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『煙』1.硝煙と戦慄の出会い

連載中のSword Worldの第三章に出てきたある人物達に関わる物語。

ヴィガロス達が探している転生者達が、全員味方とは限らない。

転生者の少女、ショウエンが辿った影の物語。

1.硝煙と戦慄の出会い


父が死んで間もない時だった。

ディノティクス辺境の村が襲われたと聞いて俺はその場所へ向かった。

あの村は利用価値がないとはいえ、我々の組織の統括地だ。

完全になめられている。

強大な組織のボスが死に、その息子たちが後処理に終われている今ならと思ったのだろう。

人狩りを始めたのだ。

少女、大人に関わらず女は高い値段で売れる。

貧困に喘ぐ村で金と引き換えに娘を買い取るならまだマシだ。

村を襲い利用価値のない男と老人は殺し、女子供だけを奪う。

報告に入った村も、後者だった。

「あとどれくらいだ?」

「おおよそ三十分です。」

「そうか。ありがとう。」

俺はアンダースーツの上にプロテクターを装着した。

俺自身は漸く十代半ばになったところだが、既に何回か実戦に出ているし、戦果を上げている。今回の相手も、連れてきた精鋭部隊五人でカタが着くだろう。

ただ、襲われている村は、恐らくもう壊滅状態であることは予測できている。

知らせを受けてから三時間…目ぼしい獲物は、既に運ばれただろう。

そして、今はまさに虐殺の真っ最中。

逃げ惑う人々を、さながらハンティングのように追い詰め、弄び、殺す。

俺も悪魔と呼ばれているが、その行為の面白さはついぞ理解できない。

死に迫る恐怖こそ、自分が生きていると実感できる唯一のもの。

無抵抗の人間を襲うなんて、何も面白くない。


だからこそ、狩る者を狩るのは面白いのだ。



「これはまた、酷い」

村は既に村として残っていなかった。

あちこちに火の手が上がり、道には男、老人の死体が横たわる。

どれも銃で後ろから撃たれている。

「ハンティングだな。予想通り。」

「生存者を探しますか?」

道の奥で、まだ銃声が鳴る。

そして悲鳴。

「念のため。もしいれば、一旦眠らせろ。敵がいれば問答無用で消せ。」

「「「了解」」」


五人のうち三人が散る。

残り二人は俺の護衛だ。

俺はホルスターからハンドガンを取りだしセイフティーを外す。

部下達も、同じ。

一人はマシンガン、もう一人はハンドガンを両手に。

そしてヘルメットの防護シャッターを下ろす。

煙や粉塵をこれで塞ぐ。

更には、バイザー部分は熱画像から、暗視機能まで付属している。

「さて、行こうか」

「「了解」」

焼けた地面を蹴った。

死体を飛び越え、煙の中、銃声の方に向かう。

熱画像が人影を鮮明に捉える。

三人。手には棒状の発熱体。

敵だ。

「打て」

音もなく、屠る。

建物の中から、さらに二人。

屠る。

『こちらA。生存者、なし』

「了解」

『こちらB。生存者、なし』

「了解」

『こちらC。B7地区で交戦中。援助求む。』

「了解」

同行した部下二人が更に五人仕留める。

詰まらない。

武器を持っていても、こんなにも弱い相手はついぞ会っていない。

そんな組織に舐められいるかと思うと、腹が立つ。

「制圧完了。これよりB7地区に援護に向かう。」

「了解。俺も向かう。」

B7地区。村の中心部。

確か、地図では井戸があったはず。

開けた場所での戦闘では、確かに一人では苦戦するだろう。

死ぬことはないだろうが。

「可能であれば状況報告を。」

『敵は三人を確認。しかし…』

ひゅんっ、と鞭のしなる音が聞こえた。

「?どうした。」

『…状況報告は困難。戦闘を続行します。』

そこでプツリと通信が途絶える。

相手に鞭使いでもいるのか。

ならば距離をとって弾丸を打ち込めば良い。

距離を取るのが難しい手練れなのかそれとも。

「まもなくB7地区です。」

「…?」

足元の感触が変わる。今まで硬い石畳であったのが柔らかい草に変わっている。

