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静かなる想い  作者: 華南
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静かなる想い その3

静かなる想い その3




(何時から、兄貴は夏流の事を…。

バカな事を考えるな!

だが、あの言い方では夏流に想いを寄せてるとしか思えない。

しかし、まさか、兄貴に限って…。

美樹さんと円満な夫婦関係を築いている兄貴が、そんな事があるハズはない!

それに、もし仮にそうだとしても何時からだ?

兄貴が夏流に好意を抱き始めたのは…)


坂下の家を後にした忍は、車を走行させ病院へと向っていた…。


豪への疑問を抱きながら。




「ああ、美樹、俺だが…。

すまない、急遽、輝との約束が入った。

夕食は輝とすませるから、暁と2人で行ってくれ。」


部下が運転する車の中で豪は、美樹に連絡し、輝と会うべく「一光」に向っていた。

その間、豪は、過去へと想いを巡らせていた。


夏流との甘く切ない過去へ…。




「あ、ああ。

有り難う…」


どうにかお礼を述べる事が出来た俺に夏流は苦笑を漏らした。

どきり、と鼓動が跳ね上がる。


「いいえ。」


俺の様子が楽しいのか、夏流の苦笑は止まる事が無かった。

それに連なって俺も、苦笑を漏らす。

緩やかな空気が2人の回りに流れた。


その時から、俺と夏流との間に流れていた緊張は少しずつ、緩和していった…。




あの出来事があった次の日から、俺は仕事帰りに忍の病院に立ち寄る時には必ず甘いモノを携える様にした。


「こんばんは。

忍の様子は…。」


俺の答えにかぶりを振って、答える。


「…そうか」と短く返答し、そして夏流の目の前に、お菓子の箱を見せる。


突然の俺の行動に、夏流は目を見開きじっと見つめる。

そんな夏流の様子に、俺は目を細め微笑む。


「一緒に食べよう。

それとも、甘いモノは苦手かい?」


最初、戸惑いながらも首を横に振りながら、夏流は俺に微笑んだ。


「…あの、とても大好きです」


少し頬を染めながら答える夏流の様子が可愛らしく、俺は更に笑みを深くした。


「あの、コーヒーで構いませんか?」


「ああ。

ブラックでお願いするよ。」


目の前に行われる夏流の様子を見つめながら俺は、改めて夏流を見つめ直した。

色素の薄い髪に、すらりとした容姿。

一つに束ねた髪を解いて眼鏡を外したら、彼女は誰の目にも留まるだろう。

それ程、夏流は整った顔をしていた。

清楚で無垢で、そして優しい…。


それが夏流に対する俺の印象。


そう…。


あの笑顔を見た瞬間から、俺の脳裏に焼き付いて離れない存在。

美樹と言う婚約者がいながら俺はどうしようもなく夏流に惹かれていくこの想いに、胸を焦がしていた。


「美味しい…」


夏流が入れたコーヒーを口に含んだ瞬間、出た言葉がそれだった。

そんな俺の様子を見て「良かった」と声を少し弾ませる。


「本当に上手いよ。

コーヒーを入れるのがとても上手いね。

丁度いい、味加減だよ。」


正直な感想を述べる俺に夏流も、「このケーキ、とてもクリームがしっとりしていて美味しいです。」と恥ずかしそうに笑顔を浮かべながら言った。


「そうか。

忍もそこのケーキが好きでよく家で食べていた。」


俺の言葉に、少し間があき、そして短く「そうですか…」と悲しそうに微笑む。

夏流の変化に気付いた俺は「すまない」と謝罪した。

俺の言葉に驚いたのか、夏流は思いっきりかぶりを振り、俺の言葉を制した。


「違います!

その…。

坂、いえ、忍さんと一緒にケーキを食べに行った事を思いだして。

だから…!」


「…忍と…。

そうか…。」


夏流の言葉に、俺は心の中に蠢く痛みと、そして芽生え始めている忍への嫉妬を感じていた。

そんな自分の様子に俺は心の中で驚愕し、そして苦い笑みをこぼす。


(ここまで動揺するとは…!

俺とした事が。)


日に日に夏流の存在が、俺の心の中に深く刻まれていった…。




「…ああ、輝か?

後、少しでそちらに着く。」


突如、携帯音が鳴り、夏流との思い出を中断した俺は、電話の主を見て微笑んだ。


「久々に、過去に想いを巡らせていたよ、輝。」


俺の言葉に、少し黙り、そして返事が返って来た。


「そうか…。

まだ、忍君は彼女に会ってないんだな…。」


「ああ…。

だから俺はあいつに揺さぶりをかけた。」


俺の言葉に息を飲んで、そして更に深い声が俺の耳を翳める。


「…お前、本当に何処迄も…」


輝の言葉の意味を感じ取った俺は、淡く微笑んだ。


「ああ。

俺は彼女に誰よりも幸せになって欲しい…!

それが俺の心からの願いだ。」


俺の言葉に輝はそれ以上言葉を紡ぐ事が無かった。

無言が続く輝との会話に俺は、「一光でまたゆっくり語ろう」と一言添え、携帯を切った。

目を閉じ、夏流の優しい笑顔を思い浮かべる。


心の中が温かい想いで満たされていく…。



(君が幸せになるのなら、俺はどんな手を使ってでも君を幸せにするよ…。

喩えそれが忍に想いを気付かせる行為であっても。

それが俺が君に出来る、ただ一つの想いの現れだから…)


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