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野良猫に餌付けをするような愛  作者: 中高下零郎
中学校 愛のない恋人生活
14/34

恋人としての初めての冬

 誕生日というイベントも終わり、12月。

 雪こそ降らないものの肌寒い朝を、この日も二人は共に歩く。


「はーっ、クリスマスどうする?」


 手に息を吹きかけて白い息を確認しながら、太田川が迫るクリスマスの予定を問う。


「俺達中一なんだし、適当に街中をぶらぶらするくらいでいいだろ」

「そうだね。ところでサンタさんには何をお願いしたの?」

「何がサンタさんだ、幼稚園児じゃあるまいし……電子辞書だよ」

「意外と高価な物頼むんだね……きりくん寒くない? マフラー一緒に巻こうよ」

「嫌だよ……でも、マフラーか」


 太田川が巻いているマフラーを凝視する藤村。やがてその先端を掴み、


「私は犬じゃないよ」

「悪い悪い、何となくな」


 犬のように自分に従順になる太田川を想像してにやける藤村。


「いいからきりくんもマフラー巻こ、巻こ」

「や、やめろって」


 無理矢理藤村の首に自分のマフラーの余った部分を巻きつける太田川。

 まるで手錠のように、二人はマフラーで繋がれてしまう。

 これでは俺も太田川から逃れることができないみたいじゃないか、と不快になる藤村であった。




「めりくりー」

「メリークリスマス。つうか何で毎回待ち合わせなんだよ、家が隣だろうが」

「きりくんは風情もファッションセンスもないね、まあいいけど」

「へいへい。とりあえず適当にぶらついて、ケーキでも食って、イルミネーションでも見るってことでいいな?」

「そだね、家族に心配かけるのもあれだし。じゃ、行こっか」

「だからマフラー巻き付けんな」


 冬休みになりクリスマス。上は灰色のジャンパー、下も灰色の防寒ズボンという格好で待ち合わせ場所に向かった藤村をくすくすと笑いながら、自らのマフラーの余りを藤村の首に巻きつける太田川。


「えー、カップルと言ったらマフラーでしょ」

「……恥ずかしいんだよ」

「きりくんは私とカップルだと思われるの嫌なんだね……」

「わかったわかった、ったく。ほら、手も繋いでやるよ」

「えへへ」


 面倒くさい女だな、と思いながらも太田川の手を握る藤村。寒い中繋いだ手は冷たいのか温かいのか、よくわからない感触だった。


「それにしても、周りのカップル大人ばっかりだね……中学生っぽい人全然いない」

「当たり前だろ、クリスマスにデートする中1なんてほとんどいねーよ、恋愛ってのは、本来もっと大人がやるもんだろ」

「きりくんが恋愛を語ると何か笑っちゃうよね」

「……俺だって、図書室で恋愛小説とかは読んでるからな」

「あはは、今度お勧め教えてよ」

「おうよ」


 数少ない趣味である読書でお勧めを聞かれ、珍しく上機嫌になる藤村。上機嫌なまま煌びやかな街をぶらつき、こじゃれたお店でケーキを食べ、自らは綺麗だと思わなくても、隣ではしゃぐ太田川のために一緒にイルミネーションやクリスマスツリーを見る。


「うーん、イルミネーション綺麗だったねきりくん」

「ああ、でもそろそろ帰らないとな」

「そだね……何だろ、他のカップル皆向こうの方に行ってるよ?」

「本当だな、何かイベントがあるのかもな」

「折角だから行ってみようよ」

「まあ、構わねーけど」


 夜も更け、二人の年では補導されかねない時間になる。

 周りのカップルがとある通りへ向かっていくのを見た二人は、一体何があるのかとその方へ進む。


「……こ、ここって」

「さ、さっさと帰るぞ!」

「う、うん」


 そこはネオン街、ラブホテルの密集地であった。

 意味を理解し、お互い顔を真っ赤に染め、お互い顔を見れずにその場を抜け出して帰路につく。


「き、今日は楽しかったよきりくん。それじゃ、またね」

「お、おうよ、またな」


 家の前で太田川と別れて、自分の部屋のベッドに横たわり、ついさっきの出来事を思い出しては悶々とする健全な藤村。太田川も今頃同じような事を考えているのだろうか、とガラにもない事を考えるのであった。



