息子に読んでもらいたい異世界手引書
もし異世界に飛ばされたら僕だったらどうするだろう?寝るところは?お金は?仕事仲間は?
幸いにも僕には単身アメリカに渡り、言語の異なる国でなんとか自分の仕事を展開し、仲間を作ってきた。多少変わった経験がある。普通に生活してるとまず見る事はできないような世界も目にしてきた。
僕だったらこんな時こうしたい、こんな失敗はしたくない。僕の中の希望や後悔、湧き上がるいろんな物語を絵にしたくて書いてみた。想いは必ず届く。立ち止まるな、ただ進め!君の想いが理想を現実化するんだ。失敗したら・・・落ち着いて考えよう。なんとかなる。
プロローグ 異世界初心者ガイドブック
誰もいない父の書斎。デザイナーであるの父の部屋はあの見た目に似合わずアロマソープ、絵を描く塗料の匂いが入り混じった不思議な香りのする、なんかこう、、、外国の香り??(?_?)って、表現しにくいけどとにかく変な部屋。。 父が言うにはTattooショップの匂いみたいらしい。僕にはまだよくわからない。
世間で言う変人属性の父の部屋で圧倒的な存在感を放つガラスのショーケース。といっても取り立てて価値のありそうなものがある感じではない。限定フィギア、アクセサリー、ビンテージの時計、サングラスなど。アメリカの50~70年代グッズなどが入り乱れている。彼の愛車もまたマニアックで、うちのガレージには何年も動かしていない1948年式 Chevrolet Freetline が居座っている。この巨大な1分の1スケールモデルに母親はいつもイライラしているようだ。
小さい頃はこの部屋が好きだった。この蛍光灯に照らされたショーケースは僕の父が手に入れた財宝の宝箱のように見えた。そのヘンテコなお宝を手にしながらおおよそ役に立たなさそうな雑学やマンガやアニメの物語は、そのきらめくお宝の山を前に僕らの胸を何度も何度もどきどきさせた。
「大切だからこのままにしておいてね!使ったら元の位置に戻してください。ビシッ!父より。」
そんな大好きだった父なのに僕らが中学に入学した頃から少しずつ会話が少なくなっていった。
あの時輝いて見えたそのショーケースは今はなぜか寂しげに見える。
僕はそのLEDにうっすら照らされたガラクタを背にそっと書斎の扉を閉じた。
その時、誰もいなくなったガラスケースの中で光る小さな青い光。それが断末魔のように一際輝いた後
「バチンッ」
小さな爆発音とともに、どこか古めかしいベルト付きの日記帳のロックがはずれ、表紙が不自然にめくれた。まるで誰かに読んでもらう為に開いたかのように。
異世界初心者のためのガイドブック
まずはじめに。これは私のマスターから言い伝わった事と私が経験したことを書き留めるメモ帳のようなものだ。もしこの経験を誰かに伝えたいならばこれをそのまま渡すも良し、また君の経験から更に書き加えても良いだろう。
いきなりこんな世界に飛ばされて驚き、絶望、後悔、不安、さまざまな感情が頭の中でぐるぐるしていると思う。まあ当たり前だね。 だがこの世界がどんな世界なのか、体験を通じて知っていくとその不安も徐々に薄れていくだろう。まず不安などの感情は抑えて前向きに考えるようにして欲しい。
もともと文章を書くのが苦手だからとにかく思ったことを忘れないように書いていくので優先順位や重要度もバラバラだ。だが大切なことばかりなので先人の知恵として素直に受け止めてくれ。
唐突だがここは異世界だ。簡単に言うと今流行のパラレルワールドだ。
今までいた世界とは微妙に違った、またはどこかの分岐点から大きくそれた世界が今君がいる世界だ。
基本的な文化水準、生活様式は私たちがいた世界とあまり変わらないようだが、一番の相違点は種族だ。
ここには様々な亜人種が生活している。ドラゴン族、トカゲ族、人族、エルフ族など、ファンタジー小説のキャラクターたちとの共存世界だ。生活様式は現代風だがそこはそれ、ファンタジードラマアレンジがしっかりと施されている。
そして我々は違う世界から来たのだという事を忘れないでくれ。なぜなら我々異世界組は幸か不幸か身体能力、魔力がこの世界の住人よりも強力で、特に危機に瀕した際の精霊召還術は私たちにしか会得できないらしいの。その為、強い力を欲する貴族や権力者たちの的にされる恐れがあるのだ。
