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野良猫に餌付けをするような愛  作者: 中高下零郎
高校生(愛のない? 恋人生活)
22/34

二人暮らしの始まり

「ああ、親の束縛を離れた一人暮らし、なんて素晴らしいんだ」


 春休み。アパートの一室、引っ越し準備を終え、新しい部屋で少し上機嫌になる藤村。

 高校に合格した藤村は、高校から少し離れたアパートで一人暮らしをすることになった。

 藤村は両親のことを、自分を過小評価していると思っていた。そんな親の元から一刻も早く自立したいと思っていた。それが藤村が東京の高校を受験した理由の1つでもあった。

 しばし一人暮らしの解放感を満喫する藤村であったが、


「きーりくん。そっちは荷物の整理終わった?」

「いきなり入ってくるんじゃねえよ」


 恋人の乱入によって顔をしかめる。藤村の作戦では、太田川は浪人して野良猫は息絶えるはずだったが、こうして太田川は藤村と一緒の高校に合格して藤村の隣の部屋に住む事になったし、猫は藤村の家で引き取ることになった。それでも藤村は、まだ太田川への復讐を諦めていなかった。これはチャンスなのだ、更に太田川を自分へ依存させてから奈落の底へ落としてやるのだと意気込んでいた。

 ただ、藤村には懸念があった。自分が太田川を本当に好きになってしまっているのではないか、依存しているのではないか、ミイラ取りがミイラになってしまっているのではないかという。


