百円の幸福
仕事帰り、自分の想いと重ねて書きました。
あのころの幸せとは、今とどう変わっているのかを。
約二千文字程度となります。宜しければ。
約二ヶ月ぶりの投稿、駄文でしたらすみません
夕暮れ。山の向こうへと日が沈み出したこの時間、私はコツコツと足を鳴らして歩き続ける。
「は~ぁ。・・・・・・今日も疲れたなぁ」
仕事帰りの私は力なく俯いたまま、今にも止まりそうな足どりで歩き続ける。
私は今日も今日とて身を粉にして戦場を生き抜いた。
終わることのないデスクワークから始まり、ご機嫌伺うお客さまへの接待。更には表面上仲良くしながら同僚同士で腹の探り合いだなんて、気の休まる事がない!
「もういっその事、働かなきゃいいのか」
おかげで今にも止まりそうなふらっふらの足どりで家を目指す訳だが、今日はそうはいかない。
その私の想いに応えるように、視界の端で暗くなりだした辺りを一際照らす光を捉える。そう。今日はここに用があるのだ。
私の頬は思わず緩んでいた。
私は先ほどまで力なくだらんと垂れ下がっていた頭を、湧いてきた力でグンッと持ち上げてそちらに目をやる。
そこは家からほど近くにあるおスーパー。家まであと少しだよと教えてくれる目印であり、仕事帰りに自分へのご褒美を購入する、言わば心のオアシス。
「フフフ・・・・・・」
仕事疲れもあるのだろう。込み上げてくる笑いを抑えきれずに肩を揺する。周りからはスーパーの前で一人笑う変な人と思われているかもしれないけど、それでもこの溢れてくる高揚感は収まる気配がない。
私はさっきまでの疲れやしがらみなんて何のその、もはや忘れた勢いでカツカツとヒールをうち鳴らして歩を進める。
店に入れば私は迷うことなく一直線にとある場所へと向かった。
そこには何十種類ものスイーツが並んでいた。
「わぁぁ!どれにしようかなぁ~♪」
私はまるで宝石でも見るように目を輝かせる。
頬が自然とにっこり緩むのを止められない。
ぐぅぅ~~。
「・・・・・・」
仕方ない。仕方ないの。こんなに美味しそうなものが目の前に並んでいるのだから。
思わず鳴ったお腹に少し頬を染めるも、そう自分に言い聞かせて宥める。そんなことよりと。
なんて言ったって今日は金曜日!華金ッ!明日の事なんて考えずに過ごせる日!
お偉いさんやお客にへこへこ気を遣う事も、同僚同士の水面下での睨み合いももうたくさん!
さーて。今回は幾ら分買おうかな~っと。
「フフフ・・・・・・あ」
鼻歌混じりに開いた財布の中、そこには札が一枚もない。
「あれ?あれれ?」
頼みの綱と小銭の方も開くも、百円が一つ転がっているだけ。
「げっ!そうだぁ!上司にムカついてスイーツパーティしちゃったんだった・・・・・・」
二日前イライラした事があってスイーツを買い込んで食べたんだった。
私はショックのあまり思考停止して、無意識に財布を揺する。それでも百円玉以外現れるはずもなく、百円玉がひとり財布の中を行ったり来たりと虚しく転がるだけだった。
「まだ給料日まで一週間もあるじゃん・・・・・・」
もちろん銀行にはお金があるが、それは今月の貯金分。一人暮らしなのでそれを崩せば、次もいいだろうと手を出してしまう可能性がある。
再び襲う疲労感がさっきよりも重く感じる。
「うーん」
クレカを切る?いやいや、簡単に使うのは良くない。
それでも金曜日の高揚感、特別感を失いたくない。
「あっ、そうだ」
私はポンッと手を叩いて歩き始める。
それは先ほどよりも早く、そしてステップを踏むように弾む。
ワクワクが疲労を凌駕して、もはや人目もはばからずスキップでもしているかのように軽い。
そして私はひとつの陳列棚案内板を確認して曲がり、そのコーナーに入る。
「あった!」
そのコーナーの一角、私は探していたものを見つけて歓喜の声をあげた。
それは小さな菓子類が集まるコーナー。そこに陳列しているのは駄菓子屋で昔っからある顔なじみの数々。
「懐かしい・・・・・・」
まるでそのコーナーだけタイムスリップしたかのような感覚に、私はしゃがみこんむ。そして子供の頃のように無邪気に目を輝かせて近くの小さな正方形型のチョコと手に取る。
「少し値上がりしちゃったけど、それでも安い」
どの商品もほとんどが百円未満で買うことが出来る。
私の虚しい財布でも買える小さな幸福。
「あ、これ、値上がりしても十五円なんだ。チョップで四等分して友達とわけあったなあ。あっ、これ!大人に憧れて買ってたやつ!まだ四十円!?全然買えるよ!」
昔なんてショートケーキ一つですら親にせがむか、なけなしの小遣いを使って買っていた。
大人になってから自分でお金を稼いでいるとついつい忘れてしまっている。
別に数千円のフレンチや、数百円のケーキを何個も買わなくったって、自分の幸福が満たされるということに。
「これも好きなんだけど・・・・・・百円しかないからなあ」
でもそうやって悩むことにすら幸福を覚えた。
百円以内でどれを買おうかと悩む、子供の頃と同じ境遇にいるのだ。
「うーん、今日はこれとこれとこれ!」
私は決めたそれを抱えて、名残り惜しくもその場から立ち上がる。
チラりと後ろに目をやれば、私が居た所に一人の少年。
彼もまた、その場に座り込んで、宝石箱でも見るように目を輝かせて目の前の駄菓子を吟味する。
私は大人だ。目の前の懐かしい光景に浸るのもいいが、次の世代の子の邪魔をするわけにはいかない。
最近では駄菓子屋が無くなり、スーパーの中でしか買えないようになってきたとしても、あの少年にとっての駄菓子屋はあそこなんだ。
そして、今度は少年が大人になった時、「懐かしい」と思える光景でありますようにと願って。
私は緩む頬と共に前を向いて再び歩きだす。
「さっ、今日もパーティーだ!」
私はお菓子を宝物を抱くように大切にしながら、その場を後にした。




