異世界転生を夢見た奴らのせいで死んだので転生先でそいつら全員をひき殺すことにしました
「異世界から帰って来たんだけどなんか質問ある?」
「俺をこんなクソみたいな世界に戻しやがって!早くあの世界に帰りたい!」
とある男の投稿が、インターネット上を駆け巡った。
男の投稿には数枚の画像が添付されていた。
そこには現実世界ではあり得ないような光景が写っていた。
ファンタジー世界のような街並み。
見慣れない生き物。
現実世界では存在できるはずのない光景。
AIによる生成の痕跡も、
画像修正の痕跡も見つけられなかった。
もちろんそんな検証結果が画像の真実を保証するわけではない。
しかしそんなことはネットの住人たちには関係なかった。
「マジで異世界転生して帰ってきたってこと?」
「これ本物ならヤバくね?」
「俺も異世界行きてぇ!」
男の投稿は瞬く間に拡散され、世界中で大騒ぎになった。
——そして数日後。
男が再び投稿する。
『俺はこんなつまらん世界にいることが耐えられない。もう一度トラックに飛びこんであの世界に戻ろうと思う。チートが生きてなきゃ運良くあの世界に戻れるだろう。人生詰んでる奴ら!一緒に来いよ!待ってるぞ!』
それを最後に男の投稿は止んだ。
その日を境に異世界転生で一発逆転を目指すクソ共が続々とトラックに飛び込んだ。
相次ぐ死亡事故。
運転手たちの離職。
あらゆる物流が停滞していった。
スーパーから商品が消え、
工場の生産は止まり、
病院に必要な物資すら届かなくなっていった。
海は枯れ、地は裂け、あらゆる物流は絶滅したかに見えた。
……だが。
配送者は死滅していなかった。
家族を養うため愛車の〇すゞエルフを駆って一人道路を疾走する男がいた。
自営業者なのである。
エルフのローンが満額近く残っているのだ。
彼の仲間たちは離職による失業や交通事犯によって人生を狂わせていた。
酒浸りで、三日に一回はアルコール検知器に引っかかる優しいベテランのヤマさん。
気に入らない奴は荷受けだろうとぶん殴ってくる、BREAKING DOWN出場を夢見るアツシ。
前科三犯の性犯罪を経て社会に復帰し、ロリータエロ本を読みながら真面目に働いていたタクマ。
みんな気の良い奴らだった。
癖は強いが憎めないやつらだった…
「なんでこんなことになっちまったんだろうな……」
俺はスマホでソシャゲのデイリークエストを消化しながらそんなことを考えていた。
——前を向いた刹那。
一人のデブ男が進行方向に飛び出してきた!
距離およそ50メートル。
まるで海援隊のボーカルのようにこちらを見据えて立ち止まっていた。
ニチャァァァ…
……笑いやがった。
なんて気持ち悪い笑顔してやがんだッ!?
俺は慌ててハンドルを切った。
車体が傾く。
荷台が流れる。
どこかの豆腐屋のように車体は急旋回し、
エルフは道路沿いにあったビルへ突っ込んだ。
「カチコミかぁぁぁぁ!」
「ボケ!コラ!オドレェェェ!」
「タマ取って見ろやコラァァァァ!」
突っ込んだビルの中で怒号が飛び交った。
パンチパーマやスキンヘッドの男たちが大勢ハッスルしている。
……どうやら俺はとんでもない場所に突っ込んじまったらしい。
パンチとスキンが俺の体を強引に車外へ引きずり出した。
俺は本来腕っぷしが強い。
クマを左ジャブで沈められるくらいには腕っぷしが強い。
嫁と付き合うタイミングで喧嘩を禁止されてからは一切手を出さなくなったが決して弱くなったわけじゃない。
パンチとスキンの頭をぶつけてパンスキンにしてやることなんて朝飯前である。
だが今は交通事故の直後だ。
視界がぼやけている。
「オラァァァ!どいつの差し金じゃぁ!吐けカス!」
「楽に死ねると思うなよボケェェ!目閉じんな!目開けろオドレェェ!死ぬなぁァ!」
俺に呼びかけながら胸倉を掴んで体を上下に揺らしてる。
エルフのフロントライトは、
じじじ…
と音を立てながら点滅していた。
「曲がってんじゃねぇよぉぉ!俺をひき殺せよぉぉ!」
あの豚の声だろうか。
遠くから気持ちの悪い声が聞こえた。
俺の周りにいた何人かのパンチパーマが、豚の方へ駆け出していくのが見えた。
気持ちの悪い悲鳴が聞こえる。
ざまぁ……みや……がれ……。
俺は疲れきってしまい、
なんだかとっても眠たくなった。
その時、エルフのフロントライトの光が消えて……。
