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人妖空神楽  作者: 七罪愛
4/5

無欲少年

退屈しない人生とはなんだろうか?

そんな問いに答えれるものは居ないだろう。

お金持ちだろうと、充実しているもの、退屈しているものの両者が存在するだろう。

つまり、退屈するかしないか、それは環境によって左右される訳ではなく、その環境を受け取る人間がどうするか……つまり、充実した人生を送れるかは努力次第、というのが暮浪(くれなみ)(くさび)のモットー、格言だった。


だがしかし、楔の人生はバラ色充実人生かと聞かれるとその限りではない。

趣味なし、特技なし、友人なし、一人暮らし……そんな人間が退屈しない筈などない。

大体の娯楽は試した。だが、どれも合わずに何一つとして楽しめた事はない。

薄暗い部屋の中、ボーっとして過ごす。

それが暮浪楔の生活だ。

時間がない、忙しい人間から見たら時間を分けろと言われそうな生活である。

勿論、楔は学校には行っている。

しかし友達が居ないのだ。特別勉強が好きという訳ではない人間にとって、学校なんてものは暇潰しにもなるまい。


「さて、どうしたものか」

現時刻午前十時。

先程のセリフの後にこの時間を聞くと、まるで遅刻のようだがそれは違う。

今日は土曜日。嬉しい嬉しいお休みなのだ。

世の中には、土曜日も授業がある高校も少なくないが、楔が通う高校は土日の二日は休み。

まあ、学校に居ても家に居ても退屈な楔にはあまり差はないのだが。

いつも通りきっちり七時に起きたものの、する事もなく朝のニュースを見ていた。

しかし、それも最近起こっている、連続失踪事件や殺人事件、政治のものばかりで、楔の注意を惹くようなものは一つもない。

そして暇潰しにもならなかったそれも終わり、する事なく時間が経ち現在に至る訳だ。ああ、なんて悲しき暇人ライフ。

友人の一人や二人居れば、少しでもマシなのかもしれない。

しかし、趣味がないから話が合わず、尚且つ楔は面白い事を言えるタイプでもない。

そんな楔に『つまらない奴』のレッテルを貼られるのは、そう遅くはなかった。


「別に俺的には構わねーですし……はぁ……」


ついにマトモな人間ならしないだろう、まるで誰かに話し掛けるかのような独り言を始める。

これでは、まるっきり可哀想な子ではないか。

「うっせ、暇なんだよ。何か暇潰し寄越せ」

「では少年、『人妖空神楽』なんてものはどうだろう?」

変な独り言を始めていた少年の部屋。

気付かれずに侵入などされる筈もない筈だが、その男はいつの間にか居た。

まるで霧が発生した時のように、ゆらりと現れたその男はまるっきり不審者。

黒い山高帽に黒い燕尾服。燕尾服の方は古ぼけ、擦り切れ、破れているという買い直せよ状態。

格好的には紳士的なのだが、紳士な雰囲気なんてそこには存在しなかった。

「分かった分かった。なんか良く分からねえけど、オッサン。ここは、俺の家なんだわ」

楔はそう言うと、人の部屋の回転椅子に乗りながらクルクル回るエセ紳士をキッと睨みつける。

「そもそもどうやって入った?戸締まりはしっかりしないと落ち着かない質なんだが」

「何、どう入ったかは問題ではないよ。大事なのは結果さ」

そう言うと葉巻を取り出し、吸おうとするエセ紳士。

それを見た楔は、無言で立ち上がり椅子で回るエセ紳士目掛けて一発蹴りを入れる。

「……少年。両親に客人には優しくするように言われなかったのかな?」

「生憎両親は両方、好き好きに放浪してんだよ。言われた事なんて無かったね」

そう言い肩をすくめる少年。全然反省していない。

そんな少年を見て、やれやれという様子で酒を取り出すエセ紳士。

こっちで我慢するか、というその表情は何処かムカつく。

「まあ、私の事はあまり気にしないでくれたまえ。後、私の事はサムディ男爵と呼んでくれればいい」

無理な注文と、突然の自己紹介をしたサムディ男爵はグビグビと喉を鳴らしながら、豪快に酒を飲む。

「こんな時間から人の部屋で酒飲む人間を、気にするなってのには無理があるな」

「君はすぐに正直に言うね。私の存在意義が失われる気がするよ」

噛み合わない会話。サムディ男爵と名乗るこの男。

楔の存在は本当に、この男の眼中に入っているのだろうか?そう思わせる程である。

「まあ、そんな話はどうでもいい。少年よ、『人妖空神楽』というゲームに興味はないかね?」

サムディ男爵は椅子で回転を続けながら、葉巻を指先で弄び問い掛ける。

