其の一 幕間
ドラゴンが眠る洞窟を崩壊させてから、数日が経過。
本日も……セリカたちは、クエストを受注する為にギルドへと向かって歩く。
そんな中、残念がった様子でセリカがボソリと言う。
「結局……この前のクエスト報酬、なんにも貰えなかったわね。せっかく、ドラゴンを倒したのに……」
この発言に……ペリシアが、コクリと頷きながら返答する。
「うんうん。まさか、アレだけ手伝ってあげたのに、報酬がなんにもないって、有り得ないよね!」
数日前。
洞窟から脱出してギルドへ戻る間に、セリカたちは報酬を要求したのだが……、ネルスは『所持金を洞窟内に、全て落としてきた!?』と、訳の分からぬことを言って、急いで何処かへと消え去って行ったのだ。
そんなこんな、ネルスへ対しての悪口に盛り上がりながら……皆は、目前に現れたギルドの入口扉を開いて入場する。
刹那……ギルド内にいる多くの冒険者が、セリカ達の存在へ気付くなり、期待に満ちた眼差しを向けた。
その後……冒険者達からは、次々と熱意に満ちた言葉が発せられる。
「おぉ! ドラゴンスレイヤーの、セリカが来たぞ!!」
「どうしよう? 今後に価値が付くかもしれないし……サインでも、貰っとこうかな?」
この数日間……セリカは町中を、自分がドラゴンを倒したと言って、駆け回っていたのだ。
冒険者達の言葉にセリカは、満更でもない様子で答えていく。
「なになに……私のサインが欲しいの? しょうがないわねぇ。ほらほら、私は逃げたりしないから……皆んな喧嘩しないで、仲良く私の前に並んでね! シッカリとサイン書いてあげるから!!」
と、そんな時だった。
「やっと、来ましたか!」
そう言い放ちながら……白い鎧を纏った若い男が一人、短い列をグイグイと追い抜かして、セリカの目前まで歩いてきた。
この光景にセリカは、物申す。
「横入りしちゃダメよ! ちゃんと、並ばなきゃ……!!」
瞬間に、男はにんまり笑顔を浮かべて答える。
「なにを勘違いしているんですかね? 私は、貴女に報酬を渡しに来ただけですよ?」
「ふぇ? 報酬……??」
突然のことに、セリカの思考が止まりかけていると……ギルド職員のお姉さんが、駆け寄ってきて、耳元で伝える。
「あの、セリカさん。現在、目前にいるお方は……王都の聖騎士さんですよ。国々を脅かしていたドラゴンを討伐した貴方に……報酬をあげたいんだとか」
耳元で告げられた言葉で、更にセリカの思考は混乱する。
「ふぇ? 王都の聖騎士さん??」
王都の聖騎士といえば、世界規模で崇められる英雄的存在だ。
と、再び聖騎士の男は口を開いて伝える。
「ドラゴンを討伐したのは、貴女なんですね?」
「そ、そうよ!!」
セリカは、混乱する頭をなんとか働かせて……堂々とした口調で答えた。
この返答を聞いた聖騎士の男は、笑みを浮かべながら口を開く。
「では、貴女に……二千万ゼニーの報酬を与えましょう」
「本当に!? ちょうだい、ちょうだいっ!!」
セリカは瞳をキラキラと輝かせながら、聖騎士へ手を伸ばす。
……のだが、
聖騎士は、ムスッとした表情で付け足すように発言する。
「しかし、貴女は……洞窟を崩壊させてしまいましたよね?」
この言葉を耳にしたセリカの表情から、一瞬で笑顔が消え去った。
勘の鋭い聖騎士は、目前のセリカの表情から全てを察するなり……淡々と告げる。
「実はですね、貴女が崩壊させてしまった洞窟。国の大切な場所なんですよ。まぁ、ドラゴンを倒した功績も有りますし……全額とは申しません。修理代として……一部の五千万ゼニーを弁償して欲しいんですが」
「ふぇ……?」
再び思考回路が停止寸前になるセリカへ、聖騎士は優しく伝える。
「まぁ、安心してください。報酬の二千万ゼニーがあるんです。結局は、三千万ゼニーを弁償すれば良いだけですから……!」
この発言を聞いたセリカは、目を見開きながら天井に向かって声を荒げる。
「うぉぉおおおおーっ!?!? なんか、とんでもない借金ができたぁあーっ!?!?」
そんな風に哀しさを表現するセリカを少し心配に感じたのか……聖騎士が伝える。
「……宜しければ、私からクエストを頼んでも良いですか? 少しは、弁償金の足しになると思いますよ??」
こんな言葉が鼓膜に響くや否や……セリカは眼を見開き、身体を前のめりにして問う。
「なになに!? どんなの!? 稼げるクエスト!? 報酬はおいくらっ!?!?」
「ペフニーズィという国で、チョッとした護衛任務をするだけです。報酬は、五百万ゼニーぐらいですかね?」
コレを聞いた途端、セリカは『そのクエスト、受注する!』と即答えた。
この回答に聖騎士は、にんまりと笑みを浮かべながら呟く。
「そうですか、了解しました。そういえば、渡すのを遅れましたが……貴女にコレを差し上げましょう」
「え?」
突然で少し戸惑いを隠せないセリカの前に……金色に輝く、手のひら程度の長方形なカードが現れる。
そんな謎のカードを見つめながら、セリカは首を傾げて呟く。
「なにこれ?」
この疑問に、聖騎士はすぐに答えを言う。
「コレは、『ペフニーズィ』という国の招待状……。言い方を変えれば、入国許可書。ドラゴンを倒したという噂を聞いた国のお偉いさんが、貴女の為に発行したモノです。それと……一応今回の仕事で、必要になりますね」
「そ、そうなの?」
「はい……そうなんですよ」
聖騎士は頷き答えると……セリカの背後に立つフェンたちにも伝える。
「そういえば、あなた達にも……招待状がありますよ」
コレを聞いたフェンは、すぐに問い掛ける。
「え……!? 一応訊くが……借金は、オレ達で連帯責任だったりするのか?」
瞬間に、聖騎士はにんまりと笑みを浮かべて返答する。
「一人で返すより、皆で返した方が楽ではないですか?」
二人の会話を小耳に挟んだセリカは……忘れかけていた笑顔を途端に復活させて、元気良く口を開く。
「それじゃあ、皆んなで……ペフニーズィとかいう場所での、護衛任務を頑張りましょう!!」
と、
威勢良く発言をするセリカの陰で……聖騎士はボソリと、誰にも聴こえない声で呟く。
「五百万で、あの面倒さい男の護衛を肩代わりして貰えるとは……安いもんだな」
――かくして……皆は『ペフニーズィ』での護衛任務を請け負うこととなったのだ。
次話、本編の5章に入ります。