表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人妖空神楽  作者: 七罪愛
1/5

憑き護――月鬼 依芽

山の奥。暖かな木漏れ日が射し込む家の前。

一人の少女が楽しそうに飛び跳ね、遊んでいた。


黒い髪。小さな矮躯。

子供用の着物に身を包むその少女――月鬼(つきおに) 依芽(よりめ)には人の目を惹くものがあった。

本来人間には備わらない部位。『角』としか形容出来ないそれが、依芽の額には生えているのだ。

ごつくはなく、矮躯と同じく小さいが、幼い少女の頭に限らず、人間の頭に生えているには不自然なもの。

そんなものが依芽には備わっていた。


『憑き(つきご)

世に言われる霊や妖怪などの怪異が、人々に襲いかかるのを肩代わりし護る存在。

避雷針。身代わり。生贄。

だが、それは望んでなれるものではない――そしてなって良いものでもなかった。

人間誰しも『違うもの』や『未知のもの』を恐る。

それは憑き護も例外ではない。

それ故に憑き護達は山の奥、人里離れた場所に住んでいた。

人々から怪異を遠ざけ、静かに暮らす。それが憑き護の暮らし方だった。


そして、そんな憑き護の少女である依芽には、鬼が宿っている。

人間と鬼のハーフ……とは違う。半人半妖とも少し違うだろう。

それが何かと言われると『憑き護』としか言えないのだ。

依芽は一通り遊ぶと、する事もなくなり空を眺める。

「ひまー……」

そう小さく呟くとパタっと後ろ向きに倒れ、つい先日、ここを出ていった兄に言われた事を思い出す。


『いいかいヨリメ?僕達は人間には歓迎されないんだ』


『なんで?ヨリメ達は悪いことしてないよ?』


『人間は、僕達の事を化物だと思ってるからさ』


『なら、お話しすればきっとわかってくれるよ。お兄さまとヨリメは何もしてないもん』


『ダメだ。絶対そんな事はない。だから、僕はここを出るけど絶対に人里にはおりてはいけないよ?』


『はーい』


その日の記憶を思い出し、依芽はむくれる。

「お兄さまは気にしすぎなんだよ」

憑き護とはいえ、依芽も子供。

好奇心も旺盛で、同年代の子と遊びたい年頃だ。

兄との約束も、ただの気にしすぎ。

話せば分かってもらえる、依芽はそう楽観していた。

そしてその楽観が、己の人生を大きく変えるとは知らずに。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『あっちいけ!鬼!』


『わしの子を喰う気か!帰れ!』


『なんでのこのこ出てきたんだよ、この化け物!』


人里におりた依芽を待っていたのは、兄の言う通りの人間たちだった。

依芽の角を見たものは、誰一人例外なく依芽に心無い言葉を浴びせ、逃げて行くのであった。


「なんで……なんでわかってくれないの……?」


純粋な気持ちで山をおりた依芽には、何故何もしていないはずの自分が嫌われるのかが理解できない。

村の隅の暗がりで、一人膝を抱え悩み、泣いていた。


そして、どれほどの時間が経っただろうか。

日が傾き、世界が赤く染まり始め、依芽がそろそろ帰ろうと立ち上がったその時。


ジャリッ


依芽を取り囲むように並ぶ、村の男達。

その手には鍬や槌、包丁などの武器に出来そうなものが握られている。


「な……に……?」


村の男達の恐ろしい形相に、恐れ慄く依芽。

その依芽を追い詰めるように、迫る男達。


「お前は厄を運んでくる」


「ここに来なければ、こんな事にはならなかったのに」


「穢らわしい鬼の子め」


口々に呟き、依芽を殺さんとする男達。

誰かは分からない。だが、そのうちの一人が、鍬を振り上げたその瞬間――依芽の足元から閃光が迸り、幾何学的な模様が浮かぶ。

空気は張り詰め、何かがバチバチと発光している。

村人達は驚き動きが止まる。だが、一番驚いているのは――他ならぬ依芽だった。

そして、一際眩い光を放ち模様は消える。

村人達の目が慣れ、再びその場を見た時


「消え……た……?」


そこに依芽の姿はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