俺の愛車が爆発した。
俺は……こうして死んでしまったわけだ。
嫁や娘ともっと…
もっと…イオンとかドンキに行き…たかった…な……
…
……
………
――目を覚ますと…
そこはどこまでも広がる無機質な白い空間だった。
「なんだここ……って、俺はどうなったんだ?」
足元には底のない光の床が広がり、
目の前には人間離れした美貌を持ちながらも、どこか冷ややかな光を宿した女が座っていた。
「ようこそ……あなたの肉体は使命を終えました。おや?あなたトラックに飛び込んでませんね?…巻き添えを食って死んだ者が迷いこんでしまったのか……うん!まぁいいや!お詫びに異世界に転生させてあげましょう……」
手をポンと打ちながら女が言った。
「いえ……結構です。できれば家族の元へ帰りたいです。それが無理なら天国に行きたいです」
言い終えた瞬間、どこからともなく発生した高圧電流が轟音とともに俺を直撃した。
「グアァァァァッ!?」
全身を駆け抜ける激痛に痙攣しながら俺は崩れ落ちた。
女は冷ややかな赤い目で、
微塵も同情の色を見せずに言った。
「オイコラ下等生物……黙っていう事聞けよ。女神様である私に手間とらすんじゃねぇぞ……」
「ひっ……!」
全身を恐怖に震わせながら、俺は必死に何度も頷いた。
女神はふぅ、と息をつくと、
急にホラーチックな低い声になり、
ぞっとするような笑みを浮かべた。
「……短編作品なんだからさ…連載作品みたいにじっくりと説明なんてできる訳ねぇだろ!頭を使えって話だ…わかるか?下等生物」
「(コイツやべぇ…逆らうと殺される……!)……はい…すみません」
女神は元の無機質な声に戻して言う
「あなたにはチートを授けます。お詫びの意味も込めて強力なチートを授けてあげますね。必要な時が訪れる度にその力は目覚めるはずです」
「えっと……それってどういう……」
力なんですか?
そう続けようとしたが、
女神の目がカッと赤く光りだしたので俺は慌てて言葉を飲み込んだ。
「あなたと強い縁を持つ運命にある者は、おそらく新たな世界でも呼び合うことになるでしょう……それでは良い人生を……お逝きなさい」
そう告げられた瞬間、俺の身体は霧のようにスーっと消えていった。
気がつくと俺はむせ返るような緑の匂いの中に立っていた。
周囲には耳の尖った美しい男女、
——エルフたちが、怯えた目でこちらを凝視している。
ありがちな赤ん坊スタートではなく、
なぜか俺はいつもの作業着を着たいつもの姿のままだった。
「…なんでいつもの格好なんだよ!」
突っ込みたい気持ちを飲み込み俺は周囲を見回した。
どうやらここはファンタジー感あふれるエルフの里のど真ん中らしい。
そして、里の中心にそびえる神殿の祭壇。
そこに厳かに祀られているものを見た瞬間、俺は我が目を疑った。
——それは神器と呼ぶにはあまりにも大きすぎた。
大きく、重く、ぶ厚く、そして何より、取り回しが悪すぎた。
フロントグリルは武骨で、
サイドミラーは妙に張り出し、
荷台は実用性だけを追求したような無愛想な造りをしていた。
――いす〇・エルフ。
間違いない。
さっきまで俺が乗っていた俺の相棒のエルフだった。
友達が貼っていった「YAZ〇WA」のステッカーも同じ場所に貼ってある。
だがあまりにも大きく、
あまりにも重く、
あまりにも武骨なその姿は見ようによっては神々しくさえあった。
エルフの里の者たちはそれを神器として祀り、
毎日磨き上げ花を供え祈りを捧げていたらしい。
どういう経緯でそんなことになったのかは解らない。
なぜかピカピカに磨かれ、
神聖なオーラをまとったそのトラックと目が合った瞬間、
ジジッ、パチパチ。
嬉しそうにフロントライトを点滅させた。
「お前……俺のこと覚えてるのか……!」
俺が駆け寄ろうとした時、
里の長老らしき老人が顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにし、震えながら近づいてきた。
「き、貴様……人間か!? いや、しかし……」
「あ、俺はトラックの運転手で……」
「聞いてくれ!この我々エルフの生活はあの忌々しい転生者どもに荒らされているのだ!エルフたちは日々、あの人間どもから鬼畜の所業――男女問わず拉致され、陵辱される地獄絵図にさらされておる……!」
