表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推し騎士 SSまとめ  作者: 緑名紺


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/6

書籍1巻発売記念SS 周年式典に向けて


書籍1巻の発売時に活動報告に載せたSSです。


※トーラ視点



「騎士団創設後の使い魔の初討伐から五年……今年の周年式典は、俺たちの活動を支えてくれる国民のために特別なことをしようと思うんだ! これは女王陛下のご意向でもある!」


 トップ騎士会議も後半に差し掛かった頃、アステルがここぞとばかりに新しい議題を挙げた。

 それを合図にジュリアンが他の四名に企画書を配り始める。その酷薄な笑みに会議室の空気が変わった。

 あれは、皆の嫌がる反応を楽しみにしている時の顔だ。


 俺は身構えた。

 星灯騎士団の周年式典は女王陛下が主催しているため、さすがに不参加というわけにはいかない。

 一体何をさせられるのか……。


「ファンへのアンケートの結果、みんなは俺たちに歌って踊ってほしいみたいだから、今回はそれを叶えてライブコンサートを――」

「却下だっ!」


 俺は勢いよく企画書、もとい、楽譜と振り付け図の上に拳を落とした。


「いけませんね、トーラ。我らが偉大な団長のお言葉を遮るとは。万死に値しますよ?」

「うるせぇよ! 最後まで聞く価値もねぇ! どこの世界に歌って踊る騎士がいるんだ!?」


 この組織はおかしい。

 国民から魔力を譲り受けて強化し、凶悪な魔女の使い魔と戦う騎士団。

 使い魔の特性上、顔立ちの整った若い男ばかりで構成され、恋愛禁止という規則が設けられるところまでは分かる。

 しかしいつからかファンの女を姫君として扱い、過剰なファンサービスを行うようになり、グッズ販売にイベント開催、果ては飲食店まで経営し始めた。

 どうしてこうなった。


 そもそも、なんで騎士団の式典に一般人を招いて観覧させるんだよ。

 意味が分からねぇ。国家レベルではしゃぎ過ぎだ。

 騎士とは何か。ここ数年、俺はずっとその問いに悩まされている。


「考え直せ、アステル。せめて騎士らしく剣舞とか模擬試合とか――」

「ごめんな、トーラ。もう全部決裁済みで、曲の制作もダンスの振り付けも騎士団の予算で発注したから、やらないわけにはいかないんだ。衣装は女王陛下と王太子殿下がポケットマネーで用意してくれる。ものすごく楽しみにされてーー」

