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野良猫に餌付けをするような愛  作者: 中高下零郎
中学校 愛のない恋人生活
16/34

飾りの絵と飾りのストーリー

「もうすぐテストだねきりくん」

「そうだな」

「ねえねえきりくん、今日もきりくんの部屋でさ」

「悪いけどテスト終わるまでおあずけだ」

「えー」


 中学二年の前期期末テストを前に、藤村は太田川との性行為を封印する。

 最初は1ヶ月に一度と言っていたにもかかわらず誘惑に勝てず、気が付けば1週間に二度になっていた藤村。

 そういう行為をするうちに自分がどんどん馬鹿になっていくような気がした藤村は、テスト週間はきっちりと勉学に集中することを決意した。

 決意はしたのだが、


「はぁ……はぁ……」


 一度女の味を覚えてしまった中学二年の藤村の性欲は高い自制心を最大に発揮しても抑えるのが困難。

 それでも気合で性欲を抑え、自慰行為すら行わずに勉学に励む藤村。


「やっとテスト終わったね。きりくんどうだった?」

「まあ、ベストは尽くしたつもりだよ。それより帰ったらヤるぞ」

「はいはい、よく我慢できたねきりくん」

「黙れ。お前こそ我慢できてたのか?」

「うわ、その台詞流石にキモいよきりくん」

「……」


 テストが終われば溜めこんでいたそれを一気に放出する。

 太田川に自分が依存してしまうという、恐れていたことがだんだん現実となっていることに当の本人はまだ気づいていないが、必死で禁欲生活を行いながら勉学に励んだ結果は出たようで、



「おお、満点だねきりくん」

「ああ。ま、所詮この中学レベルじゃ俺には役不足ってことだ。……何でお前の方が上にいるんだよ」

「私『おおたがわ』だし、五十音的にしょうがないでしょ」

「けっ」


 見事に藤村は全教科満点を成し遂げる。同じように全教科満点の太田川の方が、名前の関係上自分より上にいたことにムッとするも、藤村にとっては大きな意味を持つテスト結果であった。



「きりくん今年の夏はどうする?」

「特には考えてねえな。ま、そんな頻繁に誘いでもしなければ遊んでやるよ」

「ふうん。私ね、今年は本を出そうと思うんだ!」

「本? ああ、同人誌即売会のことか」

「そうそう。結構漫画書くのって時間かかるみたいだから、そんなにデートできないかも」

「へいへい。ま、させてくれるなら俺は別にかまわねーよ」

「……何かきりくんだんだん変態になってるような」

「男は皆そんなもんだよ」

「開き直り!?」


 終業式の帰り、夏休みのプランについて話し合う二人。

 藤村にとってみれば暑い夏に出かけるよりは、涼しい部屋で太田川と乳繰り合う方がいいからむしろ好都合だと太田川の執筆を応援するのだった。




「というわけで描いてみたよ。どう? こっちが本物の絵でこっちが私の絵だよ」

「どうって言われてもな」


 夏休みが始まって数日、自室で宿題をしている藤村の元へ何枚かアニメキャラの絵を描いてきた太田川がやってくる。太田川の絵は本物に似ていたが、藤村にはただの劣化した絵にしか見えない。