長老は地面を叩き血涙を流して吠えた。
随分説明臭い嘆きだった。
「転生者め……この世界を我が物顔で汚す悪魔どもめ……!」
その言葉を聞いた瞬間、
俺の脳裏には俺の人生をめちゃくちゃにしたあのデブ男の顔がフラッシュバックした。
「……まったく同感だな」
俺は拳を握りしめ低く呟いた。
俺の日常もあのクズ共のせいで台なしにされたんだ…
どす黒い怒りがふつふつと湧き上がってきた。
愛する嫁ちゃん…
可愛い可愛い娘ちゃん…
もう2度と会えないんだな…
ダメだ…泣いてしまいそうだ…
——その時、静寂を切り裂くように美しくも無機質なSFさながらのエマージェンシー警報が里中に鳴り響いた。
ご丁寧に赤色灯の赤い光が点滅している。
なお、赤色灯はどこにも見当たらない。
『エマージェンシー!外郭地区に侵入者を検知。クラスA転生者、性的暴欲モード。防衛線を――』
急な世界観の変更に少し戸惑ったが、
なんかもうツッコミを入れるのも疲れてきた。
「くっ、また転生者の悪魔どもが……!」
長老が絶望に顔を歪める。
俺はすたすたと神殿の祭壇へ歩み寄り、祀られた愛車の運転席のドアに手をかけた。
「無駄だっ!その扉は誰が開こうとしてもけして開くことはない……! 何が神器だ!鉄の塊め!」
長老が絶叫する。
相当ストレスが溜まってるんだろうな…
かわいそうに…
ずっと情緒がおかしい。
俺は無造作に右ポケットをまさぐった。
そこに突っ込まれていた見慣れたリモコンキーを取り出した。
ピッ…
乾いた電子音が響き、ロックが解除される。
俺はごく自然にガチャリとドアを開けた。
「……開いたぞ」
「な……ななんとっ……! 救世主じゃ……ワシ等の里に救世主が降臨なさったぁ――ッ!!」
感涙にむせぶ長老をよそに俺はエルフに乗り込み、
キーを差し込んで回した。
ブルルンッ!
ディーゼルエンジンが力強く唸りを上げる。
『マスター。オマチシテイマシタ』
ふいに、脳内に甲高い声が響いた。
「うおっ!? 誰だ!?」
『ワタシハ イ〇ズ・エルフ。ウンテンセキニ スワッテイル トキダケ ネンワガ カノウデス』
まさかの相棒からのテレパシーである。
「お、おう……よろしくな…」
なんだか嬉しくなった。
まだ短い付き合いだが大事な俺の相棒だ。
その相棒と話せるなんて…
そういえば異世界に軽油なんてあるのかな?
燃料補給ってできるのか?
一瞬疑問に思ったが、俺の脳内に女神が授けたというチートの情報がスッと浮かび上がってきた。
『水を軽油に、軽油を真水に変換する能力』
海水だろうが、
汚水だろうが、
泥水だろうが、
なんなら自分の尿だろうが…
あらゆる水分を軽油に変換できるらしい。
逆に軽油を美味い真水に変えることもできる。
便利だ。
でもこの異世界においての俺の使い道はただ一つ。
愛車のエルフの燃料確保と俺の飲料水の確保だけだろう。
安心した俺はハンドルを握る。
「行こうぜ……相棒……」
サングラスをかけ、アクセルを踏み込んだ。
「——駆逐してやる!!この世から…一匹…残らず!!」
エルフのフロントライトが暗闇を切り裂くように力強く点灯し、
異世界の荒野に向けて商用トラックの爆音が轟いた。
外郭地区へ向かう道は荒れ果てていた。
踏み荒らされた畑。
壊された柵。
逃げ惑うエルフたち。
その先に、侵入者がいた。
「なんです!?この世界!こんな可愛いメスガキがいるならもっと早く来ていればよかったですよ!」
男は薄汚れた服を着たエルフの少女を見下ろしながら下卑た笑みを浮かべていた。
「私は選ばれた人間なんですよ。チート能力を授かってこの地に来たんですよ?お前らみたいなモブが逆らえるわけないでしょォォォ」
俺はクズの隣に車をつけて窓を開けた。
「おい、そこのクズ」
男が振り向いた。
「……ん?」
どこかで見たことがある気がした。
男も俺の顔を興味深げに確認している。
「下品な顔だ…虫唾が走る」
とりあえず挑発しておいた。
男は俺とエルフを見比べながら、
「なんですかあなた?人間じゃないですか…あれ!?あなた!転生したんですか?そのトラックどうしたんです?そうだ!私結構強いんですよ!さっきもエルフの男をぶち殺してきたところです!私もそれに乗せて下さいよ!色んなとこを旅して…奪って犯して殺して回りましょうよ!」
血に塗れた剣を見せつけるように男は言った。
「……そうか」