とはいっても魔法や特殊スキルは習得が難しく、強大な魔法になればなるほど手に入れるのが難しくなる。お金で買えるもの、秘術を口伝により継承するもの、もし町ひとつ吹き飛ばす程の秘術をうっかり手に入れてしまったり、こういった魔法書を代々持っている貴族や有力者がこれらを開放できるという君の存在を知ったらどうなるでしょう?? そこに与して贅沢な生活できるかもしれない。とてつもない名声を得るかもしれない。でも巨大な力を持つということはそれと同格の巨大な痛みを伴うかもしれない。
自分がこの世界の人間でない事、今習得している能力は他人に教えない事をお勧めする。
何処の国にも害獣というものはいるが、ここでいう害獣とはモンスターの事だ。
モンスターの事を詳しく知りたければホームセンターで害獣図鑑を買うなり組合のHPで検索すれば詳しく書いてある。
要するに害獣とは文字通り生活に害を及ぼす獣の事で、小さいものは花壇の植木を荒らすスライムから山をも吹き飛ばすバハムートまで危険度も様々。頻繁ではないにも関わらず、事件は決して少なくない。また、モンスター生息箇所もそれぞれの国や地域によってある程度把握され、管理されているところもある。市や、個人からの依頼を受けてこういった害獣の駆除や討伐、危険地域での軽作業などの仕事を処理し、報酬を受け取るのが私たち冒険者って名前の、、、まぁ、便利屋ね。。(^_^;)
冒険者になるには最寄の市役所の森林組合で冒険者登録をするだけ。後は市役所の募集見てミッションをこなすの。終わったら証拠になる現物や写真を撮って提出するだけ。2~3日したら銀行に報酬が振り込まれてるよ~! 簡単でしょ??
どうして最初にこんなRPGのミッションみたいな話をしたか、それは私たち異世界転移組がもといた世界に戻る為に必要不可欠だからだ。
この世界にはいくつか法則がある。どれも単純で当たり前のことばかりだ。
その中でもこれは最初に憶えておいたほうがいい。。
元いた世界に戻る為には人のために働く事。
自身の許容範囲を超えた行為は場合によっては死に至る。(魔法、召還行為も含む)
魔法とは自身と大地と大気の力を放出し、媒体を解して現象を具現化する。
空間転移で起った時空のひずみは様々な障害を引き起こし、やがてこの世界を崩壊させる。
・・・・・・なるほどね~。
昨日師匠から頂いた手帳を肩掛けかばんにしまいこみ、少し日差しのきつくなり始めた公園のベンチを立ち上がる。ごくごく当たり前のように見るお姉さんのジョギング風景。のように見える。すらっと伸びたおみ足、揺れる胸元、リードに繋がれて友に連れ立って走るワンコ。だがこの違和感は何だろう。。。女の子の顔がトカゲ顔だからなのか?それとも見るからに獰猛そうな羽根突きのピットブルが彼女の尻尾に食いつこうとドタバタ全力疾走してるのが滑稽に見えるからなのか?
もう何を見ても驚かなくなってしまった自分に少し安心し、おそらくこの公園のベンチで一夜を過ごしたであろう男性に市役所までの道を聞く。
すいません、この町来たの初めてで、市役所までの道を教えてくれませんか?
ん~~??あっち。。あっち。
こめかみから伸びた猛々しい角を持つこの男性も何かの拍子でこうなったんだろう。
昨日までに自分が体験した事を思い返し、また自分を奮い立たせる。諦めたら終わりなんだと。
嗅ぎなれてない空気の匂い、夏なのに湿気が無いな。
この前までいた至れり尽くせりの素晴らしい世界から異世界転移なんてラノベテンプレがまさか自分の身に降りかかるなんて一体何処の俺が予想できただろうか。 いやいや、できるはずも無い。だってそんな世界あるわけ無いって思ってましたから。
同じクラスの川瀬は言っていた。どこかに時空のひずみがあるんだ。その時空の狭間から漏れる闇の波動に共鳴し、彼の中に眠るなんちゃらかんちゃらが目覚めて、そんでもってツンデレの姫とハイスペックのドジっ娘と大冒険する予定だと。。。
川瀬。。。君は正しかった。あの時君の事を頭のおかしいカワセビッチ・キモキモと心の中であだ名をつけてしまった。悪かったと思う。ツンデレやドジッ娘はどうでもいいが、とにかく俺はここにいる。もし戻れたなら思いっきりハグを・・・・・・いや、やっぱりやめよう。
つづく。
読んでくださってありがとうございます。
なにぶん初めての執筆なので乱筆乱文自分でも気にしております。しかし、本業絵描きなので多少のぎこちなさは「ふ~ん。。クスクスッ」と寛大な心で持って受け止めていただきたいと思います。
どうか温かい目で見守ってくださいませ。