「事後承諾じゃねぇか、クソ! ふざけんなよ!」


 ジュリアンがにこやかに殺気立った。


「一死目は何がいいですかー?」


 上等だ、コラ。

 俺が睨み返すと、途端に会議室の空気がピリピリした。


「まぁまぁ、トーラ、せっかくの五周年。楽しくやろう。歌って踊れる騎士がいてもいいじゃないか」


 リナルドが馴れ馴れしく肩を組んできたので振り払う。それでもこいつはめげない。


「これはいい企画だ! 俺の美声と長い脚を存分にアピールできる。姫君たちも喜んでくれるだろうし、俺たちの連携も深まるさ! ミューマとバルタもそう思うだろう?」


 その後、訪れたのは沈黙だった。

 乗り気なのはリナルドだけで、俺は心底ほっとしていた。

 ミューマとバルタは困ったように顔をしかめている。これならばまだ勝機はある。


「僕、踊りも歌もちょっと……自信ないし恥ずかしい」

「いろいろ覚えるのが面倒だな。ファンを楽しませたいなら、去年と同じゲーム大会だけでいいのによ。歌なら恒例の騎士団歌の斉唱もあるだろ?」


 俺は同意の頷きをする。個人的には団歌斉唱も嫌いだが、口パクで誤魔化せるし短いからまだマシだ。


「どうしてもダメか? サプライズで新しいことをして、みんなを喜ばせたいんだ。ダンスは簡単なものに変えてもらうから」

「ごめんね、アステル。どう考えても無理」

「オレたちド素人だしな。観客を喜ばせるレベルのパフォーマンスにするのがどれだけ大変か……得意な奴だけでやれよ」


 アステルが賛同を得られずに落ち込んだ顔をする。

 一般人なら心が痛んで慌てるだろうが、この程度で意見を翻す奴はこの会議室にはいない。


 別にアステルやリナルドが歌って踊る分にはどうでもいい。

 いや、正直に言えば恥ずかしいし視界にも入れたくないが、そこまでの贅沢は望まねぇ。

 ただ、その気のない俺たちを巻き込まずにいてくれれば……。


 皆の意志が固いとみると、アステルは肩を落とした。


「そうか。残念だ。じゃあ他のメンバーを募集する。できればトップ騎士には全員参加してほしかったけど」

「アステル様、ここは私にお任せを」


 ここぞとばかりに前に出たのは、言わずもがなジュリアンである。

 アステルを喜ばせるためならば他者の尊厳など簡単に踏みにじる外道だ。「絶対に譲らない」という強い心を持って立ち向かわねばならない。魔王と戦う勇者一行になったかのように、俺たちは団結を余儀なくされた。


「ミューマ。あなたは最低限の振りと少しのソロパートだけ頑張ってくれれば、後は魔術で舞台演出をしてくれればいいですよ」

「ソロパートがある時点で嫌だよ。もっと目立つのが好きな騎士を誘えば?」

「……集団共鳴魔術の検証をする良い機会だと思ったんですがねぇ。王家から既に実験の許可はいただいているのに」

「!」


 ミューマの顔つきが変わった。まずい。


「我々のステージに狂喜乱舞する観客たちからは、例の属性エネルギーの観測も期待できるでしょうね。先日あなたが提出した魔術理論のデータ収集に、これほど適した場はないのでは?」

「…………」

「最高の条件で実験を行うには、我々トップ騎士が揃ってライブを行う必要があると思います。それに、国家主催のビッグイベントですから予算は山ほどありますよ。どうでしょう? 気が変わりません?」

「…………分かったよ。やればいいんでしょ。これも騎士団のためだからね」

「おい!」


 団結はものの数十秒で打ち崩された。


「本当か、ミューマ。すごく嬉しい! 俺たちにとっても良い思い出になりそうだな!」


 ダメ押しとばかりにアステルが満面の笑顔で喜ぶと、ミューマはもう完全に取り込まれてしまった。

 それどころか、


「ねぇ、バルタ。新しい試みが面倒だって言うけど、年下の僕らに厄介事を押し付けて一人で高みの見物なんて良心が咎めない? バルタってそういう人だっけ?」

「ああ?」

「お願い、力を貸して。トップ騎士最年長のバルタが一緒に頑張ってくれたら、僕も恥ずかしさが半減して正気を保っていられると思うんだ」


 とんでもない暴論でバルタを勧誘し始めた。この裏切り者!


「おいおい、道連れに一緒に恥をかけって言いてぇのか?」

「うん。見捨てたら許さない。バルタなら僕を助けてくれるよね?」


 天使のような顔で恐ろしいことを宣うミューマに見つめられ、バルタがたじろぐ。

 ダメだ、バルタは子どもに頼られるとめっぽう弱い。それを分かってやがる。


「おい待て――」

「みんなで歌って踊って騒いだらきっと打ち上げのお酒も美味しいよ」

「そうだな! 今年の打ち上げは盛大にしよう!」

「酒は最高級のものを用意するとお約束します」


 ミューマ、アステル、ジュリアンに畳みかけられて、バルタは気怠そうに椅子の背もたれに体を預けた。そして長いため息を吐く。


「……仕方ねぇな。若い奴にそこまで言われて固辞するのも粋じゃねぇ。今回だけだぞ」


 あっという間にバルタも陥落してしまった。やらない方が面倒なことになると悟ったらしい。

 アステルはにこにこ、ジュリアンはにやにやしながら増えた仲間を喜んでやがる。そしてしばらく静観していたリナルドが俺にウインクをした。


「最初からこうなるって分かっていたじゃないか。トーラも早く楽になったらどうだい?」

「うるせぇ! 俺は絶対にやらない! 馬鹿は五人もいりゃ十分だろ!」


 頑なな俺に対し、ジュリアンが鼻で笑う。


「そんなに拒絶するなんて、よほど苦手なんですねぇ。もしかして音痴? リズム感皆無でダンスのステップもまともに踏めないとか? だとしたら、無理矢理ステージにあげるのは可哀想ですね? イベントが盛り下がってしまうでしょうし? またアステル様に勝てないジャンルが増えるだけですし?」


 くっ、語尾を疑問形にして煽る口調、めっちゃムカつく! シンプルにぶん殴りてぇ!