俺はギアを入れながら言う。
「お前の口から出る言葉にヘドが出ることは解った…もういい。お前死んどけ…」
男の顔から笑みが消えた。
「は?あなた一体何を——」
アクセルを踏み込むとエルフは唸りを上げてバックした。
男は魔法を発動させたようだった。
炎が車体を包み込む。
だが、エルフは止まらなかった。
『マスター ワタシニハ ブツリダメージト マホウダメージヲ カンゼンニ ムコウカスル チートノウリョクガ フヨサレテイマス オソレルモノハナニモナイ モットアクセルヲフメバイイ ヤツラヲ クチクスルノダロウ?』
「すげえなエルフ!!おーよ!ぶっ殺してやろうぜ!」
男が手から光弾を放った。
光弾はフロントガラスの俺の目の前でカンっと軽い音を立てて弾かれた。
なんだかよくわからないが好都合だ。
神器として祀られていようが、
こいつは俺にとってローンの残った大切な仕事道具だ。
無敵なら遠慮はいらない。
ギアを入れ替えて俺はアクセルをもう一度踏みこんだ。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァ!」
男が放つ光弾を弾きながらエルフは男に向かって猛スピードで突っ込んでいく。
衝撃!
轟音!
男の身体が宙を舞い地面に叩きつけられた。
「が……はっ……!」
俺はエルフを止め、運転席から降りた。
虫の息のようだった。
俺は少し離れた場所に屈み、胸ポケットに入っていたタバコに火を付けてその姿を眺めていた。
「…お前さぁ…どっかのトラックに飛びこんで死んだクチだろ?誰かに迷惑かけてイキっておいてそのザマかよ!」
俺がそう言って勝ち誇った瞬間だった。
男は急に体を起こし、俺に向かって光弾を放った。
とっさに避けたが光弾は俺の左腕を掠めた。
鮮血が腕から噴き出す。
「…トラックでひくなんてイカれてますねぇ…」
男が淡く光る片手を傷口に当てながら立ち上がる。
男はケガでよろめきながらも出血量ほど弱っていなかった。
回復魔法?
そんなんもあんのかよ…
「車から降りたのが運の尽きでしたね…話も通じないなら死んで下さいよォォ!」
そういうと男は俺に向かって突っ込んできた!
身体に当てた手とは逆の手に持った剣で切り付けてくる…
刹那——
俺は剣を避けながら男の脇腹に右拳をぶち込んだ。
「ゲハァッ!」
男は剣を落とし、両手で腹をおさえながらよろめいた。
「わざわざ車から降りたのはなァ……エルフで轢くだけじゃ俺の気が済まねぇからだよ! お前みたいなクズは直接俺の拳でバチバチに殴らねぇとなァ!!」
そのまま上体で∞の文字を描きながら両の拳を顔面に叩き込みまくった。
右!左!右!左!
まっくのうちっ!まっくのうちっ!
脳内で再生した歓声に俺は俄然やる気を出す。
なんせ久しぶりに人を殴れるんだ。
しかも思い切り。
殺すつもりで。
満面の笑みを浮かべながら俺は男を殴り続けた。
笑い声が自然に口から出てくる。
楽しい!
女の子のすすり泣く声が聴こえた。
さっきのエルフの少女だろう。
きっと自分が助かるってことがわかってホッとしたんだろう。
後で慰めにいってやるか。
そんな事を考えて最後に右足で男の体を蹴り飛ばした。
吹っ飛んでいった男は痙攣している。
手も足も動かせないようだった。
その時ふと思い出した。
そういえば俺も腕を負傷している。
アドレナリンで麻痺していたからか、
殴り終えると急に左腕が痛んだ。
魔法使いや転生者なら標準機能として回復魔法が使えるらしいという知識がどこからともなく頭に浮かんだ。
生命力を魔力に変換して発動し、
失った生命力は一晩寝れば回復するという代物だった。
俺も転生者なんだから、使えるんじゃないか?
俺は自分の腕に手をかざし、適当に念じてみた。
「治れー」
ぼわっと淡い光が灯り、腕の傷がみるみるうちに塞がっていく。
「おお!なんか使えた。仕組みはよくわからんが便利だな!」
俺は雑な感想を抱きながら、男の方へ歩み寄る。
男の顔面は変形していた。
血を吐きながらこちらを睨みつけている。
瀕死状態の男には、もう自分自身を治療する余力など残っていないようだ。
「な……んで……わた…しは……転生…者……なん…ですよ……」
「知るか」
俺は男を見下ろした。
「俺の世界じゃ、お前らみたいなクズのせいで人が死んだんだよ」
(主に俺がな!)
