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野良猫に餌付けをするような愛  作者: 中高下零郎
小学校(自作自演の餌付け)
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誰が少年を責められようか

 あの女に復讐したいが、自らの手はなるべく汚したくはない。

 それを実現できる方法を考えた結果、藤村は『いじめ』に着目する。

 ニュース等で扱われるいじめ問題を見て藤村が思った感想は、いじめは自然現象であるということだ。

 どんなコミュニティだって起こりうる、それゆえにありふれた問題ながら、激しく非難されない。



 太田川はクラスの人気者であった。

 勉強はできる、運動もできる、活発な性格、優れた容姿。

 一体何故太田川が自分に好意を寄せているのかが藤村には理解できない程であった。

 けれど周りの人間は心の中では藤村のように、どこか太田川に嫉妬のようなものを抱いているのではないかと考えたわけだ。

 その気持ちを利用することはできないだろうかと藤村は考えた。



「隣のクラスの奴が言ってたけどさ、太田川ってカンニングしてるらしいぜ」

「まじで?」

「さあな、本当かどうかはわかんないし、秘密にしておいた方がいいと思うな」



「4組の女子が、太田川にブスって言われたらしいんだ」

「え? 藤村君それ本当なの? ひっどい、少し可愛いからって調子に乗ってるんじゃないの?」

「さあ? あくまで噂だし、この話は秘密にしておいた方がいいと思う」


 あくまで噂の出所が藤村だと感づかれないように、存在しない架空の人間の噂話として、太田川の悪評をクラスメイトに話す。

 人間には秘密にしておいてと言われると誰かに喋りたくなるという心理があるとどこかで聞いていた藤村はそれも利用する事にした。

 藤村の予想通り元々心の底では皆太田川の事をよく思っていたのかもしれない。

 いつも真面目な藤村の発言だからこそ、皆すんなりとそれを受け入れたのかもしれない。



「太田川のやつ、万引きで捕まったらしいぜ」

「この間太田川さんが猫を苛めてるとこ見たって誰かが言ってたよ」

「ていうか何なんだよ三角州でるたって。ふざけた名前だよな」


 数人程度に藤村が話した噂は尾びれがついてあっという間に広がって、


「みんなおはよー、……どうしたの? 何か目が怖いけど」


 たったの1ヶ月で、太田川の信用はガタガタに崩れてしまっていた。

 予想以上の効果に、自分には人を操る才能があるのだろうかと根も葉もない噂に踊らされるクラスメイトを見てほくそ笑む藤村であった。


「きりくんおはよ……最近私、皆に避けられている気がするの」

「原因はわからないけど、太田川の悪い噂が広まっているらしい」

「そんな……きりくんも、信じてるの?」

「俺は信じてないよ」

「……! ありがと、きりくん」


 孤立しはじめ、落ち込んだ表情で藤村に話す太田川。

 藤村は太田川の味方のフリをしながらも、実際には味方をしない、傍観者の立ち位置を取ることにした。



 クラスメイトが太田川に不信感を抱いている間にとどめを刺そうと考えた藤村。


「あれ……? 私の財布がない、ブランド物の限定品だったのに」


 先生のいない休憩時間、クラスの中では一番のお金持ちであるお嬢様の財布が無くなるという事件が発生する。


「誰だよ、盗んだやつ」

「ひっどい、財布を盗むなんて」


 怒りに燃えるクラスメイト。


「犯人は太田川じゃないのか?」


 一人の男子が、そんな事を言う。

 それと同時に太田川がえ? という表情をする。藤村は笑いを堪えるので精一杯だった。


「……え? 違うよ、私じゃないよ」

「だったら見せなさいよ、カバンの中身」

「ちょっと、やめてよ」


 自分はやっていないと主張する太田川であったが、信用のない太田川に取り合ってくれるクラスメイトなどどこにもいない。

 太田川に詰め寄るクラスメイト達が、乱雑に太田川のカバンを漁る。


「あったわ、私の財布!」


 そこには、盗まれた財布が入っていた。


「……え?」


 どうして? といった表情をする太田川。


「やっぱり太田川が犯人だったのか」

「財布盗むなんて、サイテー」


 口々に太田川を責めるクラスメイト。


「違う、違うよ。盗んでない、私盗んでない!」


 弁解する太田川だったが、もうどこにも太田川の味方はいなかった。

 太田川を罠にかけた真犯人……藤村はその光景を見ながら心の中で勝ち誇る。

 こんなにうまく事が運んでもいいのだろうか。

 いや、いいに決まっている。自分は今まで辛い目にあってきたのだから。

 悪気がないではすまされない、太田川には天罰が下ったのだ。

 そのように自己肯定をしながら、ここまでくればもう何もする必要はないだろうと考える。

 完全に無関心を装っても、後は勝手にクラスメイトが太田川を叩いてくれるだろう、と。



 その予想通り、それまでただの悪い噂ですんでいたそれは、明確な悪意となって太田川に牙をむく。


「痛いっ……!」


 上履きに画鋲を仕掛けられたり、


「……!? 何これ……」


 机と椅子に接着剤をつけられたり、


「私の……体操服……」


 体操服をビリビリに破かれたり、どんどんエスカレートしていくのだった。


「あ、きりくん。……私」

「……」

「きりくん? ねえ、待ってよきりくん。違うの、私何もしてないの。きりくんは信じてくれるよね? きりくんは私に酷い事とかしてないもんね? ね?」

「……」


 すっかり孤立してしまい、放課後にクラスメイトと遊ぶことなどできなくなった太田川が、学校が終わるとすぐに帰宅し始める藤村の横でしきりに話しかけるも、藤村はそれを無視する。

 いじめに加担はしないが味方もしない傍観者を演じたのだ。


「あ、あはは……そうだよね、私と一緒にいたら、きりくんも酷い事されちゃうもんね。ごめんねきりくん」


 そのうち太田川は一人で納得して、泣きながら走り去って行く。



「く、くくくっ、はーはっはっはっ!」


 ため込んでいたものを一気に吐き出すように一人帰り道にゲラゲラと笑う藤村。

 こうして太田川はクラスメイトに苛めを受けて悲惨な学生生活を送り、その光景を眺めながら藤村は幸せな学生生活を送ることになった。とはいかなかった。


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