第1話 声ののど飴 1−5
追記 すいません、1-4と一部重複してました
これで第1話の完結編となります。
7
一ヶ月後。
美咲は会議室で、新しい企画のプレゼンをしていた。
今回の企画は地元の老舗和菓子店。若い世代に向けた新商品のプロモーション案だ。
「私たちが提案するのは、『伝統と革新の融合』です」
美咲の声は、落ち着いていて、でもはっきりしていた。
「InstagramとTikTokを使った若年層へのアプローチに加え、店舗での体験型イベントを組み合わせます。オンラインで興味を持ってもらい、オフラインで実際に商品を体験してもらう。この循環が、ブランドへの愛着を生みます」
木村部長だけでなく、三島企画部長も満足そうに頷いた。
「素晴らしいじゃないか。この案で行きましょう」
会議が終わり、木村部長が美咲に声をかけた。
「田村、最近本当に成長したな。提案も的確だし、周りとの関係も良好だ」
「ありがとうございます」
「来月から、新しいチームのリーダーをやってもらいたい。どうだ?」
美咲の目が輝いた。
「本当ですか!」
「ああ。期待してるぞ」
デスクに戻ると、麻衣が駆け寄ってきた。
「美咲、聞いたよ! リーダーだって! すごいじゃん!」
「ありがとう、麻衣」
二人は笑い合った。
その日の帰り道、美咲はあの路地を通りかかった。
でも、そこには薬局はなかった。古びた建物が並んでいるだけ。シャッターは全て閉まっていて、「今宵薬局」の看板も見当たらない。
美咲は少し寂しく思った。でも、微笑んだ。
もう、薬局は必要ない。声は、自分の中にある。
美咲はポケットから小箱……ではなく、普通ののど飴を取り出した。コンビニで買った、レモン味の飴だ。
口に含むと、爽やかな酸味が広がった。
これで十分だ。
美咲は前を向いて、駅へと歩いていった。
夜風が、優しく背中を押してくれる気がした。
心の中で、小さく呟く。
「ありがとう、今宵薬局の店主さん。私、ちゃんと自分の声を見つけられました」
遠くで、鈴の音が聞こえた気がした。
今宵薬局。
店の奥で、「 」は水晶球を眺めていた。
球の中には、美咲の姿が映っている。リーダーとなり、みんなを引っ張っていく様子。
「お客さまはようやく伝えたいことがが言えるようになったようです」
「 」は微笑んだ。
「本音というわがままを伝えるべきことを取り違えて周囲と軋轢を生んだ時はヒヤヒヤしましたが、ただ本音を言うことが相手に伝えるべきことではないと理解されたようです」
水晶球の中で、美咲が自信を持ちにこやかに働いている様子は、処方箋を渡した「 」にとっても喜ばしいことだ。
「もう彼女に声ののど飴は必要ないですね」
「 」は水晶球を布で覆い、静かに店の明かりを消した。
次の、困りごとを抱えてこの店を見つけるお客さまが現れるまで。
「 」は、静かに待ち続ける。
声ののど飴 -了-
第1話 声ののど飴 書き終わりましたが、いかがだったでしょうか。
話は第9話までは大まかな内容で書き終わっているので、今後も投稿していくつもりです。
次は第2話となります。第1話を読んで、続きも読んでも良いよという方は、今後もよしなにお願いいたします。




