01-02.記憶喪失の猫耳メイド
うお! ゲキマブ美少女! 私か!
「顔を洗ってください。また移動します」
隣でもう一人の美少女が顔を洗っている。
少女が魔法で張ってくれた水面には、朝日と共に私の顔が映り込んでいる。猫耳の生えた美少女だ。とにもかくにも美少女だ。私可愛い♪ 超可愛い♪ うっとり♪
「……可愛いですね」
でっしょ~♪
うん? あれ? 何処見てるん? ……ああ。尻尾か。
ふふ♪ これも可愛い♪ ぴょこぴょこ♪
「ふふ♪」
「にゃはは♪」
美少女と笑い合う。なんと素晴らしき朝。お腹空いた。
ぐ~~~~。
「ぷっ!」
にゃはは♪
「食事はもう少し待ってくださいね♪」
あらま。
「行きましょう♪ 美味しい朝ごはんを食べに♪」
えいえいおー!
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「スフィアと呼んでください♪」
スフィア。スフィア。スフィア。よし。覚えた。
「お名前を教えてくださいますか?」
「?」
私の名前って? なんだっけ?
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かくかくしかじか。
「覚えていない? 名前だけでなく何もかも? ローゼンバーグ伯爵令嬢の事も覚えていないのですか?」
誰やねん。
「あなたの雇い主です」
あ、そっか。居たのか。あの場に。……大丈夫かな?
「ご安心を。心配は無用です」
あらま。そうなの?
「そうですね。先に説明しておくべきですね」
ちょっと言いづらそう。
「この国……ノルド王国は……猫耳族にとって住みよい国とは言い難いのです」
ああ。察し。
要するに誰も気にしないのだろう。所詮は道具。野蛮な何かとしか思われていないのだ。
「……すみません」
「気にしないニャ♪」
ペロペロ♪
「ひゃっ♪ くすぐったいです♪」
うん? あれ? ……私今何やった?
「えへへ♪ 驚きました♪ 今のって猫耳族流の親愛表現ですよね♪ とっても嬉しいです♪ ペロペロ♪」
「ニャニャッ!? シャー!!!」
「なんでぇ!?」
シャー!!!
……うん? 私何してんの? (二回目)
「……ごめんにゃ」
違うんです……。なんか身体が勝手に……。
まさか元の人格か? 実は意識が残ってる?
「い、いえ。こちらこそ。失礼しました」
なんだか気まずい空気になってしまった。
「聞いたことがあります。『シャー』は怒りだけでなく、単純に驚いた場合にも出ることがあると」
なるほど。本能的なやつなのか。そりゃしゃあにゃい。
「ですから!」
お、おう。
「私が嫌われたわけではない筈なのです!!」
別に嫌ってないにゃ。
「ですよね!!」
近い近い。
「む~」
もどかしそう。
「お腹空いた」
「はい♪ 行きましょう♪」
スフィアは私の手を握って歩き出した。
「あ、名前」
そういえばわからないままだったね。
「アズキ」
「思い出したのですか!」
「うんにゃ。なんとなく」
そんな名前の猫ちゃんでも飼っていたのかしら?
「素敵なお名前ですね♪」
「スフィアも」
「ありがとうございます♪」
いちゃこらさっさ♪
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「うみゃぁ~~~~~!!!」
何これ何これ何これぇ!?
舌が! 舌が震えている!! 感動に打ち震えている!!
そう!! まるで!!!
人生で初めてまともな料理を食べたかのように!!!
「いっぱい食べてくださいね♪」
ガツガツガツガツガツ!!!
「聞いてませんね♪ ふふ♪ 良い食べっぷりです♪」
ガツガツガツガツガツ!!!
ガツガツガツガツガツ!!!
ガツガツガツガツガツ!!!
「流石に食べ過ぎでは?」
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「ふぃ~~~けっぷ」
「まんまるですね♪」
お腹撫でないで。そこに赤子はいません。
「にゃふ~♪」
なんだか眠くなってきたなぁ~。
「お部屋に移動しましょうか♪」
ここは宿屋の食堂だった。スフィアに手を引かれて二階の部屋へと移動した。
「先に起きても部屋から出てはいけませんよ」
食事中もフード外させてくれなかったもんね。獣人だってバレたら叩き出されちゃうのかしら?
「外に出たい時は遠慮なく起こしちゃってください♪」
「うんにゃ」
本当に遠慮なく叩き起こさせてもらいましょう。一人で出歩く勇気なんてないし。
「おやすみなさい♪ アズキ♪」
「おやすみ。スフィ……zzz」
「まあ♪ ふふ♪」
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「……にゃ?」
あれ? あの子は?
「~~~……zzz」
あらま。落ちちゃってる。
美少女お嬢様なのに寝相が悪いのね。
しゃあにゃい。ベッドに戻してあげよう。
「うんにゃ」
ひょい。
ありゃ?
すっごい力持ち♪ 少女の身体が簡単に持ち上がった♪
少女をベッドに寝かせ、自分も再び布団に入る。
「zzz」
全然起きる気配がない。緩みきった寝顔だ。涎まで垂らしちゃって。それでも美少女が崩れない。不思議。
さて。そろそろ真面目に考えよう。
ここはどこだ? 私は誰だ?
ううん。今更そんなことはどうでもいい。問題はこれからどうするかだ。
このまま少女の紐として生きていく?
なんか普通に世話してくれそうなんだよね。この子も寂しいのかしら? なんか元から一人で旅立つつもりだったっぽいもんね。道連れが出来て素直に嬉しいのだろう。この子自身は獣人への偏見とかもないっぽいし。
いやしかし。このまま世話になりっぱなしってわけにもいかんだろう。流石に。常識で考えて。顔向けする世間様もいないけど。何せ顔出せないからね。世知辛い世のにゃかだ。ニャン。
にゃにか仕事考えんと。
魔法がある異世界だし、冒険者的な職業もあるのでは? 私もなれるかしら? ちょっと楽しみ。
それかだ。メイドとしての本分を全うするという手もあるよね。この子に正式雇用してもらおう。お仕事頑張るぞい♪
……いやいや。私家事とか出来ないし。そしてたぶん少女はこのまま国の外に逃げるつもりだ。しかも準備万端。旅の世話とか必要なさそう。なんなら世話が必要なのは私の方。
どうしたもんかなぁ~。
「えへへ~……あじゅき~……しゅき~……zzz」
チョロいな。
しゃあない。もう暫く側に居てあげよう。身の振り方は追々考えていくとしよう。




