其の一 第11話
皆も、セリカ同様……ドラゴンに背を見せて駆け足で逃げはじめる。
そんな中で……、
「おい、コッチに来るなよ!?」
フェンは、自分の背後を勢いよく進行してくるセリカを追い払うように、声を荒げて言った。
忌避されたセリカは、早口で言い返す。
「なんでよっ!? あんた勇者でしょ!? 勇者だったら、助けなさいよ!!」
この発言に、フェンは微かな声で返答する。
「勇者って言われても……普通の人間だし。それに……トドメを刺されず封印されていたドラゴンに、軽装備で挑むなんて――」
「見損なったわ!? もう良いわよ!!」
セリカは、後ろめたく言い訳をするフェンに、バッサリ言い切ると……スグに口先をアネータの方へ向き変え、助けを求める。
「アネータ! 助けてっ!!」
「ご、ごめんなさい……」
アネータは、申し訳なさそうに俯きながら謝った。
瞬間に、セリカは口を大きく開いて問う。
「どうしてよっ!? 前に、魔王を倒すとか言っていたじゃないっ!?」
「私、ドラゴンが怖いんです。幼い頃、読んだ物語に……トラウマを植え付けられまして……」
「その本を書いた作者、怨んでやるっ!!」
と、
『――ヴォォオオオォォオオッ!!!!』
セリカは……雄叫びを上げるドラゴンの大きく鋭い爪に、背側部分の服生地を摘まれて、頭が天井に付きそうなぐらい高く持ち上げられた。
「うわぁぁああああーっ!?!? 食べられるぅううっ!?!?」
ドラゴンは、自身の背よりも高く摘まみ上げたセリカを見上げて『グルルゥウウーッ』っと、唸りはじめる。
この状況下……セリカは如何にかしても助かろうと、一心不乱に剣を振り回す。
「んね、誰か助けてよっ!? 食べられる前に、助けてっ!?!?」
この叫びの声を聞いたペリシアが、皆へ向けて言う。
「ねぇ、早く助けに行かないと!?」
「そ、そうだな!! 流石に、助けないと……」
さっきまで臆病になっていたフェンは、スグにそう答えた。
続けてアネータが……背負った弓矢を手に取って、申し訳なさそうに口を動かす。
「す、スミマセンが……。私は、後方から弓矢で援護する形の応戦で、良いですかね??」
「あぁ、充分だ」
フェンは笑みを浮かべ、アネータに優しく言うと……背負った大剣を鞘から引き抜き、ドラゴンの元へ駆け出していく。
「それじゃあ、行くぞっ!!」
「うん!」
フェンを追って……ペリシアも、駆け足でドラゴンの元へ向かいはじめた。
そんな時、
「うりゃあぁぁああああーっ!!」
――ガツッン!!
セリカの叫び振り回していた剣先が、天井に存在した一筋の小さな亀裂に、ぶっ刺さった。
「手が、ジーンってした!! 剣が天井に当たって、手がジーンって痺れたっ!?」
セリカが嘆き叫ぶ中……刺激を加えられた亀裂は、天井全体にビキビキと大きく広がっていく。
この光景を目にしたネルスは、目を見開きながら呟く。
「このまま亀裂が進行していったら、天井……いや、洞窟が崩れるな」
と、
「いてっ!?」
天井から崩れ落ちた小さな石片が、セリカの頭に落ちてきた。
コレに続くように、ボロボロと天井から無数の石片が、地へと降り注ぐ。
天井に身体が近いセリカにも変わらず、無数の石片が降り注いでいる。
「いでてててっ!?!? チョッと、なんなの!? なんか、沢山の石が降ってくるんですけれどっ!? というか、物凄く頭に当たっているんだけど!! 頭が、悪くなっちゃうんですけれど!?」