「いや、興味がないかとか言われても、俺はそんなゲーム聞いたこともないから、判断のしようがない」

「何、ただの〝暇潰しの為〟のゲームだよ。少年はバトル漫画とかは嫌いかね?」

そう言いながらどうやったのか、手の上の葉巻を漫画に変えてしまう。

「別に嫌いじゃないが、特別好きでもない。だから退屈してんだ」

当然だろ?とでも言うような表情をし言う楔には、諦めの色が出ている。

「なら、君は君のように退屈している人間の、退屈している理由に興味はないかね?君の退屈は『無』によるものだ。欲が無さすぎる」

男はクツクツ笑い、手から漫画を消し去る。

「だが、君とは違う理由で退屈し、それに抗おうとする。しかも〝景品のないゲーム〟に必死になってだ」

「〝景品のないゲーム〟?」

おっ、食いついた、という表情をするサムディ男爵。

楽しそうなその表情は子供なら無邪気な笑みと受け取れるが、いかせんサムディ男爵はおじさんとしか言えない見た目だ。

とても残念な笑みと化したそれを見て、楔は鳥肌がたつ気がした。

「あぁ、戦いポイントを奪い合うゲーム。だがしかし、そのポイントで何かが出来る訳でもない。ただ暇潰しの為だけに存在するゲームだ」

戦闘狂にとってはね、と付け足し言うサムディ男爵。

「確かに……ゲームには興味はない。だが、それに必死になるやつらっていうのは気になるな。だが俺に戦闘なんて……なぁ?」

楔の身体能力はけして低くはない。

だが、鍛えている大人が相手でも戦える訳でもない。

「何、そこは心配する必要はない。ペアが居るからね。むしろ必須だ」

「おい、ちょっと待て。俺にペアになってくれるような知り合いは居ないぞ?自慢じゃないが」

何度でも言うが楔には友人なんてものは居ない。

そしてそれを聞いた瞬間サムディ男爵が大爆笑し、それに蹴りを入れたのは言うまでもあるまい。

「全く、少年よ。私が居るでは――」

「よし、一気に興味が失せたし久しぶりに趣味の趣味探しでもするか」

そんなに嫌かね、と落ち込むサムディ男爵を無視し、放置していた漫画やゲームを探す。

そこで異変に気付く。

楔とサムディ男爵の間、そこに光の線が走り、何かの模様を描こうとしている。

「こいつは……?」

「君が私では嫌だと言うからね。適当な魔法陣を組んでペアを呼び出したのだよ」

落ち込んだ様子のまま淡々と説明するサムディ男爵。

「はぁ!?魔法陣!?呼び出す!?なんじゃそりゃ!」

「騒がしいな。言わなかったかね?ペアは君達の言う神や天使、悪魔、それにモンスターや妖怪などしか認められないのだよ」

だから友達の有無は関係ないよ、と言いながらサムディ男爵は魔法陣を見つめている。

少し暗い部屋の中を、青白くライトアップし魔法陣は完成に近付いていく。

「おい!これ何が呼び出されんだよ!?悪魔とか洒落にならねぇぞ!?そもそもこんなもん書けるなんて、お前人間か!?」

下から青白く照らされて気味の悪いサムディ男爵。

彼の顔は純粋にこの状況を楽しんでいるようだ。照らされているのも合わさってか、まるで死神である。

「私が人間か?そんな事ではどうでも良いだろう。そして、呼び出されるものが何か?そんなもの〝分からん〟!!」

ドヤッという効果音が似合いそうなドヤ顔を披露してくる彼に、殺意が湧いてくる楔。

「呼び出されるものは媒体である君次第だ。こっそり髪を拝借したからね」

「お・ま・え!!」

もう、怒ることすら面倒になってきた楔はサムディ男爵と同じように魔法陣を眺める。

そして、幾何学的な模様が描かれきったその時、眩い光が部屋を包み、視界が白く染まる。

「…………っ!!」

視界が戻ってきたその時、既にサムディ男爵の姿は消えていた。

(あいつ……逃げやがった!!)

そう思った時にはもう遅い。

魔法陣のあった位置は、何もなかったかのように元通り。

いや、元通りではなかった。

「ん……んん……」

魔法陣と入れ替わりで現れたのは、和服を来た少女。

その少女も光に目がやられてたのか、固く閉じていた瞳を開き、部屋をグルリと見渡し楔でピタリと止まる。


「……きゃっ……きゃぁぁぁぁぁッ!!」


「ちょっ、待ってくれぇぇぇ。これは言い訳出来ねえ!!出来ねぇよぉぉぉぉ!!」


二人分の叫びは、収まるまでにかなりの時間を要し、近所のおじさんにワザとらしい咳払いを頂いた所でやっと収まったのだった。

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