植えたものではない。

石畳の隙間から生えている。

「(可笑しなものだ。村の中心であるならば、手入れもするだろうに。)」

だがそれだけではなかった。次には木の苗が生え、そして石畳を押し退けて値を張った人の高さほどもある木。

村の中心に近付くにつれて、植物の密度が濃くなっていく。

さらに、何かの気配が漂いはじめる。

「…」

俺は銃を仕舞い、背中のパイルバンカーを装備する。

杭打ち機の銃弾はニードルと、火炎。

ニードル弾は威嚇のために、標的の姿を針の筵として無惨に晒すためにのみ、これを使っている。

しかし今から対峙する相手は、火炎弾が必要だ。

夥しい草木を見て、そんな気がした。

「……なんだ、あれは。」

見えてきた、その相手。

「巨大な木、いえ、花と認識します。」

部下Dが答える。

見れば分かる。あれは花だ。

広場の真ん中、かろうじて見える井戸の上に乗るもの。

巨大な花の蕾。真っ赤な花が、天に向かって伸びている。

そこからは人の腕ほどもある根が伸び、井戸の中や石畳を浸食し、絡み合っていた。

その外側には草と木が生え、さながら森のような有様。

異様な光景。異常な光景。

ここは普通の村のはずだ。

実際にここに来るまでは、普通の村だった。

「Cはどこだ。」

視線を巡らせる。熱画像を表示し、この場にいるはずの部下を捜す。

障害物が多い所為で、なかなか見つからない。

そういえば、敵が三人いると言っていたが、それらしい影もない。

「こちらD。C、応答せよ。」

部下Dが回線を繋ぐ。

応答は、ない。

「…花、か。」

俺は花に視線を巡らせる。

巨大な薔薇にも似た花。幾重にも花弁を携えて堅く閉じる。

「……?」

その中心部に、ぽつりと、赤い点。

「(温度…三十二℃……)」

その部分を拡大表示する。

すると、うっすらと赤い点を中心に人が蹲る姿が、映り込む。

大きさからして、子供か。

「花の中に影を発見。子供か。」

俺の声で部下二人も一斉にそちらを向く。

確認したようで、了解、と返事をする。

「救助は。」

「一応。」

「「了解」」

部下二人が一歩、花に近づく。

悪寒。

「下がれ!」

「「!!」」

部下二人は同じ動きで後ろに飛ぶ。

ひゅん、と撓る音。抉れる地面。

蔓だ。

あの花から伸びる蔓が、鞭のよう空を薙ぎに襲ってきたのだ。

「あの花は、中にいる子供を守っているようだ。」

「魔法、ですか。」

防御魔法で植物を盾にするものがあると聞いたことがある。

しかし、このように自動的に敵を迎え撃つというものは、結構高度な術だと思う。

それを、中にいる子供が行っているのだろうか。

だとすればその子供はそこそこ強い魔導士である可能性が高い。

放って於こうとも思ったが、野放して、敵対勢力に吸収されてしまうのも後々面倒くさいことになりそうだと考える。

「俺が突入する。援護を頼む。」

あともう一つ。

声が

「「了解」」

聞こえる。

小さく泣いている声だ。

子供がすすり泣いている声だ。

嗚咽が混じり、息が詰まり、しゃくり上げる声。

「さあて」

その声、を留めたかった。

俺はパイルバンカーを構える。

狙いは、あの蔓。

一発目の蔓でそれを縫い止める。

二発目は火炎弾。あの花弁を燃やす。

近付いて、腰のナイフで蕾を切り裂いて、中に入り込む。

そのあとは、中に入り込んで子供を。


頭の中で動きをシミュレートする。

「もう、泣くなよ。」

引き金を引く。

針をそのまま大きくした銃弾が飛び出し、蔓を傍らの木に縫い止める。

同時に地面を蹴る。

一歩近付く。

鞭は来ない。さらに一歩近付く。

同時に火炎弾を装填して。

「隊長!」

「見えている。平気だ。」

横からもう一本、蔓が飛んでくる。

それを冷静に避ける。

前へ一歩、トリガーを行く。

炎の柱が飛び出し、蔓と、蕾の一部を削り取る。

足場の凹凸が更に顕著になる。

「もう、泣くな。」

花弁が無くなって、鳴き声がより一層はっきりと耳に届く。

蕾は、見えていた分よりも大きくて、予想よりも分厚い。