 その後も恋人達の冬は過ぎていく。

 年が明けて正月、初詣に行く二人。


「あけおめことよろー」

「あけおめ。浴衣似合ってるな」

「これ着物だよ」

「違いがわかんねえよ」

「よし、それじゃあきりくんのファッションセンスがよくなるようにお詣りしに行こうか!」

「ははは、最近お前容赦ないな」


 冗談っぽくそんな事を言う太田川に、調子に乗るなよと心の中でドス黒い感情を煮えたぎらせる。

 神社についた二人は手を合わせてそれぞれお詣りをする。


「きりくん、何をお願いしたの?」

「何もお願いしてねえよ。神様なんかに頼らずに、自分の力で願いは叶えないとな」

「わお、きりくん硬派だね。私はきりくんのファッションセンスがあがるようにお願いしたよ」

「そのネタまだ引っ張るのかよ……わかったよ、頑張ってセンスあげればいいんだろ。お年玉も貰ったし、服買いに行くから付き合え」

「はーい」


 太田川の挑発に乗せられる形で服を買いに行く藤村であったが、藤村の体格に合うようなオシャレな男性服はなかなか見つからない。結局サイズの合う女物の服を着せられ、似合う似合うと太田川に写真をパシャパシャと撮られるのだった。



 2月にはバレンタインデー。


「はいきりくん、手作りチョコだよ」

「サンキューな、どれどれ……ああ、チョコだな」

「え、もう食べちゃうの。学校に持って行ってクラスメイトに自慢したりしないの?」

「何でそんなアホみたいなことしないといけねーんだよ……」


 藤村をいつものように起こしに来た太田川は、寝ぼけ眼の藤村にラッピングされたチョコを渡す。

 それを頬張りながら藤村は、一か月後に控えるホワイトデーではなく、その前の期末テストの事を考えていた。

 前回の期末テストでは、太田川が手を抜くことで藤村は学年1位という栄光を手に入れる事が出来た。

 太田川を蹴落して自分がトップを取るという当初の目的は果たされたが、実際に経験してみると虚しさだけが残るだけだった。一時的とは言え歓喜していた当時の自分を思い出し、不機嫌になる藤村。


「なあデルタ、もうすぐテストだな」


 チョコを頬張りながら、苛立ちを隠せず声のトーンを下げて太田川に問いかける。


「うん、そうだね。きりくんならまた1位取れるよ」


 太田川のその発言からは、また手を抜こうとしているのがばればれであった。


「なあデルタ。……本気出さないんだったら、お返しはなしだ、もうデートもしねえ」

「な、何を言っているのきりくん、よくわかんないよ」

「そうか、まあいい。着替えるから出てけ」

「う、うん……」


 とぼける太田川を睨みつけると、太田川を部屋から追い出して制服に着替える。

 不機嫌そうにバリバリとチョコを噛み砕きながら。




「今年は結局雪降りそうにないね」

「そうだな」


 お互い何事も無かったかのように振る舞い、期末テストがやってくる。


「きりくんテストどうだった?」

「ベストは尽くしたよ。……勿論お前もベストを尽くしたんだろ?」

「……うん、ベストを尽くしたよ」


 藤村も今まで以上に努力をしたつもりだったが、


「太田川さん凄い順位あげたね、この間50位くらいだったよね?」

「う、うん……」

「恋人に負けてるじゃねーか藤村、でもワンツーフィニッシュってすげえな」

「そうだな」


 テスト結果を貼りだす掲示板には、しっかりと太田川の1位と藤村の2位が書かれていた。




「ほらよ、少し早いけどバレンタインのお返しだ。店売りだけど、まあ割と高級品だぜ」

「うん、ありがとう……帰って食べるね」


 テスト返却日、二人で帰る際に藤村がカバンからブランドチョコの箱を取り出し太田川に手渡す。

 それを自分のカバンに入れる太田川は、少し気まずそうな顔をしている。


「その、きりくん」

「何だよ」

「ごめんね?」

「何を謝ってんだよ、お前はテストで俺よりいい成績をとった、それだけだろ」

「うん……それじゃ、またね」

「ああ、またな」


 太田川と別れて家に戻る藤村。母親にテストの報告をすることなく、部屋に戻ってベッドに横たわる。


「ああ、これでいいんだよ、これで……畜生、畜生……」


 手を抜かれても、本気を出されても、結局藤村の心が満たされることはなかった。

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