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憎むべきは神  作者: 棚から牡丹海老
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二人

不定期で寝ている最中に突然目が醒める。そういう時は、決まってあの日起きた事が夢として出てくる。本来なら匂いもしない、味もしない、感触さえない夢の中で、俺は痛みを感じ、血生臭い場所で呼吸をし、口の中に広がる血の味を飲み込む。目の前に広がる無惨な仲間たちの屍の前で何も出来ずにつっ立っている、そんな地獄を俺はもう何十回と見させられてきた。


「…………大丈夫?またうなされてたみたいだけど」


「……何でもない。気にしなくていい」


「気にするなって言ってもあれだけの大声でうなされてたんじゃ気にしない方が無理な話よ。またあの日の事でしょ?」


「……もう十年以上は経ったはずなんだがな。未だに俺の頭の中は俺に追体験させたいらしい。だが、悪いことばかりではない。初心に帰るきっかけになるからな」


「……エンデは怖くないの?」


「まあな。どちらかと言えば忘れることの方が怖い。俺があの日を忘れれば、俺は生きる目的を失うのと同等だ。忘れる事は、死ぬ事だ。お前はどう思う、セリレア」


「難しいわね。明日じゃだめ?」


「……まあいい。まだ夜は明けない、体を休めよう。起こしてすまなかったな」


「気にしないわ。もう慣れたし」


そう言って背を向けて再び寝息を立て始めた彼女を見届け、俺は目を閉じた。













「起きろ、セリレア。日が昇る」


「…………分かってるって。あれちょうだい」


あれと言われてすぐに分かるような、そんな親しい関係になるとは思ってはいなかったが、なってしまっている現実に俺は何をしているのか、と疑問を持つこともある。だが、彼女もまた俺と同様に復讐を誓い戦う者である。仲間はいるに越した事はない。


「これだろ」


掛けてあったローブを手に取ると、彼女は頷き、それを合図に俺は彼女目掛けてそれを放り投げる。受け取った彼女はそれに袖を通し、身支度を始めた。


「まったく、どうしてカク族はこんな面倒な体なんだろ」


彼女はカク族と呼ばれる種族の最後の生き残りである。カク族は灰色の肌に白い髪を持ち、男女関係無く背が低いが戦闘においてはその持ち前の機動性の速さと、見た目からは考えられないほどの力で戦場を支配する。また、彼らは魔法を得意とし、魔法に関していえば右に出るものは居ない、まさに攻守共に優れている種族と言える彼らには、大きなハンデが存在する。


「魔法で日の光を防げばそんなもの要らないのではないのか?」


「魔法使えばこんなもの着なくてもいいんだけど、魔法の効果が万が一切れた時に身を隠せるものがある方が安心でしょ?だから、わざわざこんなもの着てるのよ」


彼らカク族の大きなハンデ、それは日の下では生きていけないということだ。彼らは日の光を浴びると一切の活動ができなくなり、死ぬ。


「夜に移動し朝に休むというのもできなくはないが」


「それでもいいけど、彼らの活動している主な時間は日中でしょ?それなら彼らに合わせないと危ないわ」


「……それもそうか。だがいざとなった時に本来の力が出せないのは困る。だから今日は俺がお前を背負って行く。残念だが素直に従ってもらうぞ」


俺は地面に腕を突き刺し、有無を言わせずに彼女を木で包み、そのまま俺の背中まで運ぶと、腹部から胸の辺りまでを木で巻いて彼女を固定する。腕を抜いて少し形が歪になった手の形を整え、身支度を終えると荷物を持って俺は移動を始めた。


「相変わらずの乱暴な扱いね。魔法使えばいいのに」


後ろから聞こえる彼女の声は少し呆れ気味だが、俺自身魔法が得意ではない。シン族もカク族と同じように魔法は使えるが、彼らと違って俺たちの使える魔法は常に極端な結果しかもたらさない。細やかな魔法が使えないのだ。先程俺の彼女を覆うという行為を俺の魔法でやることになれば、何もできないか永遠に封印するという意味の覆うかの二つしかなくなる。


「お前は俺の魔法がお前らみたいに扱えないのは知ってるだろ」


「皮肉よ。そもそもエンデに魔法使う機会なんかこないでしょ。それだけの能力があれば」


やれやれと言わんばかりに話を切る彼女だが、彼女の言う通りだ。大したものでもないが、俺は体を木変えられる力がある。今彼女を覆っている木も、俺の体の一部を木に変えこの形状にした結果のものである。俺自身まだ使い慣れていないため、先程のように指が歪な状態になることもしばしばあるが、この力自体は便利であり、見ながら形状を戻せば綺麗に元の状態に戻せるのでさほど不便さは感じてはいない。


「今日はどこまで行くつもり?」


「ひとまず、エンデレに向かう。着き次第拠点となる宿を見つけて、策を練る」


「どうしてエンデレなの?」


「ここから一番距離が近い。それにエンデレは最も貧富の差が激しい国だ。言い方が悪いが、金さえ払えばなんでもやってくれるような輩も多いと聞く」


「成る程ね。で、肝心のお金はあるの?」


「金は持ってはいない。なにせ国ごとに通貨が違うせいで持っていてもその国を離れれば意味がない」


「持っている通貨を別のものに変えてくれる所も全部国が管理してるから私たちは使えないし、そもそも私たち達がその国を離れるってことは、その国はもう壊れたってことだしね」


「まあそういうことだ。だから持っている鉱石を金に変えて、しばらくは生活することになる」


「了解」


そのあとは特に話すこともなく、俺はひたすらに歩みを進めた。セリレアはひたすらに眠っていてくれていたようで、エンデレに着く頃には眠れないと言い、宿を探すまでの間は話し相手をやらされた。



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