 しかし我慢だ。挑発に乗ったらジュリアンの思う壺になる。


「別に、音痴だリズム感皆無だと思われてもいいし、こんなことでアステルに負けようが何も悔しくねぇよ」

「ようやく自分が無能だと認めるんですね?」

「そこまで言ってねぇだろ!」


 はっ、しまった。堪えないと。冷静に、冷静に。


「……女王陛下のためだ、式典には顔を出す。それが最低限の譲歩だ。そのライブコンサートとやらには絶対に出ない。お前ら五人と希望者だけでやればいいだろ」

「トーラだけ出ないなんて一番ダメだ!」


 俺がこの話を終わらせようとすると、今度はアステルが食い下がった。


「いつもトーラは真面目な式典と武闘系のイベント以外出てくれないだろう。他のトップ騎士は全員参加するのに、またトーラだけ不参加だったら……トーラのファンがすごく残念がる。俺はみんなを笑顔にしたいんだ」

「知らねぇよ、そんなこと!」


 むしろ俺が歌って踊ればファンが喜ぶとでも?

 また解釈違いだのイメージが壊れただの言うんじゃねぇか?

 人を笑顔にするのと笑われるんじゃ大違いだが?


 様々な反論が脳裏をよぎったが、それらを口にする前にアステルがいつになく真剣な表情で立ち上がった。


「この手は使いたくなかったが、仕方ない……」

「っ!」


 俺は息を呑む。

 記憶にない赤子時代も含め、アステルとは二十年来の付き合いだが、何かを命令されたことも強要されたことも一度だってない。

 王族と臣下の騎士の家系、騎士団長と一騎士という関係でありながらも、まるで対等な立場のように言葉を交わしてきたし、普段の俺の態度は王子への敬意の欠片もない酷いものだ。  

 それを許すどころか、気にも留めていなかったアステルが……。


 王族として、騎士団長として、俺に厳命するのかもしれない。これまでの温い関係をぶち壊して、はっきりと上下関係を示すつもりか。

 ……え、こんなことで?

 そんな戸惑いが俺の判断力を鈍らせた。


「トーラ、一緒にライブに出てくれ! 一生のお願いだ!」


 曇りひとつない澄んだ瞳。懇願するような声。

 不覚にも虚を突かれた。あらゆる戦意が喪失した瞬間である。


「こんなくだらねぇことで使うんじゃねぇよ……!」


 俺をこの騎士団に誘った時だって使わなかったじゃねぇか!

 そもそも一生のお願いって、ガキか!

 こんな、こんなことで……。


 謎の哀しみで心が折れ、途方もない虚脱感に襲われる。

 なんかもう、全てがどうでもいい。


「もういい、面倒くせぇ。やってやろうじゃねぇか……」

「いいのか!? ……無理してないか?」

「多少無理しないと、新しいことはできねぇだろ……もういいんだ、俺のイメージ全部ぶち壊してやる……」


 自暴自棄になって承諾すると、アステルは心配しながらも「一緒に頑張ろうな!」と意気込んだ。

 俺は誰とも目を合わさないように俯く。

 多分ジュリアン辺りが笑いをこらえているだろう。それを見てしまったら今度こそ拳が出る。


「あーあ、トーラが病んじゃった」

「ちょっと可哀想だね」

「はっ、自分の殻を破るいい機会だろうよ」


 リナルド、ミューマ、バルタが好き勝手に言っているが、全部無視した。

 本当に、もうどうにでもなればいいんだ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