其の一 第12話
セリカが痛い痛いと、暴れ騒いでいたら、
――ピキリッ!!
天井に亀裂が広がる音が、大きく空間に響き渡った。
刹那、セリカは頭上を見上げて声を荒げる。
「天井をよく見たら、なんか崩れだしているんですけれどっ!?」
セリカは、真上で起こっていることに気付くと……更に身体をジタバタと激しく動かしはじめた。
そんな中……セリカを爪で摘んでいるドラゴンの真上に、大きな岩が降り落ちてくる。
瞬間、ドラゴンは『ヴォォオオオオーッ!?』っと、大きく叫びながら岩に潰され、地面へ転がるように倒れた。
このおかげで、セリカの足底は地面にピタリと着陸する。しかも、無傷で。
だが、潰されていくドラゴンを目前にセリカの精神は、
「ふぇぇええぇええーっ!?!?」
かなり混乱していた。
こんな中で、助かろうとする本能が極限にまで働いたセリカは、身体をグイグイと力ませて……自身を摘まむ太く鋭い爪から、自力で抜けだす。
そしてすぐに、剣を鞘にしまい……近くに確認できたフェンやペリシアの元へ、泣きじゃくりながら駆け向かっていく。
「うわぁぁああああーんっ!! なんか、洞窟が崩壊しはじめているわぁああーっ!?」
亀裂は、天井だけではなく……壁にまで進行していた。
天井からは、石片だけではなく多量の大岩が降り注ぎ……。壁は、ボロボロと表面が剥がれるよう次々と崩れて、毎秒に形が変化している。
現状をヤバいと感じたネルスは、直ちに……少し遠くにいるセリカたちへ叫んで伝える。
「おい、早く此処を出るぞっ! 急いで、出口を目指して走れっ!!」
この発言が聞こえたセリカたちは、コクンと首を縦に振って反応するなり、出口に向かって脚を進めることにした。
と、
アネータが周辺を見渡しながら、大きな声で言う。
「あのっ、出口へ繋がる通路に岩が降り落ちて……ドンドンと通路幅が狭くなっています!! 本気で急がないと、この洞窟に閉じ込められてしまいますよっ!?」
「うそっ!? 早くしなきゃ!?!?」
セリカは、アネータの言葉を鼓膜に響かせるなり……脚を動かす速度を上げた。
追うように、皆も走るスピードを速めていく。
――数分後。
そんなこんなで……皆は、無事に洞窟内から、空気が美味しい外へと帰還した。
全力で走り抜けてきた皆の息は……一言を喋るだけでも、嘔吐してしまいそうなぐらいに、上がっている。
と、
セリカが、肩で息をしながらも……頑張って口を動かし言う。
「はぁ……はぁ……。なんとか無事に……外へ脱出することが出来て……一安心ね」
「あぁ……生きて帰って来れて、安心だな」
フェンは、一言で返答するなり……先程まで自分たちが探索していた、洞窟の姿を瞳に映す。
入口には……崩れた岩が、山のように積み上がっているのが確認できる。
まるで……誰一人の入場も認めないと、拒んでいるような感じで、岩は入口を塞いでしまっているのだ。
そんな光景を目前に、ネルスが残念そうに俯き加減で呟く。
「あぁ……生態調査が、全然できなかった」
瞬間……セリカが何か思い出したように、息切れする口を大きく開き、ネルスへと問い掛ける。
「そ、そういえば……クエストの報酬は、おいくら貰えるの!?」
「いや、今それ言う!?」
ネルスは質問されるや否や、ツッコミを入れた。
そして、そのまま口を動かして返答する。
「……今回の報酬、申し訳ないが『無し』だ。理由は、クエスト内容が達成されていないから」
刹那、セリカは目を見開きながら声を荒げて言う。
「えぇぇええええっ!? ヒドい、頑張ったのに……そんなのあんまりよ!?」
セリカの発言を耳に響かせるなり、ネルスは言い返す。
「あんまりは、俺のセリフだ! セリカ……お前は自分でやっといて、気付いてないけどなぁ。洞窟を崩壊させたのは、セリカ……君なんだよ!!」
ネルスはシッカリと、セリカが天井の亀裂へ剣先をブッ刺したのを目撃していたのだ。
この事実を告げられたセリカは……両眼を見開いて、反応する。
「えっ? 嘘でしょ……??」
「嘘じゃない。俺は、シッカリと見ていた」
ネルスは、セリカの呟きにハッキリとした口調で答えた。
その後スグに……セリカは再び、眼を見開きながら口を動かして言う。
「じゃ、じゃあ……私。ドラゴンを倒したってことなの!?」
「そういうことを伝える為に、俺は言ったんじゃないんだよなぁ!」
そんなこんな会話を広げている二人に割り込むよう、ペリシアが呟く。
「でもさぁ……。そもそも、ドラゴンを目覚めさせなかったら……こんな事態は、訪れなかったよね?」
この発言を耳にした皆は、一斉にネルスへ視線を向ける。
ネルスは、皆と目が合わないよう……途端に俯きはじめた。
場の雰囲気は、段々と……時が止まったかと疑ってしまうぐらい、深い沈黙に包まれれていく。
そんな現状の空気をなんとか変えようと、アネータが口を動かして言う。
「あ、あの……。一旦、ギルドに戻りませんか?」
「う、うん……」
ネルスは……俯き加減でコクリと頷き、意見に逸早く賛成した。