切ると……ミネルの背を両手で押しながら、錆びた入口門を潜り、街へと入場した。
背を押されながら街へと脚を踏み入れたミネルは、周囲を見渡してみる。
何処もかしこも、地面はボコボコと盛り上がっており……崩れ倒れたのであろう建物には、緑色な苔が多く生えているのが確認できた。
……やっぱり、此処。荒廃しているよな? 人影も、全く見当たらないし。
ミネルが、不安にそう感じている時だった。
「ふっふっふっふっ……。やっと、獲物を連れて帰ってきたか」
突然に……前方から、年老いた者の声が聞こえてきた。
……誰の声だ!?
ミネルは、急いで周囲を見回してみるが……どこにも人影は確認できない。
と、
周囲の倒壊した建物の陰から……多くの色白な者たちが、ゾロゾロと沸くように現れてきた。
瞬間に、シュティレドが……ミネルに脚を引っ掛け転ばせ覆い被さり、地面へキツく身体を固定させる。
ミネルは焦り急いで、シュティレドに問いかける。
「お、おい……! 突然なんなんだよ!?」
この言葉に、シュティレドは……ボソリと答える。
「ゴメンね……。君には、僕のために命を失ってもらう」
「俺が命を失うって、どういうことだよ!? 俺たち、一緒に旅するんじゃなかったのかよっ!? だったら……こんな街、サッサと出て別の場所に向かおうぜ!!」
「本当にすまない……。孤独者の僕が生き残るには、こうするしかないんだ」
このシュティレドの発言に、ミネルが再び何か返答しようとした時だった。
またも前方から、年老いた声が響き渡ってくる。
「『別の場所に向かう』……? 残念だが、その願いは叶わない。なぜなら、君は我らに敵わないから……。我らに、喰われる運命だからだ」
……一体コレは、誰の声なんだよ!?
ミネルは鼓膜に年老いた声を響かせながら、辺りを見渡し謎の正体を探す。
そんなことをしている時だった。
一人の色白な若い女性が、尖った犬歯をむき出して……地へ押し付けられるミネルに、いきなり飛びかかってきた。