男は何かを言おうとしたが声にならなかった。
俺は拳を握りしめた。
「……死ね」
その瞬間、男の顔が歪んだ。
「ま、待て……俺は……」
「黙れ」
俺は男の言葉を遮った。
「お前らは、自分の人生をやり直したいからって理由で他人様の人生を踏みにじったんだろうが!」
男は目を見開いた…
俺の拳が男の鼻にめりこむと男は動かなくなった。
俺はしばらく男を見下ろしていた。
ヤバい…超気持ちいい!
倒れた男の手元に妙なものが落ちているのが見えた。
見覚えのある独特な記号。
几帳面に折り畳まれたハンカチにビッシリ書きこまれた
「幼女」
という文字。
俺の背筋に、冷たいものが走った。
「——おい」
男の顔を、もう一度見た。
「……お前、まさか……」
記憶が、脳裏を駆け巡る。
酒臭い休憩室。
荷台の隅。
くだらない雑談。
ロリータエロ本を読みながら妙に真面目に仕事をしていた男。
「……タクマ?……タクマ!!」
俺は慌てて男を抱き起こした。
「やっと……思い出して……くれた……」
タクマは血に濡れた顔でかすかに笑った。
「タクマ!しっかりしろ!」
「か、回復魔法を……かけて下さい」
タクマはひん曲がった顔面を向けて俺に頼んだ。
「それは出来ない! ごめん!」
「……え?」
「転生者は全員ぶっ殺すって決めたから! 例外は作れない!ごめん!」
「——え?……」
「タクマー! だからダメだってー! 異世界だからってまた性犯罪やろうとすんのはやりすぎだって!」
「いや……え……その…流れ…的に…こういう時って…」
「ほんとごめん! 回復は無理! でもトドメなら刺すから! どっちがいい!? 轢く!? 殴る!?」
「ふふふ……あなた…ほんと……かわら…な…い…」
タクマの手から力が抜け…
そのまま、力なくこと切れた。
「タクマァァァァァ!」
俺は同僚の死に様に涙を流して泣き叫んだ。
あいつはクズだった。
どうしようもない男だった。
転生してもやっぱりクズだった。
それでも一緒に働いた仲間だった。
だけどやっぱりクズだった。
どこからどう切り取ってもクズだった。
俺はタクマの亡骸を抱きしめ声を上げて泣いた。
その悲しみを鎮魂するかのように相棒であるエルフのクラクションが森の中で寂しくこだましていた。
やがて俺は立ち上がった。
もう涙なんか流していなかった。
タクマの服と荷袋の中をまさぐった。
見たことのない金貨や銀貨が詰めこまれた布の財布。
水と食料。
ここに置いていても仕方ない。
俺が有効活用すればタクマも浮かばれるだろう!
そうだ!それがいい!
戦利品を手に入れてスキップしながらエルフへ戻る。
俺はチート能力で水を軽油に変えて、相棒を労うように給油してやった。
給油中の俺をエルフの少女が遠巻きに見つめていた。
給油が終わった俺は少女に向かって近づいていった。
少女は顔をクシャクシャに歪ませて里に向かって走って行った。
泣いたところを見られたのが恥ずかしかったのだろう。
たぶんそうだ。
俺はエルフの運転席に乗り込みキーを回した。
ブルルンッ。
ディーゼルエンジンが唸った。
「……行くぞ!エルフ!」
俺は前を向いた。
まだ、終わっていない。
俺の人生を奪ったあの豚もどこかで転生しているかもしれない。
ならば、探し出すだけだ。
一匹残らず…。
俺はアクセルを踏み込んだ。
エルフのフロントライトが異世界の闇を切り裂く。
「待ってろよ……クズども」
トラックの爆音が響き渡った。
俺の二度目の人生は、こうして始まった。
「トコロデ マスター コンカイ ワタシ ケッキョク ヒキコロシテナイデスヨ」
…俺たちの戦いはこれからだッ!
最後までお読みいただきありがとうございました!
勢いと悪ノリで書いたブラックコメディです。
メタネタやパロディも含め……
少しでも楽しんでいただけたのであれば幸いです。
色んな界隈の皆様、本当にごめんなさい!
感想などいただけると嬉しいです。
なろうに投稿し始めてから、
まだ評価ポイントをいただいたことがないので、
もし楽しんでいただけたなら、
評価ポイントもいただけると嬉しいです!
嬉しい!です!