「うーん、いい部屋だねきりくん」

「それより脱げ」

「もー、親の目を気にしなくていいからって、エッチだなあきりくんは」

「お前も人の事言えないだろ」


 自分の感情の正体を突き止めるのが怖くて、逃げるように太田川を抱く。

 自分は太田川が好きなのではない、太田川の身体が好きなだけなのだと自分に言い聞かせて。

 自分は身体目当てなだけなのに、愛されていると勘違いしてなんて愚かなのだろうと太田川を笑って。



「きりくん、そういえばご飯とかどうするの?」


 行為を終えた後、服を着ながら太田川が藤村に問いかける。


「飯? ああ、カップ麺とか、スーパーの半額弁当とか、色々あるだろ」

「駄目だよー、栄養はちゃんと取らないと。身長伸びないよ?」

「ほざけ。もう俺はお前を抜かした。お前は162! 俺は164!」


 太田川の側に立ち、自分の方が身長が高いと主張する藤村。

 中学校三年間、終わってみれば無事に藤村にも成長期がきたようで、身長は20cmも伸びた。

 一方の太田川は、小学校でほとんど伸びきってしまったのか、4cmしか伸びていない。


「高校一年生の男子の平均は168らしいよ? ささ、食材買いにいこー」

「……わーったよ」


 しかしそれでも藤村は平均に届いていないし、太田川は平均よりも高い。本人も気にしていたらしく、素直に従い太田川と共に部屋を出て、近くのスーパーへ向かう。


「二人で買い物なんて、まるで新婚さんみたいだね」

「はぁ? 何わけのわかんねーこと言ってやがる」

「んふふ。今日はきりくんの好きなハンバーグだよ」


 スーパーで食材をたんまり買い込んだ二人。

 レジ袋を持ちながら上機嫌そうに鼻歌を歌う太田川と、重たそうにレジ袋を持つ、太田川より非力な藤村。


「……それ以前に、お前料理できるのか?」

「……そう言えば私きりくんにお弁当とか作ってあげたことなかったね。恋人と言えばお弁当なのに」

「別に恋人らしいことに拘る必要なんてないだろ」

「つまりきりくんが私にお弁当を作ってくれるってこと?」

「どう解釈したらそうなるんだよ」

「きりくん料理できないんだー」

「は? できるに決まってるだろ。いいだろう、飯は俺が作る」


 すっかり挑発に乗せられて、意気揚々と部屋に戻った藤村は台所で調理を始める。

 手先の不器用さから野菜を切るのに時間がかかったりはしたが、砂糖と塩を間違えることもなければ、台所を爆発させることもなく、きちんと肉と野菜を炒めて見せる。



「どうだ!」

「……うん、料理だね。味は……普通に塩味だね」

「……」

「ごめんきりくん、そんな目をされても、普通すぎて評価に困るよ……」

「なっ!?」


 自信満々に太田川に料理を振る舞った藤村であったが、実に無難な出来栄えに太田川も困惑する。

 ともあれ藤村の部屋で二人で夕飯を食べる。終始嬉しそうな太田川と、自分の部屋を他人に占拠されている状況にむずむずする藤村。


「明日からは私が晩ご飯作るね」

「あーはいはい、わかったから飯食ったらとっとと自分の部屋に戻れ」

「あ、そろそろドラマが始まる」

「おい、自分の部屋で見ろよ……ったく」


 食事を終えた後も藤村の部屋に居座りテレビを見始める太田川。

 しかめた顔をしながら、藤村も何となく太田川と一緒にドラマを見る。


「つまらねえなこの脚本……俺が書いた方がマシだな」

「そういえばきりくんって小説とか書いてるんだっけ? 見せてよ」

「誰が見せるかよ」

「自信あるんじゃないの?」

「もうその手には乗らねーよ。風呂入ってくる」


 つまらなそうにドラマを見ていた藤村であったが、風呂に入ると言って服を脱ぎだす。

 突然隣で服を脱がれて顔を赤らめる太田川。


「ちょっときりくん! 女の子の前で何服を脱いでるの!」

「お前何度も俺の裸見てるじゃねえかよ……」

「プライベートの時と、ベッドの上は違うんです! もー、私も自分の部屋でお風呂入ってくるからね、覗かないでね」

「誰が覗くかよ……」


 部屋から出て行く太田川を見送った後、藤村は風呂に入りしばらく一人の時間を楽しむ。


「ああ、たまには長風呂もいいものだな。誰にも邪魔されず、ゆっくりできるというのはいいものだ。高校にも受かった事だし、春休みは息抜きと行こう」


 鼻歌を歌って風呂を楽しんでいた藤村。するとそこへ、


「油断したねきりくん、プライベートを侵される気分をきりくんも味わうといいよ」

「ふんふんふふーん」

「き、気にせず鼻歌歌ってる……」


 バスタオル一枚の太田川が乱入してきたが、風呂が気持ちいいのか全く動じずに湯船に浸かりながら鼻歌を歌う藤村。反応されずに少ししょげながら、勝手に藤村の風呂場でシャワーを浴びる太田川。


「……狭いね」

「そりゃアパートの風呂なんだから、複数人入れる代物じゃねえだろ。……おい、湯船に入ろうとするな」

「こんなことならマンションでルームシェアにしておけばよかったね」

「アホかよ。兎に角風呂から出たらさっさと自分の部屋に帰ってくれ。俺は今日はゆっくりと寝るんだ」

「珍しいねきりくん。いつもは夜遅くまで勉強してるのに」

「春だからな。戦士にも休息が必要なんだ。さあわかったら帰れ」

「はいはい。お風呂で寝ないようにね。あ、そうだ。明日アキバ行こうよ。いいでしょ?」

「あーはいはい、たまには付き合ってやるよ」

「やたっ。約束だかんね」


 お風呂でリラックスしているからか、素直に太田川の言う事を聞く藤村。

 太田川が風呂から出た後も30分近く湯船に浸かり続ける。


「流石に浸かりすぎたか……おい」


 藤村が風呂から出て部屋へ向かうと、当然のようにそこでは太田川がアニメを見ていた。


「すごいよきりくん、地方じゃ見れないアニメがたくさん!」

「……もう俺は寝るからな」


 言っても無駄だと太田川を放置して布団に入る藤村。余程疲れていたようで、10分も経たずに寝息をたてはじめる。しばらくアニメを見ていた太田川であったが、


「私も寝ようっと。おやすみきりくん」


 そう言って当然のように藤村の布団にもぐりこむのだった。

 一人用の狭い布団、藤村を抱き枕代わりにして恍惚の表情で眠る太田川と、暑苦しいのかうなされている藤村。高校生になり親元を離れた結果、人の目を気にせず太田川が藤村のスペースに侵入するようになったのだった。

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