静かなる想い その6
静かなる想い その6
明け方、熱が下がった夏流が目を覚ました。
見開いた目が少し潤んでいたが、俺の姿をみて驚き、直ぐさま起きようとした。
その様子に俺はまだ熱が完全に抜け切れてない事をいい、そのまま横たわる事を促した。
俺の言葉に戸惑い、そして頬には仄かに赤みが差していた。
熱ではなく多分、異性が側にいる事に恥ずかしさを感じるのだろうと思うと、夏流の初な様子が微笑ましい。
思わず笑ってしまった。
そんな俺の様子を不思議がりながらもじっと見つめる。
少しの間、奇妙な空気が流れた。
そして躊躇いながらもお礼を述べる夏流に俺は、苦笑しながらも素直に言葉を受け取った。
「あの、坂下さん…。
大丈夫ですか?
徹夜…ですよね。
まだ朝迄は時間がありますので、仮眠をされる様でしたら私、起こします!
なので少し休まれて下さい。」
気遣う夏流の気持ちがとても嬉しくて、俺は破顔して夏流を見つめ返した。
そんな俺の様子にますます顔を赤らめる。
大切にしたい…と思った。
夏流の全てを。
忍が目覚める迄、俺が彼女を守っていきたい。
何時迄続くかは解らない。
もしかして…、忍の心が永遠に閉ざされたままかもしれない。
夏流の性格を考えると彼女はずっと、忍が目覚める迄待つであろう。
そんな彼女の側で、俺が支えて行きたい。
喩え実を結ぶ想いではなくても、彼女を護り、一生愛したい。
「坂下」の名で生きる俺ではなくて、只の一人の男として…。
「…有り難う。
でも、仕事で慣れているから心配しなくてもいい。
それよりも余り無理しないで欲しい。
忍もそれを望んでいない…」
俺の言葉をどう感じ取ったか、夏流は一瞬、黙り込んでしまった。
そして、重苦しく言葉を紡いだ。
「…でも、忍さんが今、頑張っているのに、私がここで逃げると駄目なんです!
無理なんてしていません。
だから…、側にいさせて下さい。
彼が目覚める迄。」
夏流の痛ましい様子に揺さぶられながらも、忍の為に生きようとしている夏流に心が抉られた。
先程、ずっと見守りたいと思う気持ちに暗い陰りが灯る。
自分の心を受けいられる事は一生、ない。
彼女の心には忍が…、いる。
だが、本当にそうであろうか?
今、自分がここで気持ちを伝えたら…。
愛を囁き強引に心に踏む込んだら、もしかして。
愚かな考えに捕われていると自分でも思う。
だが、欲しいと願う存在がいるのをただ、黙ってみていないといけないのか?
それが本当に正しい事なのだろうか…!
ああ、自分の理性が狂わされている。
今迄、何かに心が奪われ、理性を狂わされる事など無かった。
生涯、俺の感情の中でそれは皆無に等しい存在だった。
そう、「坂下」と言う名に生まれた時から…。
君が欲しいよ、夏流。
どうして君なんだろう?
どうして君ではないと駄目なんだろうか…?
いつの間にか俺は夏流を抱きしめていた。
強く、強く…。
一瞬、何があったのか解らないと言った様子の夏流の顔を見つめ、そして…。
俺は静かに彼女に唇を重ねていった。