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今宵薬局  作者: 蟷螂
9/10

第2話 時の顆粒 2−4

ギリ投稿時間に間に合いました


4


その一週間後。


健太は会社で倒れた。


会議中、突然意識が遠のき、その場に崩れ落ちた。同僚たちが慌てて駆け寄り、救急車を呼んだ。


病院で目を覚ましたとき、健太の隣には美香がいた。泣きはらした目で、健太を見つめていた。


「健太……」


「美香……」


健太の声は掠れていた。


「お医者さんが言ってたわ。過労だって。このまま働き続けたら、本当に危なかったって」


美香の涙が、健太の手に落ちた。


「なんで、そんなに無理するの? 仕事も家族も大事だけど、あなたの体はもっと大事なのよ」


健太は何も言えなかった。


「ひまりも心配してる。パパが最近怖いって、私に言ったの」


健太の胸が締め付けられた。


「怖い……?」


「うん。いつも疲れた顔してて、笑顔が引きつってて、何か無理してるみたいで怖いって」


健太は天井を見つめた。


時間を増やしてきた。家族のため、仕事のため。でも、さらに忙しくなるだけ。


むしろ、家族を心配させ、自分の体を壊してしまった。


何のために、時間を増やしてきたんだろう。


その夜、健太は病院のベッドで考え続けた。


問題は、時間が足りないことじゃなかった。


問題は、全てに応えようとしたことだった。


仕事も家族も大切。でも、全てに全力を注ぐことはできない。何かを選ばなければならない。


そして、自分自身のことも大切にしなければならない。


健太は鞄から「時の顆粒」の箱を取り出した。まだ、11袋残っている。


これがあれば、また時間を作れる。でも、それは本当に必要なことなのか。


健太は立ち上がり、病室の窓を開けた。夜風が、病室に流れ込んできた。


そして、箱をゴミ箱に捨てた。


もう、いらない。


必要なのは、時間を増やすことじゃない。時間の使い方を、見直すことだ。


5


退院した健太は、生活を変えた。


まず、上司に相談した。


「部長、正直に言います。今の仕事量は、僕にはキャパオーバーです。新しいプロジェクトは、他の人に任せていただけませんか」


上司は少し驚いた顔をして、困った顔をする。


「それは困るよ。君が有能だから新しいプロジェクトに推挙したんだよ。」


木村はあからさまに不機嫌そうな顔をする。

いつもの手だ。いつもならそれで健太は意見を取り下げてきた。


しかし


机の下、健太は右手で自分の太ももをおもっきりつねった。

その痛みで自分を叱咤する。


そしておずおずと答える。


「木村部長が私を買ってくれているのは感謝します。しかし、私はもう、もう限界に来ています。このままですと、私の身体が壊れるだけではありません。複数のプロジェクトそのものが瓦解します。ここで見直さないと、会社に大きな損害が発生します。」


「君には無理をさせていると思うが、うちも人手が足りないんだよ。」


難色を示す木村部長とそれから1時間以上協議して何とか新しいプロジェクトから外してもらった。木村部長は渋い顔をしたままだ。今後の査定に響くかもしれないが、無理をして自分が倒れたら結果はもっとひどい有様になっていただろう。



次に、家族との時間の使い方を見直した。


毎日全てに応えようとするのではなく、週に何日かは「家族の日」を作る。その日は、仕事を早く切り上げて、家族と過ごす。


そして、週に1日は「自分の日」を作った。趣味の読書をしたり、ジョギングをしたり。自分を労る時間。


最初は罪悪感があった。でも、休むことも大切なのだと気づいた。


ある日曜日、健太はひまりとふたりで公園に行った。


ブランコに乗りながら、ひまりが言った。


「パパ、最近元気になったね」


「そう?」


「うん。前はなんか怖かったけど、今は優しいパパに戻ったよ」


ひまりは笑顔で言った。健太は娘の頭を撫でた。


「ごめんな、ひまり。パパ、ちょっと無理しすぎてた」


「でも、今は大丈夫?」


「うん、大丈夫」


健太は心から笑った。


「これからは、ちゃんとひまりとの時間も作るから」


「本当?」


「本当」


ひまりは嬉しそうに笑った。


夕方、家に帰ると、美香が夕飯を作っていた。


「手伝おうか?」


「ううん、今日は大丈夫。健太、ゆっくり休んでて」


美香は優しく笑った。


健太はソファに座り、窓の外を見た。夕焼けが、街を染めている。


時間は限られている。でも、その限られた時間をどう使うかは、自分次第だ。


全てに応えることはできない。でも、大切なものを選び、その時間を大切にすることはできる。


そして、自分自身も大切にすること。


それが、本当の時間の使い方なのだと、健太は気づいた。


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