さっきの火炎弾は、花弁を一枚えぐり取っただけで、中身はまだ見えない。

花弁の萼に足を乗せて、蕾の真前に立つ。

「泣くな」

蕾の真ん中、わずかな隙間に腕をねじり込む。中で手を開くと、柔らかい何かに触れる。

それがびくり、と震えると、この巨大な花も揺れた。

細長い、手でつかめる細いものに触れる。

恐らく腕だろう。

「さあ、出てこい」

俺は力を込めて引っ張り出す。

花が少し開く。ずるりと、俺の腕が姿を現す。

その後には白い小さな手。子供の手。

そのまま力を込めて引きずり出すと、黒い頭が姿を現す。

パイルバンカーを地面に落とし、その子供の顎に手をかけて上を向かせる。


ぞっとした。

髪は漆黒、目は、赤。紅。血のように赤い紅。

潤んで虚ろで無気力な目。

「泣くな。泣かれるのは苦手なんだ。」

俺は目元の滴をぬぐってやる。

すると子供の視線がようやく俺に向く。

「安心しろ。おまえの味方だ。」

抱き寄せ、体を包んでやる。

背中をあやすようになで下ろすと、腕の中の体が弛緩するのが伝わってくる。

同時に、足下が揺れる。

巨大な木が、花が揺れる。

「……。」

萼から飛び退いて、花から離れると、それは音を立てて折れるように倒れた。

腕の中の子供は、完全に弛緩しきっている。

ついでに言うと、規則正しい呼吸。

「眠り姫ってか。」

そう、子供は女だった。幼い少女。まだ5歳かそこらだろう。

俺の腕の中が安心したのか、今は寝息を立てて俺に身を任せている。

「D、ほかのメンバー、並びに今の状況を説明せよ。」

やはり部下Cの気配がない。

「A、Bはこちらに向かっています。D、Eは損害なし。Cは…」

Dが折れた花を見る。

花の下は井戸。その傍らには、さっき落としたパイルバンカー。

「お借りいたします。」

Dが構えて引き金を引く。

炎の柱が折れた花を焦がす。

途端に炎が広がる。

花弁を燃やし、根を燃やし、蔓を、葉を燃やす。

まるで紙のようにあっという間に灰になる。

素早く消え去ったのは、おそらく構成するエネルギーの供給がなくなったからだと認識する。。

この奇妙な植物を生み出したのは、やはりこの眠る女の子だったのだろう。

大した魔力だ。

「C、生存を確認。」

残ったのは石積みの井戸の縁と、石畳だけ。

そしてその井戸の中から腕が見える。

這い出てきたのは、連絡が取れなくなっていたC。

「報告せよ。何があった。」

「応戦中、蔓により井戸に引きずり込まれました。井戸の中には、自分を除いて三人。何れも溺死しています。」

DがCの言葉を確認するために井戸を覗き込んだ。

頷いて、Cの言葉を殆どそのまま復唱する。

「この三人は、襲撃者と判断します。」

「だろうな。C、君を襲っていた者に間違いないね。」

「はい。応戦中、姿が見えなくなりました。自分と同じく、蔓によって引きずり込まれたのだと考えます。」

そしてCも引きずり込まれたのだろう。彼が助かったのは、この気密性の高いヘルメットを被っていたから。普段はフィルターで粉塵のみを除去しているが、周囲の酸素濃度が低くなると通気口を閉じ、内蔵してあるエアータンクを作動させる。

だから、水の中でも呼吸が出来、溺死を免れたのだ。

「しかし溺死か、一番苦しい方法だな。」

眠る少女を見る。

涙の跡は塩の筋になっている。

目元も腫れている。

子供。まごう事なき、子供。

恐らく無意識だ。襲撃者の姿を見たくなくて、井戸の中に引きずり込んで、結果的に死なせてしまったのだろう。

もっとも苦しい方法で。

「A、Bより周囲の制圧を確認。」

「生存者、ほかになし。その子供は、いかが致しますか。」

やはり他に生存者は居なかったようだ。

詳しい話を聞ける可能性は低いが、何が起こったのかをこの子供から聞かなければいけないだろう。

「一端連れて帰り、可能であれば今回の出来事を聴取する。その後の処遇は追って決定する。」

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