「うまい?」

「まあ、お前が絵が得意なのは知ってるけど……これじゃただの模写だろ。同人誌ってのは、多少絵が下手でも個性が大事だって、ネットで昔見た覚えがあるぞ」

「そうかなー?」

「例えばだな……ちょっと待ってろ」


 鉛筆でノートの切れ端にさささっと絵を描く藤村。手先が不器用ではあるが、空間把握能力はそれなりにあるため上手くはないが、下手とも言い切れない絵を数分で描き上げる。


「俺は美術は苦手な方だけど、何の個性もないお前の絵よりはマシだと思うぜ」

「ええ……流石にそれは自惚れすぎだと思うよきりくん。キャラの見分けはつくけど……」

「うっせえな。同人誌即売会なんて基本素人の集まりだろ。売れてる作品はそりゃプロレベルなのかもしれないけど、大半は俺レベルだと思うぜ」


 ネットサーフィンの間に自然とそういう知識が身に着いた藤村は、興味もないのに受け売りで同人誌即売会を語る。


「そんなもんなのかなあ。後ストーリーも評価してよ、アニメの後日談っていう設定なんだけどさ……」

「俺そのアニメ見てないからわかんねーよ……好きにしろよ」

「きりくんも手伝ってよー、むしろきりくんも描こうよ。きりくんの方がマシなんでしょ?」

「そ、それはだな……」

「きりくん本当は自分でも小説とか書きたいって思ってるんでしょ? だったら練習だよ練習。まずは二次創作だからだよ」

「……そのアニメ、全部見たら何時間かかる」

「1クールだから6時間くらいかな?」


 藤村は頭の中でアニメを見る時間、シナリオを考える時間、絵を描く時間を計算する。丁寧に模写をした結果1枚1枚時間のかかっていそうな太田川の絵と違い、藤村の絵はそこまで時間はかからない。鉛筆のコピー本ならそこまで時間はかからないだろうと、いつのまにか身に着いていた同人知識を駆使する。


「6時間か。……わかった。そこまで言うなら勝負しようじゃないか。どっちが売れるか」

「そうこなくっちゃ。負けた方はこのアニメキャラのコスプレね」

「それ女キャラだろ……明らかに俺の方が不利じゃないか?」

「気にしない気にしない」



 こうして藤村は同人誌を製作し、太田川と売上で勝負することに。


「それじゃあ早速アニメ見ようか。こんなこともあろうかとビデオを持ってきておいたんだよ、今日は寝かせないよきりくん」

「おい、一気に見るつもりなのかよ。目が疲れるだろ」

「若いんだから大丈夫。まずは本編見て、それからスピンオフ見て……」

「おいスピンオフって初耳だぞ、6時間で終わるんじゃなかったのかよ」

「いいじゃんいいじゃん、夏休みなんだし。中学生になったんだから中学生っぽいことしないと」

「徹夜でアニメは中学生っぽいことなのか……?」


 結局アニメの本編、スピンオフ、劇場版と計15時間、ぶっつづけで見せられる羽目になった藤村。


「やっと……終わった……」


 内容なんて覚えていない劇場版のスタッフロールが流れる中、やっと眠れるとベッドに入る藤村。

 その横に太田川がもぐりこんでくる。


「私も限界ー、もう無理、自分の部屋に戻る気力ないや、おやすみ」

「おい、何勝手にもぐりこんで……ああ、もう駄目だ」


 隣で寝る太田川を怒る気力も性的ないたずらをする気力もない藤村は、こんなに疲れたのは一日に5回も自慰をしてしまった時以来だな、と馬鹿っぽい事を考えながら眠りにつくのだった。



 ともあれアニメの内容を把握した藤村は同人誌の製作に取り掛かる。


「このキャラの設定なら、こうするだろう……」


 キャラクターの設定から、言動などを想像して、藤村なりにリアルっぽい後日談を描く藤村。


「えー、たしかにミラーちゃんは腹黒いけど、根は優しい子なんだよ、多分」


 一方キャラの設定を無視してでも、円満な後日談を描く太田川。

 着実に二人の執筆は進み、いよいよ決戦の日がやってきた。



「ふふふ、きりくんのコスプレ楽しみだなあ」

「何勝った気になってやがる。お前のそれはアニメキャラの絵だけ使った全く別物じゃねえか。なまじ似てるからパクリって言われても仕方ないレベルだぜ、作品を冒涜してやがる」

「きりくんだって面倒くさくなって露骨に後半の絵が手抜きになってるじゃん、ただでさえアレなのに」

「そのかわりストーリーには自信があるからな、絵なんて飾りだよ」

「そんなもんなのかなぁ……あ、始まった始まった」


 買い手だった去年と違って売り手になった今年の同人誌即売会。

 同じスペースで刷った数冊の本を並べて宣伝に励む二人。

 その結果……



「引き分け……だね」

「3冊か。初めてにしては上出来なのか?」


 藤村はストーリーを評価され、太田川は絵を評価され、需要は違えど3冊の本を売り上げる。


「全部売れる自信あったんだけどなあ……よしきりくん、来年は二人で作ろう。私が絵できりくんがストーリー」

「馬鹿言え、来年は受験だろうが。今年は余裕があったから乗ってやっただけだ、来年の夏に遊んでる暇はねえよ」

「じゃあ再来年ね!」


 後片付けをしながら先の話をする太田川。二年後に二人で協力して同人誌を作るビジョンを想像しながら、恋人ごっこがいつまでも続くかよと彼女を捨てるつもりでいる一方、自分の同人誌のようにリアルな未来に思えてしまい怖くなるのだった。

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